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貴方が価値を与えてくれるなら

ペールン公爵に連れてこられたダリア

訳もわからず、ペールン公爵について来た私がたどり着いたのは、彼の書斎だった。部屋には、私とペールン公爵の二人きりでどうにも落ち着かない。深々と椅子に座ったペールン公爵は、無表情で髪をかき上げると漸く私と目を合わせてくれた。


「シマキの手前ああ言ったが、矢張り学のない孤児を付かせるのは心配だ。それに、私はまだ君を信用していない。シマキを信用させて、彼女の命を狙っている可能性だってある」

「そ、そんな、私、そんなつもりありません!」


ペールン公爵の鋭い目つきに、慌てて弁明する。本当にそんなつもりはないのだと。だが、これで納得なんてしてくれるはずがなかった。


「だが、まぁ、シマキは一度決めると梃子でも動かない。君を雇うほかないだろうなぁ‥‥‥もし、シマキに変な気を起こしたら、君を殺そう。これを肝に銘じて明日から仕事に励んでくれ」

「‥‥‥わ、わかりました」

「それから、シマキの専属メイドには彼女に関わること全てを請け負ってもらう予定だ。身の回りの世話から、護衛まで、文字通り全てだ。教育係をラールックに任せるから、そのつもりで」

「は、はい」


私が返事をした時、書斎の扉がなんの躊躇もなく開けられた。そこに立っていたのは、シマキ様であった。ニコリと笑うシマキ様に、ペールン公爵は少しばかり驚いた顔をした。


「おや、こんな時間にどうしたのかな?」

「お父様、ダリアとの話はもう終わりましたか?」

「嗚呼、丁度終わったところで、これからラールックに使用人の部屋へ案内させるつもりだったよ」

「その必要は無いです。ダリアは、今晩わたくしの部屋で寝させますから」


ペールン公爵は、また驚いた顔をした。多分、私も同じような顔をしていたことだろう。

使用人が、主人の部屋で一緒に過ごすなんて、言語道断。あり得ないことは、流石の私でも気がついた。


「使用人と一緒に過ごすなんて、変な噂を立てられかねないよ。それに、この子は君に害を与える存在かもしれない」

「お父様、この家ではわたくしがルールのはずです。お父様になんと言われようと、ダリアを連れて行きますから」


シマキ様は、私を此処へ連れて来た時と同じように強引に手首を掴むと部屋を飛び出た。私は、驚きのあまり碌な抵抗もせずに彼女に着いて行ってしまった。

なにか言った方がいいのだろうかと、シマキ様の顔を見たが、彼女があまりに楽しそうに笑っているのを見て結局私は、何も言えなかった。



◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉



「此処がわたくしの部屋よ」


そう言って紹介された部屋は、今まで見たどんな部屋よりも豪華絢爛で目眩がするようだった。天蓋付きの紫を基調としたベッドは、見るからに柔らかそうだし、ドレスが入っているであろうチェストは、夢のように大きい。

そして何より、この部屋は孤児院の子供達全員が入れるほどの広さが設けられていた。


「わぁ〜」


思わず声が出てしまい、咄嗟に口を押さえた。シマキ様は、そんな私を見てクスクスと楽しそうに笑っている。恥ずかしくて、顔を俯かせてしまう。


「す、すみません」

「あら、謝る必要なんてないわ。喜んでもらえたみたいで、わたくしも嬉しい」

「‥‥‥こんなに、広くて素敵なお部屋は初めてで、思わず興奮してしまいました。恥ずかしいです」

「素敵、ね。毎日此処で過ごすと退屈でつまらなくなるわ。でも、貴方がいるから今日からは楽しくなりそうね」

「私は、そんな風に言って頂ける程の価値はないです」


シマキ様の発言を否定するつもりはないが、私には彼女を楽しませることなんて出来ない。親にも捨てられた私が、他人に必要とされるなんて絶対にないことだから。

私が俯くと、頭に温もりを感じた。軈て、それはシマキ様の手だと気がつく。髪を梳くように頭を撫でられる。目線だけでシマキ様を見上げると、酷く悲しい顔と目があった。


「自分を卑下しないで、貴方には価値がある。もし、それでも自信が持てないのなら、わたくしが貴方に価値を与えてあげる。わたくしを信じて、自分を卑下する癖を治すことね」


その瞬間の感情を、なんと表現すればいいのだろうか。身体の中心がじんわりと暖かくなって、感情が溢れ出し頬を伝う。

そして、私は自分を恥じた。悪役令嬢と決めつけて、シマキ様に疑いの目を向けていたこと。ここまでよくしてくれているのに、悪役令嬢と関わっても得は無いと考えていたこと。

自分の卑しさに気がつき、私は唇を噛み締めた。

そんな私を見て、シマキ様は、ふっと穏やかな笑みを浮かべた後、私の頬を指で拭ってくださった。


「今日は疲れただろうし、もう寝ましょうか。そうと決まれば、お風呂ね」

「‥‥‥は、はい」


もしかして、これはメイドとしての私の初めての仕事ということになるのではないか。

でも、誰かの入浴の手伝いなんてしたことないけど出来るだろうか。

そんな不安を抱えながら、シマキ様に引っ張られるままに湯殿へと向かった。

シマキ様は、偶に強引です。

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