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いざ、公爵家へ!

いよいよ、馬車へ乗せられたダリア。

あれから、ほぼ無理矢理馬車に乗せられた私は、未だに状況が飲み込めずにいた。シマキ様は、何故だか私を隣へ座らせて、私は向かえからのラールックさんの睨んでくるような視線に耐えかねて俯いていた。


「ラールック、貴方睨みすぎよ。ダリアが、子兎みたいに震えているじゃない」

「‥‥‥申し訳ございません。しかし、不審な人物かどうかの判断をするのも、私の仕事とご理解ください」

「まぁ、いいわ。ダリア、あまり気にしないで、ラールックはいつもこんな感じだから」


シマキ様は、呆れたようなふりをしているが、私には今の状況を楽しんでいるように見えた。

ゲームの中のシマキ様は、兎に角無表情で、ヒロインを痛めつけている時だけ極上の笑顔を見せるサイコパスという風に描かれていた。

だから、私は勝手に小さい頃から表情がないのだろうと思っていた。だが、隣にいる彼女はゲームとは逆で常にニコニコしている。

彼女の意図がわからない。

私の知っているシマキ様像と違いすぎていて、未知なるものと遭遇した時のような恐怖を感じていた。


「そうだ、ダリアにはファミリーネームはないの?」


シマキ様が、笑顔で問いかけてくる。その問いかけに無意識に手で服を握りしめてしまう。


「私は、産まれてから直ぐに捨てられて、元々名前すら無かったんです。ダリアという名前は、施設の人がつけてくれて‥‥‥だから、ファミリーネームはありません」

「そう、辛いことを聞いてしまったわね」


出会ってから初めて聞く、シマキ様の悲しそうな声色にパッと顔を上げる。シマキ様は、変わらず笑っていたが、困ったような雰囲気だった。


「い、いえ! いいんです。慣れていますから」

「それなら、いいのだけど、悲しいことがあったら正直に言ってね。貴方の悲しむ姿は極力見たくないのよ」


そう言いながら手を握ってきたシマキ様は、悪役だんてとても思えなかった。


「お嬢様、まもなく到着いたします」

「なんだか、帰りの方が早く感じるわね」


私から視線を逸らしても、手は握ったままだった。それが無性に嬉しくて、暖かくて、何故だか懐かしさすら感じた。



◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉



「お帰り、私の愛おしい娘」

「ただいま戻りました。お父様」


奥から出てきた男性に、先程までの不機嫌そうな様子を一切顔に出すことなくスカートの端を掴んで足を屈伸するような仕草をしたラールックさんを見て、私も見様見真似でそうする。シマキ様の発言から、此方の眉目秀麗な男性がペールン公爵のようだ。

行儀が悪いと思いながらも、二人の様子をじっと観察する。ペールン公爵は、まるで私たちなんて見えていないとばかりにシマキ様を抱き上げている。貴族の人は、あまり感情を見せないとばかり思っていたので、二人の満面の笑みに目を見開いてしまう。余程、娘を愛しているのだろう。そのまま、奥へ向かおうとすると、シマキ様が待ったをかけた。


「お父様、実はお願いがあるのです」

「君の頼みなら何なりと、お姫様」

「ふふっ、お父様なら、絶対にそう言ってくれると信じていました。孤児院から子供を拾ってきたのです。わたくしの専属メイドとして雇ってくれませんか?」


その言葉に、私よりも先に隣のラールックさんがビクッと動いてシマキ様を驚愕の表情で見つめた。これには、私もびっくりした。此処にお世話になる以上、なんの仕事もせずに置いていただけるとは思わなかったが、真逆シマキ様の専属メイドに任命されるとは思わなかった。


「‥‥‥私のお姫様は、驚かせる天才だね。だが、専属メイドは要らないと以前言っていたように記憶しているのだが」

「この子が気に入ってしまったのです。ダリア、此方へいらっしゃい」


シマキ様に呼ばれて、前は出る。ペールン公爵の値踏みするような視線に耐えられず、急いで挨拶をした。


「ダリアと、申します」

「ねぇ、お父様。いいでしょう。ダリアは、礼儀正しいし、教育すれば充分わたくしのメイドとして使えます」

「そうは言ってもねぇ、孤児だし、素性もわからない者を簡単に君の専属メイドに出来ないなぁ」

「そんなこと些細な問題でしょう。わたくしは、ダリアが気に入ったんです。もし、この子を雇わないというのなら、わたくしはこの子と共に家を出て行きます!」


子供らしく癇癪のような大声を上げたかと思えば、ぷいっとそっぽを向いてしまった。ラールックさんを含めた周りにいる使用人たちは、シマキ様の言葉を聞いて顔を青ざめさせている。

ペールン公爵の心底困った顔を見ながら、ずっと疑問に思っていたことを考える。どうしてシマキ様は、私のことをこんなに雇いたがるのだろうか。私は、シマキ様に対して特に何かをしてあげたわけでもないし、なんならつい数時間程前に出会ったばかりだ。

それに、私に何か特別な力があるなんてことも勿論ない。つまり、私を雇うことにメリットなんてひとつもないのだ。なんの心当たりもないのに好かれると、何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。


「それは困るよ、シマキ。君がいなくなれば、君がいるから仕えたいと言って来てくれた使用人たちは、どうすればいいんだい? 皆んな途方に暮れてしまう」

「なら、ダリアをわたくしの専属メイドにしてください。お父様、お願い」


しおらしい声で、シマキ様はペールン公爵を上目遣いで見つめた。そんな娘の様子に弱いらしいペールン公爵は、私を一瞥してため息をつくと、シマキ様を床に下ろした。


「君がそこまでいうなら、承認しよう」

「ありがとうございます! お父様、大好き」


シマキ様の言葉に、盛大に顔を綻ばせたペールン公爵は次いで私を無表情で見つめると、ついて来いとだけ言い放った。私は、混乱してシマキ様を見つめるが、彼女はニコリと笑うばかりだった。

カーテシーって、上品で美しい挨拶ですよね。

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