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アレルギー

すみません、今日遅れました。

「リム、よく来てくれたわね。歓迎するわ」

「お久しぶりです、シマキ様! 会いたかったですわ」

「わたくしもよ。確か前に会ったのは、もう半年くらい前だったかしら。お互い予定が合わなかったものね」

「ずっと、ずっーとお会いしたかったですわ!」


エルンマット侯爵令嬢は、そう言うとシマキ様にぎゅっと抱きついた。シマキ様もそれを笑顔で受け止めている。その様子から二人の仲が良いことが伺える。


日の光を浴びて紫色に輝く美しい髪を持つシマキ様と、ミルクティー色の華やかな髪を持つエルンマット侯爵令嬢は二人で並ぶと、その整った容姿も相まって何処か神々しさすら感じた。


ペールン公爵家の中庭は、バラ園が広がる絶景と有名なのだ。春に見頃を迎えるバラは、一年のうちでいまが一番美しい。

それに、この季節は暑くも寒くもない心地良い気温なので中庭に席を用意したのだが、二人の雰囲気にぴったりなので良かった。

二人に見惚れていると、シマキ様が私に手招きをした。

疑問に思いながらもシマキ様に近づくと、彼女は私を横に立たせる。


「貴方は、初対面よね。最近うちに入った子で、わたくしの専属メイドになったダリアよ。挨拶なさい」

「ダリアと申します」


私は、緊張しながらも、ここ最近でようやく慣れてきたカーテシーをした。紹介されるなんて思ってもいなかったから、ぎこちなくなってしまったかもしれない。

だが、エルンマット侯爵令嬢は、少し驚いた顔をしただけで気分を害した様子はなかった。


「‥‥‥正直に言ってシマキ様が、専属のメイドをつけるなんて思いもしませんでしたわ。常に同じ方が付いていることを嫌っているとばかり思っておりましたから。ラールックですら、いつも付いている訳ではないでしょう?」

「そうなのだけどね。この子を見つけた時、一目で気に入っちゃって、無理矢理専属になってもらったのよ」

「それは、不思議なこともあるものですわね」

「ふふっ、自分でもそう思うわ‥‥‥ダリア、お茶をお願い」

「畏まりました」


私が、一礼して裏へ下がった頃には、既に他のメイドたちが用意を済ませてくれていた。


「此方の準備は出来ています。ダリア、お二人に持っていってください」

「ラールックさん、ありがとうございます」

「落ち着いて、練習通りにすれば良いですからね」

「が、頑張ります!」

「胸を張って行きなさい」


ラールックさんに背中を押されて、緊張が少しだけ解れた。

大丈夫、あんなに練習したんだから。

その通りにやれば、きっと満足して頂けるはず!

私は、背筋を伸ばして中庭へと向かった。









「失礼いたします」


練習通りにお客様から順番に、お茶を置いていく。その後にお菓子を真ん中へお出しして、シマキ様の後ろの方へと戻る。

いちごが好きな方と聞いていたが、気に入っていただけるだろうか。

エルンマット侯爵令嬢が、ティーカップを持ち上げて匂いを嗅いだ時、穏やかだった顔が険しい顔に変わっていく。いちごの匂いが漂う空間で、気まずい空気が流れた。


「ねぇ、ダリアと言ってましたわよね。このお茶、いちごの匂いがしますわ。勿論、気のせいよね?」

「‥‥‥いえ、それはストロベリーティーですので、いちごの匂いもするかと」

「それは、いちごアレルギーである私への当て付けですの?」


頭が真っ白になった。

だって、いちごが好きだと聞いたのだ、他でもないラールックさんに。そんなのは、おかしい。だって、それじゃあ、まるで‥‥‥


「あの、いちごが好きだとお聞きして‥‥‥」


私が話し終わる前に、激怒したエルンマット侯爵令嬢は机を叩きつけて立ち上がった。顔は、怒りに染まり、それこそ真っ赤ないちごのようだった。


「嘘おっしゃい! ここの人たちには、アレルギーのことは伝えていますわ。知らない人なんているはずがありませんわ!」


騙された。

愚かな私は、そこでようやく気がついた。あんなにラールックさんが、親切になったのも私に失敗させるためだ。

脳裏ににっこりと笑うラールックさんの顔が思い浮かぶ。優しげと思っていた顔が、どんどん嘲るような顔に変わる。

どうして、怪しいと思わなかったんだ。

どうして、疑わなかった。

どうして、自分でも確認しようと思わなかったんだ。

どうして、シマキ様に秘密にしていたんだ。




決まってる、自分の虚栄心のせいだ。




シマキ様に頼らなくても出来るところを見てほしいと思った。いつも頼りきりだから。

その結果がこれだ。

でも、今更後悔してもどうしようもない。起こったことはゲームのように変えられないから。それよりも、何か言い訳を考えないと、このままではクビになってしまう。


その時、カチャンとティーカップをソーサーに戻す音がした。それは、今まで何も言わずに黙ってお茶を飲んでいたシマキ様が発した音だった。

シマキ様がゆっくりと後ろを振り返り、私に目を合わせる。いつもと同じ笑顔だった。


「ダメじゃない、ダリア」


だが、その言葉には呆れたような響きがあった。

どうしよう、シマキ様に見切られてしまった。

どれだけ、お心が広いシマキ様でもこんな失態は許さない。当たり前だ。

後悔と絶望で座り込んでしまいたいのを必死に我慢する。


だが、次の瞬間には私の想像とは違った言葉を投げかけられた。


「ティーカップを置く位置を間違えているわ。リムの前に置いてあるものも、わたくしのものでしょう」


シマキ様は、私を叱責する訳でもなくただ静かに言い放った。


「‥‥‥シマキ様、高がメイドを庇うんですの? このお茶は明らかに私に向けて出されたものですわ」

「庇ってなんかいないわ。わたくし、毎回お茶は二杯飲むから、一度に二個出してもらうように頼んだのよ」

「そんなことあり得ませんわ! だって、この前ご一緒した時は、その都度お茶を注いでいたではありませんの!」

「この半年で変わったのよ」

「‥‥‥なら、このお菓子はどう説明しますの? これにも、いちごが入っておりますわよね」

「このお菓子もわたくしのものよ。貴方用のは、別で用意していたのだけど、持ってくるのを忘れたみたいね。ダリア、厨房にマドレーヌがあるから持ってきてちょうだい」

「は、はい」


半ば放心状態のまま、厨房に向かおうとするとエルンマット侯爵令嬢が「お待ちなさい!」と声を上げた。


「そんな話を信じろと言うんですの? 無理がありますわ。そのメイドは即刻解雇すべきです!」


冷や汗が出た。

確かに、知らなかったとはいえアレルギーがあるものを出してしまったのは大問題だ。

それこそ、解雇になってもおかしくない。


「‥‥‥リム、わたくしの言うことが信じられないの?」


庇ってくれたのは、またしてもシマキ様だった。先程とは打って変わって、今度は冷たい人を威圧するような声色だった。エルンマット侯爵令嬢も、そう感じたのか途端に威勢がなくなり、椅子に座り直した。


「そ、そういう訳ではありませんが‥‥‥」

「ましてや、うちの使用人を解雇しろなんて、貴方はいつからそんなに偉くなったのかしら」

「‥‥‥す、すみません。出過ぎた真似をしましたわ」


そこで、シマキ様はパッと明るい顔になると朗らかな声を出した。


「謝らないで、わかれば良いのよ。さぁ、折角のお茶会ですもの楽しみましょう。ダリア、リムに新しいお茶とお菓子を出してあげて」

「し、失礼いたします」


シマキ様のおかげで、場は収まりその後は比較的穏やかなお茶会となった。






帰り際にエルンマット侯爵令嬢が、私を睨みつけた以外は‥‥‥。

ダリアが大変。

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