入学
今日から二章開幕です!
学園の中は、繊細な作りの中に伝統を感じる重厚な作りの建物になっていた。私たちに与えられた寮の部屋も例外では無く、学園内と同じように豪華だった。前世の頃、ゲームで見たままの作りにファンとして素直に興奮した。
「‥‥‥シマキ様、この学園、私の記憶の通りです」
「ふふっ、貴方が嬉しそうだとわたくしも嬉しいわ」
「すみません、これから気を引き締めないといけないのに燥いでしまって‥‥‥」
途端に恥ずかしくなって、気を引き締めるために頭を振る。
「いいのよ、確かにゲームが始まるからには気をつけないといけないこともあるだろうけど、でも、どうせなら楽しみましょう」
「あ、ありがとうございます‥‥‥やっぱり、好きな物を生で見るのは、その、感動しますね」
「わたくしは、小説とか劇とか、そういった物を熱烈に好きになったことが無いから、正直に言って貴方の気持ちに共感することはできないけど‥‥‥でも、そうね、この部屋は気に入ったわ。過ごしやすそうだし、それに見て、このベッド。凄く大きいわ。これなら、貴方と一緒に寝ても問題なさそうね」
「ここでも、一緒に寝て良いんですか?」
「当たり前でしょう。ずっと、そうやって過ごしてきたじゃない」
この学園に来たら、部屋は別々になるのだと勝手に思っていたからシマキ様が当たり前みたいに、一緒に過ごしてくれるのが凄く嬉しかった。
「というか、貴方の部屋はここ以外にないのよ。入学前に、わたくしの部屋と同じにするように頼んでしまったの。勝手なことしてごめんなさい」
「そんな‥‥‥寧ろ嬉しいです」
「そう。なら、よかったわ」
そう言うとシマキ様は、荷解きをし始めた。私は、それを慌てて止める。
「荷物は私が片付けますから。シマキ様は寛いでいてください」
「貴方にも荷物があるでしょう? ひとりで二人分をやるのは大変よ。折角なんだから、一緒にやりましょうよ」
「いえ、シマキ様にそのようなことさせるわけにはいきません」
私が強引にシマキ様の荷物を受け取ろうとすると、シマキ様は穏やかに微笑んで、私の手を握った。
「わたくしがやりたいのよ」
「こんな面倒なことを、ですか?」
「そうよ、面倒なこともダリアと一緒だと、とっても楽しいのよ。あのね、貴方は想像できないかもしれないけれど、わたくしは貴方と過ごせる学園生活が本当に楽しみだったの。だから、楽しいことは二人で一緒に共有したいのよ。ダメ、かしら?」
困ったような顔で首を傾げるシマキ様を見て、苦笑いする。この顔は、小さい頃からシマキ様が何か頼み事があるときにする顔だ。そして、私は小さい頃からこの顔に滅法弱かった。
「‥‥‥ずるいですよ、シマキ様」
「ふふっ、貴方が優しいだけよ。さぁ、はやく片付けて講堂に向かわないと、入学式に遅れるわ」
「そうですね、遅刻したら不味いですよね。はやく終わらせましょうか」
シマキ様の言った通り、二人でした荷解きは想像以上に楽しかった。
◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉
学園の入学式は、前世の頃に参加した高校の入学式と大して変わりなかった。退屈なところも全く同じだ。今着ている制服だって、白のジャンパースカートと前世でも見たこともあるようなデザインだった。因みに男子は白のブレザーだ。
貴族の学園でも、着ている制服は前世と同じようななものだと思うと不思議な気分になった。
そんなことを考えていると、司会係の先生が「新入生代表挨拶」と読み上げる。
はっとして顔を上げた。
コツコツと音を鳴らしながら、堂々とステージに上がるのはシマキ様だ。そう、シマキ様こそが、新入生代表なのだ。
何処か浮き足立っていた会場の雰囲気は、シマキ様がステージに立った途端にしんと静まり返った。一瞬で、皆んなの目線がシマキ様に釘付けになる。その視線に応えるように、シマキ様が微笑むと今度こそ全員が、彼女に見惚れた。
シマキ様が話す一語一句を聞き逃さないようにしようと、新入生たちは座ったまま体を前のめりにする。
一部始終を見ていた私は確信した。
きっと、この学園の人たちも、ペールン公爵家の使用人のようにシマキ様に夢中になるのだろうと。
いつの間にかシマキ様の挨拶は終わり、考え込んでいた私は新入生たちの惚けたような拍手で意識を取り戻す。折角、楽しみにしていたのに、あまり聞け無かったことに後悔しながら、私も周りに合わせて拍手をした。
入学式も大詰めになった頃、ひとりの男子生徒がシマキ様と同じようにステージに上がった。在校生代表の挨拶をするために、前へ出てきた男子生徒を見た途端に、私はあの気持ち悪い感覚を久々に味わった。
「──在校生代表、マールロイド・ バルーン」
全部思い出した。
彼は、あの生徒会長は、攻略対象者だ。
いよいよ、入学して乙女ゲーム本編が始まりました!