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帰省

いよいよ、夏休みです。

夏休み前、最後の美術の授業で、私は何とか描きあげた絵を先生に提出した。結局、シマキ様がアビー様に注意をして以来、私への嫌がらせは放課後も含めて無くなった。

だから、私が警戒していたように絵をぐちゃぐちゃにされることもなく、文化祭へ展示する絵は思っていたよりも短期間で完成した。

それでも、提出は最後の授業になってしまったけど。




夏休み前最後の一日が終わり、シマキ様と二人で久しぶりにゆったりとした時間を過ごしていた。寮のベッドの上に二人で座っていると、ペールン公爵家にいた頃のことを思い出す。


「あっ、そうだ、ダリア。明後日から一週間ほど実家に帰ろうと思っているの。用意をお願いね」

「畏まりました」


夏休みの期間に、実家に帰省する生徒は多い。私たちのクラスメイトたちも、そうやって友人と話していた人が多かった。長期休みの時にしか、帰省が許されていない学園では珍しいことではないだろう。

でも、シマキ様はてっきり帰省しないと思っていた。屋敷の使用人たちを嫌っていたし、両親へも特別会いたがっているようには見えなかった。


「ふふっ、そんなに怪訝そうな顔をしないで。夏休みくらい顔を出しておかないと、後で煩いのよ。でなかったら、帰りたくなんかないわ。あんな面倒な家」

「そう、なんですね。でも、旦那様きっとお喜びになると思います」

「わたくしは嬉しくないわ。でも、まぁ、貴方と一緒なら楽しいかもね。それに‥‥‥貴方はシャールの墓参りに行かないといけないでしょう? 学園(ここ)へ来る時だって、挨拶してこなかったのだから」

「‥‥‥知っていたんですね」

「貴方のことだもの」


シマキ様と一緒に学園に来る時、お墓に手を合わせるべきだとは思ったが、どうしても出来なかった。

それをしてしまったら、シャールさんが死んでしまったと本当に認めることになる気がしたから。


「学園のことを報告したら、シャールも喜ぶと思うわ」

「そう、ですね」


俯いた私に、シマキ様はそれきり何も言わなかった。



◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉



ペールン公爵家から離れて、まだ数ヶ月しか経っていないというのに、酷く懐かしい気がした。シマキ様の部屋に持ってきた荷物を運び込むと、漸く帰ってきたんだなというような気持ちになった。

この家では嫌なことも多かったけど、久しぶりに帰ってくると不思議なもので落ち着く。大方、シマキ様の持ち物を片付けたところで、身なりを整える。


「シマキ様、私は旦那様に呼ばれていますので、少し出てきます」

「そう、ならシャールのところへはその後に行きましょう」

「‥‥‥はい」







憂鬱な気持ちを覚えつつ、書斎の扉を叩く。中から直ぐに「入れ」とどうでも良さそうな声が返ってきた。

一礼すると、席を勧められる。


「それで、学園でのシマキの様子はどうだい?」


呼び出しの理由は、予想通りシマキ様の学園での様子の報告だった。何を言おうか考えて、言葉を選びつつ報告をした。


「────ということですので、シマキ様は此方にいる頃と変わらず健やかな日々を過ごしております。ですが、旦那様にひとつ謝らなければならないことがあります」

「なんだい?」

「私の諍いにシマキ様を巻き込んでしまい、プラチナ伯爵家のアビー様と言い争いに発展させてしまいました。申し訳ございません」

「ふむ。プラチナ伯爵家か‥‥‥まぁ、あの家なら問題ないだろう。確認だが、シマキに傷は?」

「ありません」

「なら、今回のことは大目に見よう。ただし、次から君の事情にシマキを巻き込まないように。君はシマキの盾に過ぎないのだからね。それを忘れるな」

「寛大なご判断、感謝致します」


私が頭を下げた時には、ペールン公爵はもう此方を見ていなかった。話は終わりということだろう。そう察して、扉の前で一礼すると書斎を後にした。

ペールン公爵の言った通り、私はシマキ様の盾となるべき存在だ。逆に守られているようではいけない‥‥‥だから、リム様たちとのことだってシマキ様を巻き込むべきでは無いんだ。




◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉




公爵家に帰ってくるまでの道のりで、花を買ってきた。もちろん、シャールさんへの花だ。

まず、シャールさんと一緒に亡くなってしまった御者の墓の前で花を手向けて手を合わせる。


その後で、いよいよシャールさんへと向き合わなければいけなかった。

シャールさんにと買ってきた花は、フリージアというらしい。花屋の店員さんが言っていた。

手向けの花に向くのかよくわからなかったが、シマキ様にこれはどうかと勧められたから‥‥‥それだけの理由で選んだ。

でも、紫色のその花は、何処かシャールさんに似ている気がした。


「ダリア、大丈夫? 辛いのなら、無理して手を合わせなくていいのよ」

「はい、ありがとうございます。でも、大丈夫です」


シマキ様に言われたことで、やっと決心がついてお墓の前に花を置く。

手を合わせて何を言うべきか迷ったが、目をつぶって思いついたことをひとつだけ伝える。


──シマキ様のこと、守ります。


他に伝えるべきこともあったはずだけど、上手く伝えられなかった。

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本当にありがとうございます。こうやって、評価をいただくたびにモチベーションが上がります。

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