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あたしはスペア 前編 (イビー視点)

少し長くなったので前後編に分けました。

『貴方のせいで、アビーは病弱なの』


これは、あたしが生きている限り、ずっと言われ続ける言葉。姉様が病弱なのは、双子の妹のあたしがお腹の中で貪欲にも栄養を奪ってしまったせい。それは、あたしが物心ついた時からずっと母様に言われていた言葉。

あたしも自分自身が悪いとわかっている。

母様が健康的な子供を産めなかったと、父様に責められているのもあたしのせい。

姉様が病弱で寝てばかりいるせいで、同じ年頃の子たちと一緒に遊べないのもあたしのせい。

あたしがお腹の中で犯した罪が、みんなを苦しめている。

全部、全部、あたしのせいなんだ。


姉様が九歳になった頃、容体が急変して緊急入院した日、恐れていたことが起きちゃったんだぁ。

姉様への余命宣告。

医者が言うには、心臓の弱い姉様は二十歳まで生きられるかも怪しいらしい。その日から、あたしの家族は壊れた。

母様は発狂し、姉様は生きている者を恨むようになった。そして父様は長女の病を周りに知られないように隠蔽工作を考え出した。男児がいない我が家では、長女である姉様が婿を取りこの家を継ぐしかないのだ。病気だなんて知られたら、良い縁が回ってこないでしょう。

そして、母様と父様が出した結論は、妹であるあたしを姉様の代わりとすることだった。姉様が体調を崩した時は、あたしがアビーとして過ごす。そうすれば、世間には妹であるイビーこそが、病弱だと印象付けることができるから。


でも、その計画は安易に進まなかった。元々、天才肌である姉様は、一度習えば人並み以上に上手くこなせた。それに比べて、あたしは何度も教えてもらわないと上手くできない凡人だった。そんな事情もあったから、母様と父様が妹の方が病気ならよかったのにって言うのは当たり前の話なんだよねぇ。


とまぁ、そんなわけで、姉様の代わりになるって言うのは容易じゃない。だって、姉様が出来ることを、あたしが全部出来るようにならないといけないってことだから。

余命宣告された日から、あたしの猛特訓が始まった。まずは初歩的なことだと言って、利き手を直すことから始めた。

簡単に出来ることだって言われていたのに、愚かなあたしには、それすらも時間がかかった。

上手くできないと母様は、いっつも


「姉の命を奪っておいて、貴方はどうして出来損ないなの?」


と心底不思議そうに首を傾げて、あたしの足をヒールのついた靴で思い切り踏んできた。痛くて痛くて、凄く嫌だったけど、でも、あたしのせいだから仕方ない。

「ごめんなさい、ごめんなさい」って、謝り続けても母様が許してくれないのも、あたしのせいだから仕方のないこと。


その代わり、あたしが姉様と同じことができるようになると、母様は偉い偉いって頭を撫でて褒めてくれた。他のことでは、全く褒められないから、あたしはそれが凄く嬉しかった。


だから、出来損ないなりに、褒めて欲しいから頑張って、あたしは姉様が出来る事を習得していったの。

利き手も、字の書き方の癖も、食べ方も、話し方も、態度も、全部全部姉様の通りに出来るようになっていったんだぁ。

そんな時、姉様に新しい趣味ができた。確か、十二歳の頃だった気がする。その趣味は、父様の趣味でもある狩猟だった。貴族の娘としては珍しい趣味に、姉様はのめり込んだ。元々、生きている者を憎む姉様は鳥や犬、シカなどの動物が大嫌いだ。きっと、自分以上に生きることができる者が嫌いなのだと思う。

逆にあたしは狩猟なんて特別好きになれなかった。血とか苦手だったし、銃声だって怖かったから。

でも、姉様が好きなら、あたしも好きにならないといけなかった。姉様の腕は、どんどん上がっていったから、あたしも嫌だったけど頑張って練習した。


父様と姉様と私の三人で狩猟に来た、ある日。

姉様が撃った銃が、狙っていた鹿ではなく、間違って人に当たってしまった。この森は、私たち──プラチナ伯爵家──の持ち物のため許可なく入ることなんて出来ないはずなのに、不法侵入していたらしい男に当たってしまったの。男は幸い命に別状なかったし、男の方もやましい事をしていたため、公にはならなかった。

しかし、姉様はそれ以来、人を撃つ快感を忘れられなくなってしまったの。

自分より生きる者の範囲には、どうやら人間も入るらしい。

こうして姉様は、人間に暴行したいという欲を募らせていったみたい。


その頃から、あたしは現実逃避みたいにロマンス小説に没頭するようになった。母様に見つからないように一番口が固いメイドに、こっそり買ってきてもらって見つからないように読んでた。ロマンス小説の中は、どんなに不遇な環境の子も最後はハッピーエンドになって、夢で溢れかえってたから大好きだった。

勿論、その後母様にバレて、没収された挙句打たれたけどねぇ。母様、自分は元舞台女優のくせにこういう趣味は、低俗なんて言って許してくんないんだから!




姉様の十三歳の誕生日。

プラチナ伯爵家では、盛大にパーティーが開かれた。

その日、姉様は楽しそうに笑ってあたしに言った。


「ねぇ、イビー。男爵家のあの子、とってもぉ、生意気だと思わない? ちょっと痛い目見せてあげよっかぁ」


その男爵家の子は、爵位は低いが愛らしいと有名な子だった。何をするのかわからなかったが、あたしは姉様が言った通り人気のない場所まで、その子を誘導してきた。二人で歩いていると、隣にいたはずの男爵家の子が突然飛んでいった。あたしが驚いて、後ろを振り返ると其処には姉様が、凄く楽しそうな顔の姉様がいたの。

その笑顔を見て漸く気がついた。


姉様が、突き飛ばしたんだってね。


女の子は、頭から血を流して倒れていた。そんな場面を心底嬉しそうに見つめている姉様が、凄く怖かった。


後から聞いた話だと、女の子は顔に消えない傷が出来てしまったらしい。そのことが原因で、家から出てこなくなったと、そう噂程度に聞いた。

そして、その事件は父様の力で隠蔽されて、被害者の女の子は、結局泣き寝入りするしかなかったんだぁ。


その話は、あたしに酷い罪悪感を抱かせた。でも、姉様はそんなこと全く気にしている様子がなかった。

そんな時、姉様はまた言ったの。


「イビー、あの子、とってもぉ生意気だと思わない?」


姉様は、またあたしに指示を出した。でも、あたしはやりたくなくって、首を横に振った。


「‥‥‥へぇ、イビーは姉であるあたしの寿命を盗ったのにぃ、言うこと聞けないんだぁ。あたしのスペアのくせにぃ、あたしのやりたい事やってくれないんだねぇ」


そう言われて終えば、もう断ることは出来なかった。だって、姉様が死んじゃうのはあたしのせいだから。あたしに拒否権なって最初からない。

悪いことだとわかっていながら、あたしは姉様が目をつけた子を一緒に痛めつけた。姉様は、権力の使い方をよくわかっているから、自分より爵位の低い子しか狙わなかった。そんな事をしているうちに、あたしたちは伯爵以下の貴族たちから、「プラチナ伯爵家の双子には関わるな」と言われるまでになっちゃったんだよねぇ。

明日、後編出します。

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