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口の乾き

昨日の続きです。

その日最後の授業である美術を終えて、教室へ帰るとすぐにホームルームが始まった。針で刺された足は、少し痛むが歩けないほどではなかったから、問題なく教室まで歩いてこれたのだ。

そして、放課後には生徒会活動があるというシマキ様を、コートラリ様が迎えにきた。

それを見計らったように、リム様たちが私のところへ来て逃げられないように手首を掴む。

一ヶ月前と変わらない光景だ。


他の生徒たちはリム様たちの行為を知っているから、さっさと出ていってしまう。皆んな面倒ごとには関わりたくないのだ。

誰もいなくなった頃、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすみたいにリム様が声をかけてきた。


「こうやって集まるのは、一ヶ月ぶりですわね。今日は何をして遊びましょうか」


そう言われた時、自分自身の体に異変を感じた。

口があり得ないほどに乾く。

なんだ? 今までこんな感覚にはなったことはなかった。

軈て、目眩もしてきて体がふらついてくる。


「ねぇ! ちょっと聞いてるんですの? 平民は人の話も聞けないのかしら」


リム様が何か怒鳴っているが、理解しようにも頭が働かない。何か言葉を返さないといけないのに。


「もういいですわ! 貴方がその気なら、此方もそれ相応の態度を取りますわ。アビー、この平民の布の下は、目を背けるくらい醜いと言っていましたわよね?」

「うん、でも、見ない方がいいよぉ。汚ったないからぁ。ねぇ、イビー?」

「あー‥‥‥う、うん。あたしも、やめた方がいいと思う。後悔するからぁ」

「いいえ、それこそ此奴の本性。その醜さを皆に見せて差し上げますわ‥‥‥こんな布燃やしてしまい!」


いよいよ吐き気までしてきて、呼吸も荒くなる。

不意に顔から何か、するりと取られた感覚がした。


「‥‥‥まぁ、本当に心の醜さを表しておりますわね。こんな醜い者が、シマキ様の側にいるなんて信じられませんわ」


いま話している人は、誰だっけ?

でも、そのフェイスベールは‥‥‥シマキ様がくれたとても大切な物だ。取り返さないと。


「かっ‥‥‥返し、返して」


誰だかわからない人の肩に縋るように触れた。


「な、何ですの、急に。私に触らないでくださいませ!」

「おっ、お願い、お願い‥‥‥シマキ様にっ、貰った物、なんですっ」

「触らないでと言っておりますでしょう!」


怒鳴るような声がして、気がつくと私は倒れていた。そこで漸く、突き飛ばされたことを知る。それでも、意識はぐるぐると曖昧なままで、気持ち悪くて目を閉じた。


「うっ、嘘。ちょっと! だって、いつもは突き飛ばしても倒れたりしませんのに‥‥‥死んでいませんわよね」

「うーん、知らない。でも、別に死んでてもよくなぁーい?」

「良いわけないでしょう! 人殺しなんてごめんですわ。私、関係ありませんわよ。アビーのせいですからね」


狼狽したような声の後に、ばたばたと掛けていくような音が聞こえて静かになった。嗚呼、これで少しは頭の痛みもなくなるかも‥‥‥。


「これだから覚悟がない人は、きらぁーい。帰るよ、イビー」

「えっ、でも、この人どうすんの?」

「知らなぁーい。別にどうでもぉいいし」


ここで、私の意識は完全に途切れた。




◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉




次に目覚めた時、私はベッドの上だった。白いカーテンに囲まれたそこは消毒のような独特な匂いで満ちていた。起きあがろうにも、何故だか体に力が入らず起き上がれない。相変わらず、気持ち悪いが、さっきよりも意識ははっきりとしていた。

暫く天井を見ていると、不意にカーテンがさっと開けられる。そこには深刻そうな顔をしたシマキ様が、私と目が合うと驚いた表情に変わった。


「ダリア! 起きたのね、よかった」

「シマキ様、私っ‥‥‥ごほっ、ごほっ」

「嗚呼、無理しないで。ほら、水を飲みなさい」


シマキ様は私を支えて、起き上がらせてくれた。反対の手で渡されたコップを奪うみたいにして取って、慌てて飲み干しても口の乾きは治らなかった。


「此処は保健室。貴方、食中毒の症状が出ているそうよ。お昼は、わたくしと同じものを食べたわよね。その後で何か食べた?」


ふりふりと頭を横に振る。

シマキ様と食堂でお昼を食べて以降、水も今飲んだのが初めてだ。


「そう‥‥‥兎に角、今は回復することだけ考えましょう。原因は、それからでも良いわ。先生を呼んでくるわね」


そう言って、私をベットへ寝かすと、またカーテンから出て行ってしまった。そうして、シマキ様が連れてきた人物に、私は本能的な拒否反応を覚える。


そこには、見覚えがありすぎる保険医がいた。


「ゔっ‥‥‥」

「ダリア!」


胃の中のものが迫り上がってくるような感覚がしたが、すんでのところで耐えた。

思い出した。


「シマキ様っ! ダメ! その男はダメです!」


私は訳もわからず、シマキ様の手を引っ張った。シマキ様をこの男から、少しでも引き離したかった。



アケ・スクラッチ、このゲームの攻略対象であり、保険医の男だ。


今、気弱そうな顔をしながらおろおろしている姿からは想像できないが、この男は危険だ。

このタイミングで、最後の攻略対象者登場です。

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