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すみません、今日遅くなりました。

イビー様に警告された日、私は寮に帰って文化祭で展示する絵を進めることにした。何を描こうか迷ったが、結局この学園を描くことにした。なんだかんだで、ゲームの舞台である学園には強い憧れを持っていたから。

シマキ様が生徒会から帰ってくると、私は一度絵を描くのをやめて迎えに出る。


「シマキ様、お帰りなさいませ。今日もお疲れ様でした」

「嗚呼、ありがとう。貴方も、ご苦労様」


シマキ様は疲れたようにベッドへ座り、寝転がった。私はそんなシマキ様を見ながら、スケッチブックを閉じて本棚に仕舞う。


「絵を描いていたの?」


寝ていると思っていたシマキ様は、いつの間にか此方を向いていた。


「はい。文化祭で展示をするので、一人一枚提出するんです」

「わたくし達もよ」

「書道も展示するんですね。私、絶対見に行きます」

「えぇ、一緒に回りましょうね」

「はい!」


シマキ様は字も、お綺麗なんだろうなぁ。一緒に見て回るのがいまから楽しみだ。


「わたくしも貴方の絵を見ることが楽しみだわ」

「が、頑張ります」

「そういえば、どうしてここで描いているのかしら? 授業で描く時間がないの? でも、まだ文化祭まで時間があるわよね」

「えっと、私は描くのが遅いので、少し進めておこうと思って‥‥‥」


嘘だ。

本当は、授業で描いていたら明日から復帰してくるアビー様に、滅茶苦茶にされてしまうかもしれないと思ったからだ。だから、放課後に展示用の絵の作成を進めて、授業では違う絵を描こうと思っていた。

初日のように、自分の絵を壊されるのは嫌だ。


「そう、貴方は頑張り屋さんなのね。でも、あまり根を詰めすぎないようにね」

「ありがとうございます‥‥‥シマキ様も、少し休んだ方がいいですよ。今日は随分お疲れのようですし」


私がそう言うと、苦笑いをして髪をかきあげた。


「そうね、お風呂に入りたいのだけど、もう準備はできているかしら?」

「はい、いつでも入れますよ」

「ありがとう。なら、貴方も一緒に入りましょう」


そう言って、シマキ様は私の手を嬉しそうに引いた。




◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉




あれから二日が経ち、また美術の時間がやってきた。アビー様が復帰された初日は、シマキ様の生徒会活動がなかったため放課後は絡まれず、そして美術の授業もなかった。そのため、昨日はアビー様たちと話していない。

だから、今日の美術の授業で、恐らく私は一ヶ月ぶりに本格的な嫌がらせを受けることになるだろう。


そう思うと、本当に嫌で行きたくないが、無断で休んでシマキ様に怪しまれたくはない。

一息吐いて美術室へ入ると、そこには一ヶ月前までの見慣れた景色が広がっていた。

正真正銘のアビー様が、嬉しそうに手招いていて、イビー様はこちらを一瞥しただけで興味を無くしたように髪を弄った。


「ダリアちゃーん、あたしが居なくて寂しかったよねぇ。ごめんねぇ、遊ぼうって約束してたのにぃほったらかしにしてぇ」

「‥‥‥いえ、お気になさらず」

「もぉう、ダリアちゃんは健気なんだからぁ。今日からいっーぱい遊んであげるねぇ」

「‥‥‥はい」


だが、アビー様はそうは言ったものの、それきり何もしてこなかった。授業が始まっても、足を踏みつけることはなく、それどころか嫌味すら言ってこない。

私は、適当な絵を描きながらもアビー様を見る。足は組んでいるものの、一生懸命に文化祭に向けて絵を描いているように見えた。

きっと、まだ体調が優れないのだろうと結論付けて気にしないことにした。元気のないアビー様には申し訳ないが、ずっとこのまま平穏に過ごせたらいいのにと思う。


特に何も起きず、美術の時間があと少しで終わるという頃、アビー様が組んでいた足を下ろした。それを何となく見ていると、突然アビー様に足を踏みつけられた。

その時、


──プツンっと、何かが足に刺さった感覚がする。


「──ッ!」


これは、針?

学園で支給された上履きは、柔らかい革でできたバレエシューズのような物だ。それこそ、強い力ならば針で刺しても肉に届いてしまうような、そんな上履き。


私は困惑したまま、ただアビー様の顔を見つめる。アビー様はしたり顔で笑うと、針が刺さったまま足をぐりぐりと動かして、さらに痛みを与えてきた。


「ゔっ‥‥‥うぅ」

「楽しいねぇ」


私の苦しいような、混乱したような顔を見てアビー様は一層微笑む。そして、授業終了の鐘が鳴ったと同時に足を退けると、手早く上履きを脱ぎ紙袋に入れて、イビー様から渡された新しい靴を履いて帰っていった。


教室から出て行く時のイビー様の申し訳なさそうな顔が、私を更に不安にさせた。

アビー、復帰です。

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