自信を持て
昨日の続きです。
「えっ? 私が、ですか?」
私は、突然告げられたシマキ様のお誕生日会での護衛任務に只驚いていた。
「だって元々、わたくしの護衛兼メイドでしょう。貴方も此処へ来て一年になるし、そろそろ護衛任務を任せても良いと思うの」
「それは、そうですけど」
「何か心配?」
「私、刃物が、まだ‥‥‥シマキ様を守る為の武器が持てないんです。すみません」
「なぁんだ、そんなこと?」
シマキ様は、何も問題ないとばかりに「あはは」と声を上げて笑った。それが、まるで私の悩みはどうって事ないと言われているみたいで、思わず拗ねたような声を出してしまう。
「そんなことって‥‥‥大事なことです」
「嗚呼、ごめんなさい。怒らないで、可愛いダリア」
「怒ってないです」
「嘘ね、声が拗ねてるわよ」
「‥‥‥」
図星で何も言えずにいると、シマキ様は私の両頬を手で挟み犬を褒めるように撫で始めた。
「大丈夫よ。武器を持たなくても、わたくしを守ることはできるわ。それに、護衛は貴方ひとりじゃないし、誕生日パーティーは親戚や極一部の親しい人を呼ぶだけなの。普段のパーティーに比べて来客者が圧倒的に少ないわ。初めての護衛任務には最適と思ったのだけど? 嫌かしら?」
小首を傾げて苦笑いをしているシマキ様を見て、私も同じように苦笑いを浮かべる。
シマキ様に求められて、私のような一介のメイドが嫌なんて感情を持ってはいけないのだ。
「嫌なんてそんな‥‥‥寧ろ喜ばしいことだと思います。その任務、私を望んでくださるのなら、精一杯努めさせて頂きます」
「‥‥‥貴方なら、そう言ってくれると思ってたわ。でも、嫌なことがあったら言いなさいね。わたくしは貴方の望むことをしてあげたいの」
「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」
「そう、なら良いのだけど。今回の護衛、シャールに一任してあるから、詳しいことは彼に聞きなさい」
シャールさんがいると聞いて、ほっとする。私の事情を知る彼がいれば、少しだけ心配も和らぐような気がした。
「わかりました」
「ふふっ、貴方の初めてだもの。シャールにも見てもらわないとね」
私を抱き寄せて、シマキ様は楽しそうに笑った。
◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉
「誕生日の護衛の件だが、知っての通り俺に一任された。お前は、初任務で緊張すると思うが何かあれば、フォローに回る。余り肩の力を入れるな」
「よ、よかったぁ」
いつものように稽古をつけてもらうために、訓練場に来るとシャールさんは真剣な顔をしてこの話をした。
「だからと言って、気を抜くな。当日、お嬢様の一番近くにいる護衛はお前だ。万が一、お嬢様の近くまで不届き物が近づいてしまった時、お前が最後の砦になる」
「一番近くはシャールさんじゃないんですか!?」
「お嬢様は、お前を望んでいらっしゃる。光栄なことだ」
「私‥‥‥守る自信がありません」
「武器を持たずとも守る術は、俺が今まで教えてきた。もっと自信を持て!」
「でも、当日は剣を持たないといけないでしょう?」
「嗚呼」
剣なんて腰に付けたら、確実に動けなくなってしまう。怖い、見るのも怖いのに、持ち歩くことなんて、できない。
「心配するな、当日は鞘だけは本物を使い、剣は木製のものを持ってもらう。そうすれば、側からみれば剣に見えるからな」
「木刀で? 相手が刃物を持っていたら、此方の分が悪いです」
「俺はこれまで、木刀で守る術も教えてきた。相手が誰であろうと、守れる。守ることさえできれば、どんな方法でも良い。兎に角、自信を持て。お前には力がある。そう判断したから、お嬢様も今回の任務をお前に任せたんだろう」
「シマキ様が?」
「そうだ、お嬢様は聡明なお方だ。無謀なことと判断したなら、お前に頼まないはずだ」
私は、本当に単純な性格だ。
シマキ様に力を認められたと、そう言われれば何故だかできるような気がしてきた。
「‥‥‥私、頑張ります! シマキ様を絶対に守ってみせます」
「そうだ、それでいい。では、始めるか」
訓練場に木刀が重なり合う音が響いた。
いよいよ、初任務。
昨日の後書きで、ブックマークをつけてほしいとお願いしたところ、二人の方がつけてくださいました!
凄く嬉しいです。
本当にありがとうございました。
これからも、応援よろしくお願いいたします!




