焦らずゆっくり考えていきましょう
すみません、遅くなりました。
王太子殿下が訪れた日の夜、いつものようにシマキ様の部屋のベッドに座りながら疑問だったことを投げかける。
「あの、今日のことですが王太子殿下にあの様な態度をとってよろしいのですか?」
「嗚呼、まだ気にしていたの? 大丈夫よ、彼はわたくしの命令なら何でも聞くから」
「だから、あの様な態度を取っても良いと」
少しだけ責めるような言い方になってしまった。王太子殿下の好感度を下げて良いことはないのだ。ヒロインが王太子殿下ルートを諦めるくらいに、シマキ様と彼には良好な関係を築いていて欲しい。
「ゲームのことを心配しているのね。なら大丈夫よ。好感度を上げるためにああいう行動をしているの」
「えっ?」
あの態度が好感度を上げる?
俄には信じ難かった。
「彼、この国唯一の後継者という生い立ちのせいで、周りからかなり敬われたみたいなのよ。皮肉なことにそのせいで、ふふっ‥‥‥支配されたいって気持ちが人より強いのよ。特殊な環境で育つと歪んでしまうのかもしれないわね」
ゲームでは出てこなかった設定に暫し混乱する。それと同時に知りたくなかった王太子殿下の特殊な性癖に此方が居た堪れない気持ちになってしまう。
「‥‥‥それは、知りませんでした。それで態とあの様な態度を取ったのですね」
「コートラリ様のお心が、わたくしから離れてしまったら、攻略されやすくなってしまうかもしれないでしょう? ゲームが始まる前の今、出来ることは好感度を上げることだけだと思ったのよ」
「よく知らずに、申し訳ありませんでした‥‥‥シマキ様、ゲームのことを考えて行動してくれていたのですね」
確かに王太子殿下の好感度が、高ければヒロインは攻略を諦めてくれるかもしれない。そうすれば、シマキ様死亡エンドは高確率で防ぐことができる。
王太子殿下に対しての失礼な態度も、シマキ様の作戦のうちだったという訳だ。
「当たり前よ。貴方から聞いたことだもの。ゲームのことは無視できないわ。まぁ、そういう事だから、貴方もこれからは気にしない様に」
「わかりました」
「それより、わたくしも聞きたいことがあったのよ」
「何でしょうか?」
「コートラリ様についてよ。転生してから、ゲームの攻略対象者に会うのは初めてでしょう。何か思い出せたんじゃないのかしら?」
「は、はい‥‥‥ちょうど私もそのことをお話ししようと思っておりました。予想通り、お会いした瞬間に思い出しました」
「そう! それはよかったわ。それで、どうだった?」
そう問われて、私は少し考える。
「そう、ですね。言い難いのですが‥‥‥王太子殿下ルートのバッドエンドで、彼は悪魔に殺されてしまいます」
「まぁ、それは大変。コートラリ様のためにも、悪魔を育てないようにしないとね」
眉を下げて、シマキ様は悲しそうに呟いた。それに、私も「えぇ、そうですね」と返して、また言葉を考えた。
「それから、大まかな設定は変わっていないと思っていました‥‥‥さっきまでですけど。ゲームの中の王太子殿下も、優秀でしたし御兄妹もいませんでした。そこは変わらないと思います。でも‥‥‥」
「でも?」
「‥‥‥支配されたいという願望が強いなんて設定は出てきませんでした」
「嗚呼、なるほど。つまり、ゲームのコートラリ様は現実ほど変態ではなかったと」
あまりにもはっきりとした言い方に、苦笑いを返す。
「それともう一つ気になることがあるんですけど‥‥‥」
話を切り替えるために切り出したものの、自分の中でも考えがまとまっていないことをどう話せば良いだろうかと考え込む。すると、それを察しただろうシマキ様が、私の手をそっと握ってくれた。
「そんなに深刻そうな顔をしないで、貴方の思ったことを言えば良いのよ」
「‥‥‥その、上手く言えないのですが」
「大丈夫よ」
「ゲームの中の王太子殿下は、誰にでも分け隔てなくお優しい方で、気持ちがすぐ顔に出るという設定でした。ですが、私とシマキ様が話している時、その‥‥‥何を考えているかわからない表情をしていて‥‥‥気のせいかもしれませんが」
ゲームの中の彼は、あんなに得体の知れない笑みを浮かべる様な人ではなかったはずだ。
もっと、素直な性格だった。
まぁ、特殊性癖がわかった今、それ程気にするべき点でもない気もするが‥‥‥。
「いいえ、気のせいではないと思うわ。わたくしもそう思っているから。彼、わたくしに対しては素直だけど、他の人がいるとあの顔になるのよ」
「そうなんですか!?」
「えぇ、顔は笑っていたけど、心も笑っている様には見えなかったわね。どちらかといえば、気に入らないことがあった、みたいな顔をしていたわ‥‥‥ふふっ、貴方に対して嫉妬でもしていたのかもしれないわね」
「あっ」
そうだ、幾らシマキ様の言うことを聞くからと言って自身の婚約者が他の人と仲良さそうにしていたら嫉妬くらいする。
「そう、ですよね。嫉妬くらいしますよね。すみません、私恋愛経験が少ないもので、そういったことには疎くて‥‥‥」
「そんなこと謝らないで。コートラリ様がゲームとは少し違うかもしれないってわかっただけで、充分よ。それに、まだヒロインが出てくる前でしょう? 焦らずゆっくり考えていきましょう」
「すみません、役立たずで」
すると、シマキ様は私の両頬を優しく包み込み、目を合わせた。心なしか怒っている様な表情に見える。
「自分を卑下しないの! それに、貴方は貴重な意見をくれたわ。役立たずなんかじゃない」
「でも‥‥‥」
「今日は疲れたわ。もう寝ましょう」
そう言うとシマキ様は私を押し倒し、無邪気な顔で笑った。釣られて私も笑ってしまう。
「そうですね、おやすみなさい」
「おやすみ、ダリア」
攻略対象者との初めての出会いは、こうして違和感を残したまま終わったのだった。
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