仕方ありません
イビーの秘密を知った後の美術の時間。
今日も美術の授業日だ。
私は、あれからアビー様とイビー様のことを考えたが、未だに頭の中を整理できずにいた。当たり前だ、イビー様に衝撃の事実を聞いてから、まだ二日しか経っていないのだから。
結局、考えがまとまらないうちに、教室へ着いてしまった。はぁ、とため息を吐きながら扉を開けると、いつもと同じようにアビー様‥‥‥に見えるイビー様から手を振られる。
聞いた後でも、アビー様にしか見えない。
私は不思議に思いながらも、イビー様の隣へ座った。
「今日も、ちゃんと来れたなんてぇ、ダリアちゃん、えらーい」
そう言いながら微笑む顔は、嫌悪に染まっている。その表情は、正にアビー様そのものだった。本来のイビー様はこんなに積極的に話しかけてくるような人ではなかったし、私に対して特に何の感情も持っていないような目を向けてくる人だった。
リム様やアビー様が、私に何をしてもイビー様だけは何もしない。只、二人の元にいるだけで、積極的に嫌がらせするでも、だからといって止めることもしない、それがイビー様の印象だ。
「‥‥‥まぁた、だんまり。困るとすぐそれなんだからぁ」
「あっ、すみません」
そう言ったきり、イビー様は興味を無くしたように、先生が来るまで何も言わなかった。
授業が始まり、また絵を描く。
今日も、この間の続きで花を描いていた。
暫く描いていると、特に何もしてこなかったイビー様が「ねぇ」と呟く。
「この間のこと、誰にも言ってないよねぇ?」
「‥‥‥はい、言ってませんよ」
「何、その間は。本当に誰かに言ったりしたらぁ、タダじゃおかないからぁ。脅しじゃなくて、本気だからねぇー」
睨みつけるような顔に、目を逸らす。
「言いませんよ‥…‥私が、あなた方に逆らう訳がないでしょう」
「‥‥‥ずっと前から思ってたけどさぁ、あんたなんで何も言わないわけ? 何されても、すみませんしか返さない」
心底不快というような顔で、問うてきたイビー様を見て、そんなにおかしい事だろうかと内心首を捻る。
「貴族に逆らうべきではないと、そう教えられました。それが、シマキ様の側にいる方法だとも」
脳裏に無表情で、とても強い長髪の男性が思い浮かぶ。あの人がいなくなってから、そんなに時間が経っていないのに、酷く昔のことのように感じた。
思い出に浸っていた私の頭を、イビー様が現実に戻した。
「ふぅん。なんだか窮屈そう」
「窮屈、でしょうか?」
「うん。だって、それってぇ、自分の感情を殺せって意味でしょう」
確かに、そういう言い方をされると、酷く窮屈そうに思える。私も、初めて聞いた時はおかしいって確かに思っていたのに、いつの間にか逆らわないということに慣れて、考えることも無くなっていた。
「‥‥‥確かに、そうかもしれませんが、生きるためです。仕方ありません」
「‥‥‥シマキ様に拾われて、愛されて、何の苦労も知らないような人って聞いてたけど‥‥‥あんたって、結構苦労してんね」
「そう、でしょうか?」
大変なことは確かにあったが、人より苦労しているかと聞かれたら、よくわからなかった。
寧ろ、シマキ様に拾ってもらえて自分は幸運だとずっと思っている。
「そうだと思う。あたしには、絶対無理」
そう言って、歪めた顔は今日初めて見るイビー様の本当の気持ちのように思えた。
それきり、イビー様は興味を無くしたように何も言わなくなり、絵を描き始めのだった。
◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉
あれから、また二日経ち美術の時間がやってきた。アビー様の体調は、まだ良くならないらしく、今日もイビー様の隣に座っている。
私がイビー様と気が付いてからは、足を踏まれることも無くなった。今日は話すこともせずに、無言のまま絵を描く。美術の時間が、こんなに穏やかなことは初めてだった。
そこまで考えたところで、ふとイビー様を見ると、何となく違和感を覚える。
なぜだろうか?と考えた瞬間、答えが分かった。普段は、左利きのイビー様が右手で描いているからだ。
そんなところまで、アビー様の再現をできるのかと感心する。すると、ため息を吐きながら此方を向いたイビー様と目が合う。
「何か用?」
「あっ、すみません。右でも描けるんだなぁと思ってました」
「‥‥‥よく見てんじゃん。まぁ、両利きなだけだけどねぇ」
「器用、ですね」
「まぁねぇ‥‥‥それより、あんたの足踏んでいい? フリでもいいから。そろそろ、怪しまれる」
そう言って、イビー様は周りを見渡した。
「それは、アビー様のフリをするため、ですか?」
「‥‥‥そうだって、言ったら。協力してくれんの?」
「どうしてそこまでするんですか? ここにいるのが、貴方でも何も問題ないですよね?」
じっと、此方を探るように見つめるイビー様にさっきまでのふざけた様な雰囲気はない。
「協力してくれんなら、理由話してもいいよ」
「どっちにしろ、私は貴族に協力するしかないです」
そう話すと、イビー様は眉を顰めて、何故か傷ついた顔をした。
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