あたしのせい
今日少し短めです。すみません!
「あんたのその態度、嫌いだわ。感情のない人形みたいで、不快になる」
「すみません」
イビー様は、無表情で暫く私を見つめると、持っていた鉛筆をくるくると回した。
「でも、頼み事をすんなら、こっちも誠意を見せるべきかぁ」
はぁ、とため息を吐いて今度は髪の毛をくるくると弄った。
「まぁ、別にぃ、もうバレたしいっか‥‥‥姉様が病弱なのは、あたしのせいだからだよぉ」
「へっ?」
「だからぁ、姉様は生まれつき病弱なんだけどぉ。その原因はあたしなの。あたしが、お腹の中でぇ姉様の栄養をとっちゃったんだってさぁ。だから、あたしには、あの子の代わりをする義務があるの。だって、あたしのせいだから、あたしが尻拭いするのは当然でしょう」
「真逆、それだけの理由で、あの方の代わりを‥‥‥信じられない」
そんな理由で、イビー様はアビー様が病弱という事実を隠しているというのか。
信じられなかった。
イビー様と話すようになってから、まだそれほど経っていないが、イビー様が変装するアビー様は再現度がかなり高かった。私以外の人は、まず気がついていないだろう。そんな私ですら、偶然の産物で知り得たことだ。
双子であろうと他人になりすますには、並大抵の努力で出来ることではない。左利きを右利きにするだけでも、かなりの練習が必要なはずだ。
そんな細かくて、地味なのに大変な作業をイビー様は、「お腹の中で栄養を奪ってしまった」というよくわからない理由だけで、これまでやってきたのだ。
「あたしは、スペアなの。姉様に何かあった時のスペア」
「それで‥‥‥本当に納得しているんですか」
「スペアに感情なんて贅沢な物、必要ないでしょう」
イビー様は、少しだけ眉を下げたものの、あまり感情には出さなかった。
「それに、あたしは姉様の栄養を奪ってしまったんだから、文句を言う資格はないよぉ。全部あたしのせいなんだから‥‥‥だから、あたしは不思議だったの。幾ら孤児で、身寄りがないところを引き取ってもらったとはいえ、どうして自分の感情を殺してまで、あんたはシマキ様に仕えてるんかなって」
「‥‥‥私が孤児だったこと、知ってたんですね」
「そんなん、貴族の中じゃ有名な話だよぉ。学園の人、殆ど知ってんじゃないかなぁ」
「そ、そうだったんですか」
どうりで皆んなの視線が、冷たい訳だ。
「あたしは自分のせいだから、姉様のスペアも出来るけど、あんたは違うじゃん。孤児になったのは、あんたのせいじゃないのに、なんで現状を受け入れられんだろ」
独り言のように、呟かれた何気ない言葉に目を見開く。
前世でも、孤児への当たりは強かった。お前の両親はお前がいらなかったから捨てたんだ、お前に魅力がないからいけなかったんだ、なんて、心無いことを直接言われたこともあった。
それは、現世でも変わらず、孤児というだけで冷たい目で見られることは多々ある。その中でも貴族からの目は特に冷たいものだった。
だが、イビー様は「貴方のせいじゃない」と、はっきり私を肯定してくれた。それが、どんなに嬉しいことか、何でもないように絵を描いているイビー様にはきっとわからないだろう。
だからだろうか、私は気がつくと自然と言葉を発していた。
「‥‥‥お姉様が病弱なのも、貴方のせいじゃないと思いますよ」
バッと、効果音がつくように私の方を向いたイビー様は目を見開くと、困惑したような顔をした。どういう顔をしたらいいか、わからないと言った表情だということはすぐに分かった。
だって、数分前の私もそうだったから。
「真逆‥‥‥あんたにそんなこと言われるなんてね。想像もしてなかったわぁ‥‥‥うん、そっか、そうね」
それきりイビー様は、何も話さなくなった。
そして、思い出したように私の足を踏もうとしたが、その日は結局踏まなかった。
アビーとイビーの話でした。
 




