悪役令嬢からの提案
【追記】誤字報告を受けました。全く気が付かなかったので、教えて頂けてよかったです。ありがとうございます!
真逆、こんな時に気がつくなんて!? 私が何も言えず固まっていると、シマキ様は私を立ち上がらせて、小首を傾げた。
「ねぇ、わたくしを見て何か思うことはない?」
「えっと‥‥‥」
これは、どう言った趣旨の質問なのだろうか。ゲームのキャラクターなんですか? なんて口が裂けても聞けるわけがない。
「特に何も‥‥‥」
「貴様! お嬢様に向かって特に何もないだと? 美しいとも思えないのか? 貧相な餓鬼が」
「ご、ごめんなさい」
ラールックさんに責められて、反射的に謝ってしまう。確かに、今の答え方は見方によっては、無愛想だとも取れるかもしれない。
だが、そんなラールックさんとは、正反対にシマキ様は、にっこりと花が綻ぶみたいな笑顔を見せてくれた。その頬は、心なしか赤く色づいている。先程までの見本のような笑顔とは違い、こっちは思わず笑ってしまったと言うような、人間らしさがあった。
「私、貴方が気に入ったわ。屋敷に連れて帰る」
「えっ!?」
突然の言葉に、驚いて声が出てしまう。だが、私よりもラールックさんの方が何倍も驚いたのだろう。暫く声を発さなかった。
「‥‥‥私は、お嬢様の願いなら極力、何でも叶えて差し上げたいです。それが、自分の命と引き換えになっても」
「あら、ありがとう」
「旦那様にどう説明するおつもりですか?」
「お父様は、私の言うことなら何でも聞いてくれるわ。どうとでもなる」
「畏まりました。馬車を手配してまいります」
「そうね。お願いするわ」
シマキ様の許しの言葉に、即座に顔を上げたラールックさんはそのまま一礼して去っていった。去り際に私を睨め付けることも忘れない。そんな様子をシマキ様は、口元に笑みを浮かべて見送っている。
「あ、あの」
「うん? どうかした?」
「私、貴方の家には行けません! 流石に今日知り合った方のお世話になるわけにはいかないです」
もし、ここが本当にゲームの世界ならば、シマキ様の家は公爵家だ。私のような素性のわからない孤児を、手を広げて歓迎してくれるなんて、まず有り得ない。
それに、シマキ様が悪役令嬢ならば、下手に関わるべきではない。この人に関わっても、損することはあっても得することはひとつもないのだから。
私の心を知ってか知らずか、シマキ様は顎に手を当ててまた笑う。よく笑う人だ。
「でも、貴方はこれからどうするの?」
「えっ?」
「だってそうでしょう? 家は燃えた。施設の人たちも皆死んだ。引取先もない」
家だった物を見つめる。火は消えたものの、大量の灰からは生きている者の気配なんて全くしなかった。
「それに、変な噂も広がりそうよ」
私は周りを見渡す。
野次馬は、私のことを怪物を見るような目で見てくる。
警備隊の男との会話で、私が放火犯だと信じている者が、まだいるみたいだ。このままだと、少し経てば噂に尾鰭が付いて、いずれ私が放火したことになるだろう。
「ち、違う孤児院に入れてもらいます」
「ふふっ、放火犯を入れてくれるかしら」
「そ、それは、でも私は無実です!」
「えぇ、私は貴方を信じているわ。それでも、疑惑が消えない限り、孤児院は態々怪しい子供を養ったりしない」
「そんな、で、でも、でも‥‥‥」
何か案を浮かべようとしても、何も思いつかなかった。
「私と来ればいいわ。私は、貴方が火を付けていようとなかろうと関係ない。ダリアがどんな人であろうと、貴方を手放したりなんてしないわ。貴方が欲しいの」
「そんなこと急に言われても」
「貴方にとっては、魅力的な話のはずよ。私は、自分で拾ったものを捨てたりなんてしないわ。私を信じて」
シマキ様は、私に向けて手を差し出してくる。こんな言葉を簡単に信じるのは馬鹿げている。瞬時にそんな考えが、頭を駆け巡るが身体は本能的に手を握り返そうとしてしまう。それでも、すんでのところで手を止めて躊躇する。手を引こうとした時、シマキ様が追いかけるように手を握ってきた。
「よろしくね、ダリア」
嗚呼、きっとこれから面倒なことになる。
シマキ様に掴まれた手は暖かかった。それに、私のことを欲しいと言ってくれた人は、生まれて初めてで心の中では喜んでしまった。
シマキって打つと、予測変換で島木が出てきてしまって、よく間違えます。