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コートラリ・アルエラナ

少し長めです。

王太子殿下と目があった瞬間、私は彼に関するゲームの記憶を思い出した。この一年の賜物か倒れることはなかったが、頭は若干痛い。


シマキ様がいる部屋へと王太子殿下を案内しながら、頭の中で考える。


王太子殿下ルートの一ループ目、つまり一回目のプレイで王太子殿下ルートへ入ることができると、三ループ目に王太子殿下ルートへ入った時とは違う結末が見れる。


王太子殿下は、一目見た時からシマキ様に魅了されて、気がつけば彼女に何をされても怒らないような甘やかし王子になっていた。だが、王太子殿下のその行動は、シマキ様にとって面白いものではなかった。シマキ様にしてみたら、悪魔に魅了された愚かな人間が、また生まれたくらいにしか思っていなかったのだ。そのせいもあって二人の距離、主にシマキ様の心は徐々に王太子殿下から離れていくのだっだ。

そんな二人に良くも悪くも転機が訪れたのは、学園に入学し、ヒロインと出会った時だった。王太子殿下は、シマキ様が自分から離れていくのではないかと不安だった。その悩みをヒロインがいち早く気がつき、慰めるのが二人が出会うきっかけだ。

その様子を偶々見ていたシマキ様は、人生で初めて王太子殿下(じぶんのもの)が取られるかもしれないと危機感を抱き、ヒロインを感情のままに叩いてしまうのだ。

これだけでも十分最悪な展開なのだが、それよりも最悪なのは王太子殿下が一部始終を見ていた事だ。蹲るヒロインに王太子殿下は駆け寄り、あろうことかシマキ様を睨みつけてしまう。

これがいけなかった。

シマキ様は何をしても怒らない王太子殿下の怒った姿を見て、これこそ悪魔ではなく、私自身に向けられた本当の気持ちだと高揚感を覚えてしまうのだ。王太子殿下の嫌悪の表情が見たいという理由で、ヒロインに微笑みながら暴行を加え続ける姿はファンの間ではサイコパス令嬢と呼ばれるほど恐れられていた。


そんなことを続けた結果、三年生の卒業式の日、王太子殿下に「本来の君を見られるようになるために、暫く距離を置きたい」という申し出をされてしまうのだ。その一言をきっかけに、シマキ様の中の悪魔は急激に成長して腹から出てきてしまう。その悪魔をヒロインが何かの力で、退治して物語は終了する。というのが、ハッピーエンド。

バッドエンドでは、ヒロインが悪魔を退治することができずに王太子殿下が殺されてしまう。


とここまで考えて、自分で驚く。

王太子殿下も殺されるエンディングがあったのか。それは今まで思い出せなかった、新しい情報だった。

驚いたまま、シマキ様が待つ部屋へと着いてしまった。

息を吐くことで、思考を切り替える。

私は部屋の扉を叩くと、直ぐに中からどうぞと言う声が聞こえる。


「シマキ様、王太子殿下をお連れしました」

「嗚呼、ありがとう。コートラリ様もよくお越しくださいましたね」

「シマキ! 君は今日も美しいな」

「ありがとうございます」


二人が形式的な挨拶を交わし、席に着くのを確認して私はすぐにお茶の準備に差し掛かった。粗相がないように注意しながら二人にお茶とお菓子をお出しして、シマキ様の後ろへ控える。

聞いた話によると、シマキ様は王太子殿下と二人きりになることを好むらしいので、そろそろ私は退室を指示されるはずだ。

しかし、いつまで経っても退室を促されることはなく、それどころか二人は最初の挨拶から何も話そうとしない。王太子殿下に関しては、お茶にすら手をつけていなかった。彼はそわそわと落ち着かなそうにしながら、チラッと私の方を一瞬見た。

緊張しているのだろうか‥‥‥二ヶ月に一度来ている家で?

そこで私は漸く、おかしいのではないかと気がついた。そもそも、自分の家だからと言って王太子殿下よりも先にお茶に手をつけるシマキ様もおかしい。他のお客様にはそんなことしないのに。


「ダリア、此方に来なさい」

「は、はい‥‥‥」


私は大いに混乱した。だって、シマキ様が自身のソファの隣をとんとんと叩いていたから。それは、シマキ様が私を隣へ座らせたい時にする仕草だ。でも、王太子殿下がいるのに使用人が主人の隣へ座るなんてあり得ない。

返事をしたものの、私は混乱して席に着くことは出来ずにいた。


「聞こえなかったのかしら? 此処へ座ってほしいと言っているの」

「私のようなものが隣へ座るなんて、許される事ではありません」

「どうして? いつもは普通に座ってるじゃない?」

「ど、どうしてって」


チラリと王太子殿下を見る。


「嗚呼‥‥‥コートラリ様がいるからかしら。なら気にしなくて良いわ。彼は何も言いやしないわよ」


そう言うとシマキ様は、強引に私を引っ張って隣へ座らせた。こんなことをしては王太子殿下の機嫌を損ねてしまうと彼を見つめると、シマキ様の言う通り彼は怪訝な顔をしたものの何も言うことはなかった。私が王太子殿下の様子を伺っているうちに、シマキ様は私の右頬に手を添えて撫でた。


「貴方は本当に可愛いわね。わたくしが与えたものだけど、布をつけておくのは勿体無いわ。ねぇ、もっと良く見せてちょうだい」


シマキ様はそのまま私へ、それこそキスができそうな距離まで近づいてきた。王太子殿下を放っておいて、流石にこれはまずいだろうと目だけで彼の様子を伺おうとした。


「余所見しないで。わたくしだけを見ていて」

「‥‥‥そう言われましても、これ以上王太子殿下を放っておく訳には参りません」


私が小声で反論すると、シマキ様は嬉しそうに微笑んで、「貴方って頑固ね」と言い漸く王太子殿下の方を向いた。


「コートラリ様、この子は一年前からわたくしの専属メイドをしているダリア。これからは、同席させるからよろしくね」

「‥‥‥そうなのか? 私は今までのように君と二人きりで過ごしたいのだが」

「わたくしに逆らうと言うことかしら」

「いや! そういうことではない。君の命令というのなら、私は喜んで従おう」

「命令に決まっているでしょう。わたくしが貴方に言うことは全て命令よ。それくらい理解しなさい」

「ならば従おう」


王太子殿下は、本当に心の底から嬉しそうに微笑んだ。

幾ら婚約者だからと言って、公爵令嬢に命令されるなんて不快に思わないのだろうか。


「だが、君が特定の人物を側に置くのは珍しいな」

「余計なことは気にしなくて良い。お茶でも飲んで黙っていなさい」


そう言うとシマキ様は、私に向き直りこれで良いでしょうと言わんばかりにまた私を構い始めた。王太子殿下は、それについて何も言わずシマキ様の命令通りにお茶を飲み始める。

私はその間、何も言うことが出来ず只々混乱していた。シマキ様は、王太子殿下のことを本当に居ないかのように無視していたが、私は彼の何を考えているかわからない笑みに耐えきれず、できる限り意識をシマキ様に向けることで凌ぐしかなかった。


「可愛い、本当に可愛いわ。閉じ込めてしまいたい」


その日は、私がシマキ様に構われ続ける形でお開きとなってしまった。

34部目にして、漸く王太子殿下が登場です。

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