楽しそうね
今日も短め、すみません。
今日も、シマキ様を書道室まで送る。二人で歩いていると向けられる憧れの眼差しと、嫌悪の眼差しには、もうとっくに慣れていた。
勿論、憧れはシマキ様に、嫌悪は私にだ。
顔を隠した不審な女が、シマキ様の隣に立っていることを周りはまだ許してくれていないらしい。
そんな視線も気に留めずに、シマキ様が「そういえば」と話しかけてきた。
「最近、ダリアは楽しそうね。何か心境に変化でもあったのかしら?」
「そ、そうでしょうか?」
と、言いつつも、私には心当たりがあった。イビー様と話すようになってからは、美術の時間を穏やかに過ごせていた。しかも、シマキ様が生徒会活動をしている放課後も、看病しないといけないから早く帰るというイビー様の言葉によって、アビー様が休んで以来、嫌がらせも受けていない。どうやら、リム様はおひとりでは私に絡んでこないようだ。
そのおかげで、アビー様が休んでもう少しで一ヶ月経つが、その間は心穏やかに生活できている。
「‥‥‥まぁ、貴方が幸せそうなら何でもいいわ」
「シマキ様‥‥…」
自分のことのように嬉しそうな顔をするから、照れ臭くなってしまい、誤魔化すように目を逸らした。
そんなことをしているうちに、書道室へ着いてしまった。
「それでは、シマキ様。また後で、お迎えにあがります」
「えぇ、待っているわね」
ふふっと微笑みあって、教室から出ようとした時、私は教室にいるひとりの生徒を見て驚く。其処には、ピンク色の髪をハーフアップにした可愛らしい女の子が座っているではないか。
あれは、間違いなくヒロインだ。ルイカが、シマキ様より前に着席していたことが無かったから、今日まで気が付かなかった。
それに、あの日以来ルイカと話していなかったから、本人からも選択科目については聞いていなかったのだ。
私は、離れて行こうとしたシマキ様を慌てて呼び止めてそっと耳打ちする。
「シマキ様、彼方のピンク髪の方がヒロインのルイカです」
すると、シマキ様はルイカの方をチラッと見て、「嗚呼」と何でもないことのように呟いた。
「知っていたわよ。自己紹介の時、ルイカって言っていたから、すぐに分かったわ」
「あっ、そうだったんですか。すみません、私、てっきり知らないとばかり思っていました」
「こちらこそごめんなさい。わたくしが、貴方に報告すべきだったわね。だけど、ルイカとは今のところ接点も無いし、貴方に報告するまでも無いと思ったのよ」
にっこりと邪気のない笑顔の割に、言い方は酷く冷たいと思った。前にルイカについて話した時も思ったが、シマキ様はあまりルイカのことを好きではないのかもしれない。
ここまで考えて、当たり前かと自分の中で結論を出す。自分の立場を奪うかもしれないヒロインに、好感なんて持てるはずがない。
「謝らないでください。私の勘違いですから」
「何かあれば、貴方に報告するわ。これでも、ダリアのことは頼りにしているのよ‥‥‥そろそろ、移動しないと遅れてしまうわね。貴方と離れるのは辛いけど、わたくしの我儘で迷惑はかけられないものね」
「あっ、本当だ」
気がつけば、教室には大分生徒たちが集まっていた。ここから、美術室へ移動するとなると、もうそろそろ動き出さなければ時間に遅れてしまう。
「では、シマキ様。また後で」
「えぇ、気をつけてね」
そう言ってシマキ様は、私が見えなくなるまで手を振り続けてくれた。
ダリアの様子の変化に、シマキは気が付いたようです。




