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誘拐

昨日の続きです。

あれ? 私は何をしていたんだっけ?

その瞬間に思い出した。そうだ、私、誰かに殴られて、それで、どうしたんだっけ?


シマキ様!


周りを見渡しても誰もいなかった。

この部屋に入ってきた複数の侵入者たちも、誰もいない。

私は、一体どのくらい意識を失っていたのだろうと、恐ろしくなる。

窓の外が暗いことから、夜は明けてないことはわかったが、あれからどれくらいの時間が経っているのかが全くわからなかった。念のため、部屋の至る所を探したが、シマキ様はいない。

矢張り、誘拐されてしまったのだろう。

私の失態だ。

気を緩めすぎて、侵入者の気配に気づけなかった。


此処まで考えて、頭をブンブンと振る。

いまは、後悔している場合ではない。一刻も早くシマキ様の居場所を突き止めないと、大変なことになる。

まずは、この学園の護衛騎士に報告して、それからペールン公爵にも報告しなければならない。

兎に角、人手が必要だ。


ベッドの下に隠してある真剣を腰に付けて、スカートの下にも小刀を隠すように付ける。靴もいつもと違う少し重い物に履き替えたら、準備万端だ。

深呼吸して部屋を出ようと、扉に手をかけた時ヒラヒラと何かが落ちた。

それは一枚の紙だった。

扉の間に挟んであったらしい、その紙には乱雑に字が書かれている。その内容を理解して、目を見開く。


『返して欲しければ、誰にも告げず学園の倉庫にひとりで来い』


恐らく誘拐犯たちが書いたものだ。この紙の存在で、シマキ様が誘拐されたことは確定してしまった。

知らず手に力を入れてしまい、紙がぐしゃりと音を立てて丸まった。

許せない。

頭に血が上るのが自分でもわかった。冷静な判断が出来なくなりそうになるのを必死で堪えて、また深呼吸をした。

落ち着こう。怒り狂っても仕方ない。

いまはシマキ様を助けることだけを考えるんだ。


それにしても、この手紙、身代金の要求もないし、一体何が目的なのだろう。もしかして、シマキ様を力ずくでも手に入れたい奴等の犯行か? なら、こんな手紙を置いていく意図がわからない。

そもそも、なんで学園の倉庫を指定したのだろう。誘拐したのなら、学園の外へ連れ出す方が犯人たちにとっては都合がいいはずだ。


明らかにおかしい。

罠かもしれない‥‥‥いや、確実に罠だろう。

迷ったのは一瞬だった。例え、罠であろうとシマキ様がいる可能性があるのなら行く。

それが結論だ。


私は今度こそ、部屋の扉を開けた。




◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉




学園の倉庫は、寮から少し離れた場所にある。影に隠れるようにして建てられているそこは、変な物音がするとか、人影を見たとか、怖い噂話が絶えない場所だった。だから、用がない限り、誰も立ち寄らない。


お化けが出そうなこんな夜は、特にそうだろう。


倉庫の近くまで行くと、草むらに隠れて様子を伺った。扉の前に二人の体格の良い男がいた。

多分、部屋に押し入ってきた男のうちの二人だろう。

私とは体格が違いすぎるため、力で押し切られたらまず勝てない。此処は一旦、様子を見ながらあの見張りの男に話しかけた方がいいだろう。私が気配を消して近づくと、二人の男は驚いたような顔をしていた。


「シマキ様は何処だ?」

「あ、嗚呼、中にいるよ」


男は狼狽したようにそう言うと、あっさりと倉庫の扉を開けた。

おかしい。

私の腰についた剣を取り上げないことが、なによりもおかしい。普通、武器になるものは取り上げるはずだ。そう思ったから、態々スカートの下に隠して小刀を持ってきたのだ。

そもそも、なんで男二人の方が狼狽してるんだ。誘拐したのは其方なのに、何を今更恐れているんだ。

そう考えていた時、真っ暗だった倉庫の中に月明かりが入り、様子が見えるようになった。

私は、その瞬間に剣を抜いた。

中にいた男と合わせて五人。倒せるかは分からないが倒さねばならない。

だって、倉庫の奥でシマキ様が倒れていたから。


──シマキ様が襲われた時だけは、貴族であろうとなかろうと反抗しなければいけない。


男たちも、私を見て次々に剣を抜いた。一斉に襲いかかってきたところをひとりは隠していた小刀を投げることで対応した。小刀は狙い通り男の肩に刺さり、敵はあと四人。

前と後ろから二人づつ切り掛かってきたが、後ろの二人は足をかけて転ばせて、靴に忍ばせておいた刃物で素早く男たちの局部を踏みつける。あと二人。

そして、前から切り掛かってきた二人に対しては、剣で受け止めた。

とここで、またおかしいと思う。

この男たち、気配は完璧に消せていたのに剣の腕前ははっきり言って素人レベルだ。


力の掛け方が下手くそすぎる。


だが、いくら下手でも二人分の力をひとりで受け止めるのはしんどいので、そのうちのひとりの男の腹を蹴り上げた。靴に仕込んでいた刃物が男の腹に刺さった後、彼は吹っ飛んだ。

あと一人。

一対一なら負ける気はしなかった。

受け止めていた剣を弾き返すと、すぐに後ろへ回り込み男の首を切った。


大柄で五人もいた男たちとの戦いは、拍子抜けするほどあっさりと終わった。

まるで、態と手を抜かれたような戦い方だった。

だとしたら、何のために?


「ゔっ」


倒れていたシマキ様の呻き声が聞こえて、一瞬で男のことなどどうでも良くなった。


「シマキ様っ!」


近寄って抱き起こすと、あまりの光景に頭が真っ白になる。


「うぅっ‥‥‥あっ、あれ? ここは‥‥‥ダリア? どうしたの? そんな泣きそうな顔をして」

「シマキ様っ‥‥‥ごめんなさい。ごめんなさい」

「なに? どうして謝るの?」

「だって、だって、シマキ様の顔‥‥‥顔に傷が」


シマキ様は、右頬の辺りがバッサリと切られていた。シマキ様の美しい顔が、血に濡れてしまっている。

涙が止まらなかった。

守れなかった。私のせいで、シマキ様は消えないかもしれない傷をつけられてしまったのだ。

私は、シマキ様を守れなければ価値なんてないのに。それなのに、守れなかった。


「あら、本当。血が出ているわね」


私の言葉に、シマキ様は右頬を触って、痛そうに顔を歪めた。


「ごめん、なさい。私のせいです」

「貴方のせいではないわ。誘拐犯のせいでしょう」

「でも、私が守れなかったから‥‥‥私にはそれしか出来ないのに、なのに」


刹那、首の後ろに手を回されて引き寄せられる。気がついた時には、シマキ様の顔が目の前に迫っていた。


「自分を責めないで。大丈夫、貴方を捨てたりなんてしてあげないわ。貴方には価値があるもの。わたくしにとっては、どんな時でも貴方以上に価値があるものなんてない」

「シマキ、様」


捨てたりなんてしない、その言葉はひどく安心する。自分にはまだ価値があるのか、そんな気持ちにすらなった。

シマキ様が、また優しく微笑み頭を撫でてくれる。


「ダリア、此処へはひとりで?」

「は、はい。犯人からの指示でしたので、ひとりできました」

「そう。なら、早いところ帰って、コートラリ様の元へ行きましょう。王太子殿下の婚約者であるわたくしを誘拐したということは、もしかしたら彼に反感を持つものかもしれないわ」


そう言うと、シマキ様は自身の服を引きちぎって頬の止血をした。


「ダリア、その男たち縛り上げといてくれる?」

「はい」


倉庫にあった縄で、手早く五人を縛り上げる。気絶しているらしい男たちは、縄で縛られても抵抗することはなかった。


その後、コートラリ様に報告をすると、彼は大急ぎで近衛兵を倉庫に向かわせて、誘拐犯はその日のうちに捕まったのだった。





私を見るコートラリ様の蔑むような視線が、やけに頭に残った夜だった。

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