十一歳の誕生日
すみません、今日短めです。
豪華絢爛な装飾に、甘美な匂いを漂わせる料理。此処は紛れもなくペールン公爵家だが、普段と違い今日はシマキ様の十一歳の誕生日。
豪華絢爛な装飾も料理も全ては、シマキ様のために準備されたものなのだ。そんなパーティー会場で、自分には到底釣り合わないような真っ赤な美しいドレスを身に纏い、私はシマキ様の少し後ろに控えていた。
何故、護衛の私がこんなドレスを着ているかと言えば、シマキ様の「私は、護衛といえども見窄らしい格好をした者は隣に置かないわ」という突拍子もない発言が発端だった。
普段は、そんなこと言わないが、何故だか今回だけは違ったみたいだ。
そんなシマキ様は、胸元の開いた妖艶なデザインの紫のドレスを身に纏い、来賓の方々に挨拶をしていた。これまた、普段のシマキ様からは考えられないような服のチョイスだった。普段は、肌の露出が少ない服を好んで着ているので、今回のドレスのチョイスは私だけでなく、他の使用人達も驚いていた。
私がそんなことを考えていると、顔を寄せたシマキ様が小声で話しかけてきた。
「ねぇ、美味しそうな料理なのに、皆んな話に夢中で見向きもしないわ。私たちで全部食べてしまいましょうか」
「何か召し上がりたいのでしたら、お持ちしましすよ」
「貴方と一緒に食べたいの」
「申し訳ございません、護衛は毒味以外、許されておりませんので」
「味気ないわねぇ。でも、一緒に食べられるなら、毒味でもいいわ。ダリア、どれが食べたい?」
「‥‥‥シマキ様が食べたいものを選んでください」
そう言いながらも、私は机にドカンと置かれた肉の塊を捉えていた。あれ、何だろう? 前世でも食べたことない。
「ローストビーフ? 貴方が食べたいの、それでしょう?」
「えっ! べ、別にそう言うわけでは」
「うふふっ、目は口ほどに物を言うって本当ね。あれにしましょう」
「‥‥‥でも、シマキ様は食べたくないでしょう?」
「貴方が食べるのなら、吝かでもないわ」
そう微笑むと、シマキ様はシェフに言い付けて肉の塊、ローストビーフを切り分けさせた。随分と薄くなった肉に、あのまま食べるわけではないのかと少し残念に思い、次いで食い意地の強い自分を恥じた。
すると突然、目の前に一口サイズに切られたローストビーフが差し出される。不思議に思い、シマキ様を見つめればニコニコと笑いながら、小首を傾げていた。
「毒味、してくれるのよね」
「そ、それはそうですが。シマキ様の手を煩わせる訳にはいきません。自分で出来ます」
「あら、恥ずかしがっているの? 初めてじゃないじゃない」
シマキ様は意味ありげに微笑む。
「今日は、他の方の目もあります。それに、主人に食べさせてもらうなんて、使用人としてあり得ません」
「ダリア、いつも言っているでしょう? 此処では私がルールなの。他の人なんて気にしないで」
そう言われてしまえば、言い返すことはできない。他の人の視線を感じながらも、私は渋々フェイスベールを捲って口を開けた。肉の刺さったフォークが口に入れられる。
上質な肉の味が、口の中に広がった。初めて食べたが、毎日でも食べたいくらいに美味しい。
「その様子では、毒は入って無さそうね」
「はい、美味しいです」
楽しそうな顔を浮かべて、シマキ様はお皿に残ったもう一切れを口にした。
「貴方と一緒だと何時もより美味しく感じるわ」
「‥‥‥邪魔してしまったかい?」
ダリアは、お肉が好き。