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友達

昨日の続きです。

毒を盛られた翌日、体調も良くなった。

だけど、念のため休んだ方が良いとシマキ様に言われたので、真っ昼間だというのにベッドで寝ている。こんなにゆっくり過ごすのは、転生して以来初めてのことかもしれない。具合がそこまで悪い訳でもないのに只寝ているというのは、案外退屈だ。やることもなく、目を瞑って寝ようとしても眠れない。

そんな風に思っていると、扉が開いてトレーを持ったシマキ様が入ってきた。そこには、汁物や麺類、ご飯類などの様々な料理が並んでいた。


「体調はどう?」

「はい、もうだいぶ良いです。すみません、シマキ様まで休ませてしまって」

「いいのよ、わたくしが勝手にやっているだけだから。それより、何か食べられそう? 食堂から色々と持ってきたのだけど」


私はそれを聞いて起き上がった。昨日から何も食べていないのでお腹が空いている。


「態々ありがとうございます。えっと、では、お粥を頂いてもいいでしょうか?」

「えぇ、勿論よ」


するとシマキ様は、トレーの上のお粥とスプーンを手に取った。


「はい、あーん」

「えっ?」

「熱かったかしら? ちょっと待ってね」


スプーンに乗ったお粥を、ふーふーと冷ますと再び此方へスプーンを差し出す。


「じ、自分で食べられますから。シマキ様の手を煩わせるわけにはっ‥‥‥むっ!」


私が話終わる前に、スプーンが口に突っ込まれる。卵の優しい味が口に広がってとても美味しい。


「‥‥‥美味しい」

「よかったわ。元気になったみたいで」

「すみません、心配かけて」

「本当よ、今度から何かあったら必ず言うのよ」


そう言われて、あの事を言った方が良いか迷う。どうしようかと考えていると、シマキ様がにっこりと笑った。


「何か言いたいことがあるって、顔ね。何でも言って、怒らないから」

「あの‥‥‥」

「うん?」

「シマキ様から頂いた、フェイスベールを無くしてしまったんです」


目を見開いて何も言わなくなってしまったシマキ様に、やっぱり怒っているのかと怖くなる。


「すみません、せっかく作ってくださったのに」

「‥‥‥あっはっはは」

「な、何で笑うんですか!」

「だって、深刻そうな顔してたから、何かと思ったらそんなこと?」

「怒らないんですか?」

「怒らないわよ、別に。また作ればいいだけの話だもの。わたくしはね、貴方が無事ならそれで良いのよ」


シマキ様は、何でもないように笑って「貴方が休んでいる間に作ろうかしらね」なんて言っている。シマキ様の寛容な態度に、余計に申し訳なくなった。


「すみません」

「だから、気にしないの。古くなっていたから、買い替えるいい機会よ」


何色にしようかなんて二人で話していた時、外の廊下へと繋がる扉がノックされる。出るためにベッドから立ち上がろうとすると、シマキ様に止められてしまった。


「わたくしが出るから、貴方は休んでいなさい」


有無を言わせない態度に、首を縦に振った。シマキ様はそれを見て、また笑みを深めると出て行ってしまった。暫くして戻ってきたシマキ様の手には、見慣れない箱が乗せられていた。


「それは?」

「よくわからないのだけど、廊下へ出て行ったら誰もいなくて、これだけ置いてあったわ。貴方宛みたいよ」


良く見れば、箱には紙が貼られていて、そこには『ダリア様』と書かれていた。全く心当たりがないが、何が入っているのかわからない以上、シマキ様に開けさせるのは危険すぎる。


「ありがとうございます、シマキ様。私が預かりますね」

「えぇ、気をつけてね。危険なものかもしれないから」


渡された箱は、予想以上に重たかった。箱に耳を当ててみたが、特に何の音も聞こえない。開けた瞬間に起動する爆弾とか、有害物質かもしれないと、シマキ様を離れさせた。

私もベッドから起き上がって、すぐに逃げられるように準備して箱を開ける。

恐る恐る開けた箱は予想に反して、害のある物は入っていなかった。

その代わり、本が五冊入っていた。手に取って眺めていると、ひょいっと隣から奪われる。


「ロマンス小説ね。好きなの?」


そう言われて、漸くこれがロマンス小説だと知る。そこでひとりの人物にいきついて、思わず笑ってしまう。


「いえ、わからないです。でも、読んでみようかと思って。そしたら、貸してくれるって言ってくれた人がいたんです」

「ふぅん。なら、これはその人からのお見舞いってところかしらね。良い友達ね」

「友達、なんでしょうか?」

「違うの?」

「私は、そう思っていますけど‥‥‥向こうはそう思っていないかもしれません」


私たち二人は、友達と呼ぶにはよそよそしくて、他人と呼ぶには色々と知りすぎていた。曖昧な関係に、今日まで名前をつけることはなかった。


「貴方の好きなように解釈すればいいと思うわ」


シマキ様の言葉を聞いて、私は無意識に口を開く。


「友達、です」


何故だか凄く気恥ずかしかった。

ダリアにとって、現世で初めての友達です。

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