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遊び方を変えよう

昨日の続きです。

あの事件後、初めての美術の授業がやってきた。いつものように、書道室へシマキ様を送って美術室へ行こうとした時、シマキ様に手首を掴まれた。


「やっぱり、貴方をひとりにするのは心配よ」


眉を下げた顔は、すごく不安そうだ。でも、私はあんな事があった後でも、やっぱり守られる存在にはなりたくなかった。


「大丈夫ですよ」

「‥‥‥なら、何かあったら絶対に相談するのよ。約束だからね」

「はい、ありがとうございます」


見えなくなるまで、心配そうに私を見送ってくれたシマキ様に、私は一礼して美術室へ向かった。





◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉





シマキ様の心配とは裏腹に、アビー様は授業中何もしてこなかった。授業の終わる鐘が鳴っても、前みたいに足を踏まれることもなかった。

あんなことがあった後だ。今日は流石に何もしてこないのだろうかと考えた時、油断した私の心を見透かしたみたいにアビー様が声をかけてきたのだ。


「ダリアちゃん、この後、少し時間くれるぅ?」


断りたいところだが、貴族(このひと)の誘いを断るわけにはいかない。


「‥‥‥シマキ様のお迎えに行きますので、それほど時間は取れませんが」

「大丈夫、大丈夫。すぐに終わるからさぁ、ねぇ、イビー」

「う、うん」


楽しそうにしているアビー様と、俯いて憂鬱そうな顔をしているイビー様に連れられて来たのは、人気のない中庭だった。

やましいことをするのに、最適な場所だ。

私は、制服のスカートの下に隠している小刀を触って確認した。

シマキ様を守れるように、入学した時から隠し持っていた小刀だ。


「あたしさぁ、ダリアちゃんで遊ぶの飽きちゃったんだよねぇ。この間の倒れちゃった時が、一番楽しかったって感じかなぁ」

「そ、そうですか」

「そうなの。だけどぉ、ダリアちゃんで、遊んであげないとぉ、リムさんに怒られちゃうんだよねぇ。だからねぇ、あたし、ちょっと遊び方を変えようと思ってぇ」


そう言うと、アビー様はイビー様に目だけで指示を出した。イビー様は、その視線に心得たように持っていた鞄の中から包丁を取り出すと、アビー様へ渡した。


「イビー、これ何処から調達してきたのぉ?」

「食堂の調理場でくすねてきたから、問題ないよぉ。彼処、頑張れば誰でも忍び込めるから」

「ふぅん、じゃあ、その辺に捨てておけばぁ、あたしたちが盗んだことバレないってことねぇ」


あんな事をした後で、後悔することもなくまた身体的な攻撃をしてこようとしてくることには驚いたが、人気のない所に連れてこられた時から少しはその可能性も考えていた。

スカートの下の小刀を今度こそ握る。


「そんなにぃ、警戒しなくてもぉ、大丈夫だよぉ」


残虐な笑みを浮かべたアビー様が、包丁を振り上げる。今回は、はっきりと殺意を感じ取ることができた。

相手が貴族でも、殺されそうになったら抵抗しろ。それは、シャールさんとした約束の例外事項だ。

私は、スカートの下から小刀を素早く取り出すと、向けられた包丁を受け止めるために構える。しかし、アビー様の振り上げた包丁は、予想外の人物へとたどり着いた。


「ゔぁっ‥‥‥! 姉様っ、どうしてっ!」


イビー様の唸り声に、私は現状を理解することに苦労する。

だって、振り上げた包丁は私ではなく、イビー様の腕に突き刺さっていたのだから。


「イビー様っ! アビー様、どうしてこんな事を」

「だから、言ったじゃん。遊び方を変えるって」


そこで漸くイビー様から、包丁を抜いた。イビー様の腕から、嘘みたいに血が噴き出る。蹲って腕を抑えるイビー様の背中を、少しでも痛みが和らぐように摩った。


「イビー様、大丈夫ですか? すぐに保健室へ行きましょう」

「あっ、ゔっ、ゔぅっ‥‥‥」

「まだよ、イビー立ちなさい。貴方にはこれからぁ、この怪我をダリアちゃんにつけられたって言い回る役割が、残っているんだからぁ」

「ま、真逆、遊び方を変えたって」

「そう、あんたを社会的にぃ、殺そうと思ってぇ。スカートの下に隠している小刀でやられたって言ったらぁ、皆んな信じるよぉ」


しまった。

さっき、防衛用に小刀を出した事で、隠していることがバレてしまった。

こんな事を言いふらされたら、もうシマキ様の側にいられなくなる。

それは、困る。

そんなことになったら、私はもう価値を失くしてしまう。


「わ、私の持ち物と包丁では、切り傷の形が違います。そんなこと、調べればすぐにわかることですよ」


精一杯の勇気で反論した私を、アビー様は小馬鹿にしたように鼻で笑った。


「そんなことぉ、関係ないよぉ。だってぇ、あんたの言うことと、あたしの言うことだったらぁ、皆んなあたしの方を信じるもん」

「──ッ!」


貴族は白いものも黒く変えられる、アビー様の言葉は正にそれだった。

この貴族社会において、真実とは本当のことではない。貴族が信じたものこそが、真実なのだ。

貴族の権力を使われたら、私にはどうすることもできないのだ。


「なぁんだ、あんだけ啖呵切っておいてぇ、それでお終い? つまんなぁい」


アビー様は興味を無くしたように私を見ると、痛がるイビー様を無理矢理立たせようとしている。


「イビー、早く行くよぉ。皆んなに言いふらさないとぉ、いけないんだからぁ」

「そんなことをしたら、恥をかくのは貴方よ、アビー」

ダリアのピンチに誰かが駆けつけました。

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