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十三人目の花嫁 前編 (ラールック視点)

番外編です。少し長かったので続きは、また明日投稿させていただきます。

私が、お嬢様と初めて出会ったのは、十二歳のときでした。当時、お嬢様は産まれたばかりでしたが、その頃から私は決めていました。


──この方に生涯お仕えするのだと。







私は、小さい頃から野心家だったように思います。いま考えてみると、それはきっと私の生家の影響もあったのでしょう。

伯爵家であった私の家は、兄と私、それから弟の三人の子供に恵まれました。私は貴族教育を受けていく中で、次第に私こそ、この家の当主になるのだと信じて疑いませんでした。しかし、私のその夢は直ぐに砕かれることになります。

ある日、父に抑揚のない口調で言われました。


「お前は、この家の当主にはなれない。当主には、お前の兄がなるからな。お前はいずれ結婚して、その家に嫁ぐことになるのだろう」


ふざけるなと思いました。

だって、兄は、のほほんとしていて、優しくて、とても当主になれるような器ではないのに。なのに、私よりほんの少し早く産まれて、男だからって理由だけで当主になれるなんて、あまりにも不公平です。

私は、その日大泣きしました。

父の決定事項の前で、私の努力は無意味でした。

だから、私はせめてもの抵抗で、自分の家よりも身分の高い男と結婚してやろうと思うようになりました。幸い、私の顔は美しい部類に入るので、男性を籠絡することは簡単でしょう。


父が、ペールン家に行儀見習いに行ったらどうだと提案してきたのは、ちょうどそんな時でした。


最初、父の頭が沸いたのかと思いました。

ペールン家が公爵だとしても、どうして伯爵の娘である私が、メイドとして仕えなければならないのか、到底理解できるものではありませんでした。しかし、父は難色を示した私に対して、しきりに同じ言葉を伝えてきます。


「お前もシマキ様を一目見れば、必ずお仕えしたくなるはずだ。お前が断るのなら、俺が行きたいくらいだ!」


常に無い父の異常な興奮ぶりに、私は少しだけ興味が湧きました。父をこんな風に興奮させるシマキ様とは、一体どんな方なのだろうと。

そんな経緯があって、私はシマキ様に一度会ってみることになったのです。


面会当日、父は、それこそ陛下にでも謁見するのかというような豪華な格好をしていました。私も、父の指示で同じような格好をします。


父はやっぱりおかしいくなったのだと思いました。

父とペールン公爵は、元々交流があり家を行き来する仲でした。いつも父は身なりは整えていましたが、こんなに豪華な服を着ていくことは一度もありませんでした。それが、ペールン公爵家のシマキ様と会った瞬間から、人が変わったように態度が急変したのですから、誰だっておかしいと思うはずです。

と、当時の私は思っていましたが、いまとなってはそれが間違いでしたね。シマキ様に対して、陛下と同じような態度を取ることは至極当たり前のことです。


その頃の私は、それを間違いとも気付かずに、愚かにも不気味だとすら思いながら、ペールン公爵家を訪問したのです。


ペールン公爵と会っても、私の気持ちは変わりませんでした。メイドとして、此処へ来る理由なんて無いとそう思っていました。


シマキ様に出会うまでは、ですがね。


帰り際、ペールン公爵はシマキ様を紹介したいと私たちを子供部屋へ案内してくれました。正直に言って、別に赤ん坊なんて見ても何の得にもならないと思っていました。

本当に失礼ですね。

そう思いながら入った子供部屋は、予想通りベビーベッドに赤ん坊が寝かされていました。もっと近づいて見てもいいと言うペールン公爵の言葉に、父は麻薬患者のように興奮しながらベビーベッドにへばりついていました。

私も、それに伴ってベビーベッドを覗き込んだとき、シマキ様と、いえ、お嬢様と目が合いました。そして、お嬢様は私に対してニコリと笑ってくださったのです。

その瞬間、気がつけば私は、最敬礼をしていました。頭を深々と下げながら、私はこの方に生涯お仕えするのだと、その時誓いました。結局、私は、その日のうちにペールン公爵にお嬢様のメイドとして仕えさせてほしいと懇願していました。その日から、私はずっとお嬢様の側にいました。十五歳になって、貴族子女が通う学園への入学も断りました。少しの時間だって、お嬢様と離れることは考えられませんでした。

そんな私のことを、お嬢様も信頼してくださり、私はペールン公爵家の使用人の中でも一番お嬢様に近かったという自信があります。


そんな関係が壊れたのは、お嬢様にお仕えして十年の月日が経った時でした。




十歳になったと同時に、王太子殿下と婚約されたお嬢様は、隣国との交流のために夜会へ赴くことになりました。その帰り道、川の氾濫があったため、仕方なく遠回りをして帰ることになりました。そのせいで、孤児院の火事に遭遇してダリアと出会ってしまったのです。

私は、この日のことを思うといつも後悔します。別の道を通っていたら、ダリアと出会うことなどなかったのにと。


こうして、私の位置はダリアに奪われました。ダリアといる時のシマキ様は、本当に楽しそうで、年頃の女の子のようにはしゃいでいました。私は、それが悔しくて散々ダリアに対して、意地の悪いことをしました。

それに後悔なんてありません。多分、過去に戻っても同じことをすると思います。


ですが、私の行動はきっと無意味だったのでしょう。

結果的に何をしてもダリアは、お嬢様の元を離れなかったのですから。








でも、もういいんです。






初のラールック視点。

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