悪夢
昨日の続きです。
【追記】誤字報告を受けました。自分では全然気が付かなかったので、ありがたいです。本当にありがとうございました!
ここは何処だろう。
私は何をしていたんだっけ?
わからない、思い出せない。
真っ暗な空間。
凄く怖い。
そう思った瞬間、目の前に映画館みたいに映像が流れ始めた。
その映像では、子供たちが楽しそうに遊んでいる。その中には、私もいて、皆んなで質素なご飯をそれでも楽しそうに食べていた。
これは孤児院だ。あの頃の、みんな生きていた頃の、騒がしかった孤児院だ。
映像はどんどんと進んでいき、軈て孤児院は炎に包まれた。
嗚呼、もうやめてくれ。
この先は見たくない。
こんな映像見たくない。そう思うのに、私の体は思考に反して全く動いてくれなかった。
金縛りになったみたいに、目を閉じることもできない。
そして、映像はいよいよ、孤児院のみんなが私に向かって手を伸ばしてくるシーンまで来てしまった。
体の震えが止まらない。
気がつくと、私の周りは燃えていた。
映像だと思っていたシーンが、今まさに目の前に広がっていた。
そして、燃え上がる木材の間から、子供たちが先生が、全員が私を無表情に見つめていた。
──お姉ちゃんが殺したんだよ、僕達のこと。
あの時、私の腕を一番最初に掴んできた男の子が言った。
走った。見たくなくて必死で、全力で走った。
私が見捨てた、私が自分可愛さに皆んなから逃げた。
──私が殺した。
走っても、走っても暗闇が続いた。それでも、走り続けた。だって、暗闇よりも怖かったから。
終わりなんて無いと思っていた場所で、何かにぶつかって尻餅をつく。
驚いて顔を上げると、そこには長髪を団子にまとめ上げた美しい騎士がいた。
振り向いた騎士は、ゾッとするほどの無表情だった。
──お前は、俺の言ったことを守れなかったのだな。
◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉
「ごめんなさいっ!」
悲鳴のような声で、目を覚ます。その声が自分の声であると言うことに、最初気がつかなかった。
全身が汗だくで気持ち悪い。
はぁはぁと、呼吸が荒い。
「大丈夫? 酷くうなされていたわ」
そう言って、私の手を握ってくれている人は、夢で見た騎士だった。私はたまらず手を払った。
「しゃ、シャールさん、ごめんなさい。約束守れなくて、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
「‥‥‥落ち着きなさい。わたくしはシマキよ。貴方の主」
先程まで目の前にいた騎士は、もうそこにはいなかった。
「あっ、シマキ様‥‥‥私、ここは?」
「わたくしたちの部屋よ。保健室から戻ってきたのよ」
「そ、そうだったんですか‥‥‥すみません、嫌な夢を見ていて」
「気にしていないわ。そんなことより、少し落ち着いたかしら?」
頭はまだ痛いし、気持ち悪さも少しはあるが、意識ははっきりとしていた。
「はい」
「よかった。少し話をしたいのだけど、大丈夫そう?」
「はい、大丈夫です」
「大分落ち着いたようだけど、食中毒のような症状が出ていると言ったわよね。でも、さっきも言ったように、わたくしたちは同じものを食べているでしょう? だから、貴方だけが食中毒になるのはおかしいのよ」
「は、はい」
「それでね、さっき先生に聞いたのだけど、貴方から瞳孔散大という症状も出てね。
その‥‥‥薬物とか毒を摂取してしまった可能性があるって言われたのよ。混乱している貴方に聞くことでは無いと思うけど、何か心当たりはない?」
そう言われた時、私はひとつの可能性を思い浮かべた。そういえば、アビー様に足を踏まれた時、針で刺された。
もしも、その針の先に毒が塗ってあったら。
いや、真逆。私のことが嫌いでも、流石にそこまではしないだろう。
だって、もしそれで私が死ねば、幾ら伯爵家の令嬢とはいえ今まで通りの生活なんてできないはずだ。
──貴族は白いものも黒くできる。
いつかの言葉が蘇り、背筋が凍る。
「ねぇ、心当たりはあるの?」
「えっと‥‥‥」
言いたくなかった。
心配をかけたくない。ルイカに何故シマキ様に相談しないのかと言われた時、そう答えた。
でも、本当は違った。
助けを求めて、助けられる存在になりたく無かった。
私は、シマキ様を守る時だけ価値が発生する。なのに、助けられる存在になってしまったら、私に価値は無くなってしまう。
そうしたら私は、この世界にいる意味を失ってしまう。
それだけはどうしても避けたかった。
「‥‥‥、いです」
「えっ?」
「ないです。心当たりは、ないです」
シマキ様は微笑んだまま、すっと目を細めた。
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