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悪役令嬢兼攻略対象!?

昨日の続きです。

シマキ様の瞳は、氷の様な冷たさを孕んでいた。まるでゲームの時みたいな表情のない顔に、ゾッとしてしまう。


「ダリア?」


だが、また直ぐにいつもの様な優しい顔に戻り、考え込んでいただけと気がついた。

そうだよ、シマキ様がゲームの様にサイコパスになるなんて、あり得ない。私は、もう十分に彼女の優しさに触れて、サイコパスでないことも知っている。

でも、私の心は未だにゲームと実在する彼女を重ねてしまうみたいだった。


「急に黙って、何処か具合でも悪いの? 話は、明日にして今日はもう休む?」

「いえ、ここまで話しましたし、今日聞いて欲しいです」

「貴方がいいなら‥‥‥それで、わたくしが攻略対象者とはどういうことかしら? わたくしは、悪役令嬢なのでしょう」

「その通りです。ですが、シマキ様は、悪役令嬢兼隠し攻略対象者なんです」

「隠し攻略対象者? わたくしの勉強不足だわ。どんどんわからない単語が出てくる」

「隠し攻略対象者とは、ある一定の条件をクリアすると攻略できるようになる人物のことです。シマキ様の場合は、三ループ目に王太子殿下を攻略するという条件でした」


私が前世でプレイしていた乙女ゲーム「花嫁候補は突然に」は、特殊なゲームとして知られていた。まぁ、その特殊な設定のせいもあり、あまり人気にはならなかったのだが、私は生まれて初めてプレイしたゲームということもあり大好きだった。

シマキ様ルート解放の条件は、今でも鮮明に覚えている。そもそも、私は隠し攻略対象の存在を知らない状態でプレイしていた。

では、何故そんな私がシマキ様ルートにたどり着いたかといえば、答えは簡単、偶然だ。


説明書に難易度が一番高いと書かれていたのが、王太子殿下だったため、難易度が低い順に生徒会長、保険医、王太子殿下の順番で攻略したところシマキ様ルートへ入ってしまったというわけだ。

王太子殿下とのエンディングを見る気満々だった当時の私は、中盤に突然出てきたシマキ様に盛大にビビった。


「大体理解したけど、三ループ目という概念がわからないわ」

「乙女ゲームは、大体一度のプレイで一人の攻略対象者としか結ばれません。だから、皆んな他の攻略対象者と結ばれるために何度もプレイするんです。三ループ目というのは、三回目のプレイという意味です。一、二度目で、生徒会長、保険医をクリアして三度目で王太子殿下を攻略しようとするとシマキ様ルートに入るというわけです」


このゲームには、ハーレムエンドと言うものが存在していなかったから、一度のプレイで全員を攻略することはゲームの性質上、不可能だ。

ふむふむと真剣に聞いてくれていたシマキ様が、何かに気がつき不思議そうな顔をした。


「王太子殿下ルートで、わたくしは死ぬと言ってなかったかしら?」

「あっ、それは王太子殿下を一度目か二度目のプレイ、つまり一ループ目かニループ目で攻略しようとした場合のエンディングですね」

「一、ニループ目での攻略と、三ループ目での攻略ではエンディングが違うということね。複雑なゲームだわ」

「そうなんです。私もプレイしている時は、それで色々なことを試して苦労しました」


前世の私は、それを知って完全クリアしたゲームをリセットし、他のキャラでも隠しエンドがあるのかもと色々試したが、何ループ目に攻略したかによってエンディングが変わるのは王太子だけだった。攻略本なんて持っていなかったから、疑問に思ったことを全部試して、凄く時間がかかったものだ。

まぁ、それも楽しかったけど。

前世のことを思い出して、感慨に浸っていた私は再びシマキ様ルートのことを思い出し、ハッと我に帰る。


「すみません、話が逸れました。シマキ様ルートのことを話そうと思ってたん、でした」

「そうだったわね。王太子殿下ルートが衝撃で忘れていたわ」

「三ループ目の王太子殿下ルート、シマキ様はヒロインにこう言うんです。

──貴方、三ループ目ね、って。」


ゲームをやっていて、突然この台詞を言われた時は、ゾッとした。まるで、ヒロインではなくプレイヤーに話しかけられているようで気味が悪かったのを覚えている。


「それって‥‥‥真逆」

「はい、ゲームの中でシマキ様は、ヒロインがループしていることを三ループ目で気が付いたんです。特定の人と幸せになったはずなのに、また学園入学時に戻って他の人に恋する、そんなヒロインの自分本位なところに惹かれたんだと思います」


ゲームの中のシマキ様は、皆んなを魅了してしまう体質から自己中心的な人物に惹かれてしまうという癖があった。そんなシマキ様にとって、何度もやり直して、その度に違う人物と付き合うヒロインは、さぞ魅力的に映ったことだろう。


「‥‥‥当たり前かもしれないけど、ゲームの中の自分の気持ちが良くわかるわ。自分本位ってことが、わたくしに魅了されていない証拠に思えたのでしょうね。わたくしの周りにいる人たちは、わたくしのために動く人ばかりだから」


遠い目をして想いを馳せるシマキ様を見て、どきりと胸が跳ねた。どうしてだか私は、シマキ様がヒロインの話をし始めてから胸が重くなったような違和感を覚えていた。そんなはずないのに、突然胸が痛くなったような感覚に、無意識に胸を押さえる。


「ヒロインのような子は、さぞかし興味深くて魅力的に思えたでしょうね。そして、こうも考える、閉じ込めて自分だけのものにしてしまいたいってね」

「──ッ!?」


驚きすぎて、声が出なかった。それは、正しくシマキ様ルートのエンディングだったからだ。監禁エンド、最初は自由奔放なヒロインを面白がっていたシマキ様。だが、軈てヒロインを心から愛する様になると、奔放な性格故に何処かへ行ってしまうのではないかと不安になって閉じ込めてしまうのだ。

そんな重たいエンディングだった。

私は、言い当てられたことに驚いて上手く反応できなかった。これでは、正解ですと言っているようなものじゃないか。監禁のことは、シマキ様がショックを受けるかもしれないと敢えて伝えなかったのに、意味がない。

唇をかみしめて後悔していると、呆れたような笑いが聞こえる。


「大丈夫よ、現実のわたくしはヒロインに惹かれない‥‥‥貴方がいるから」

「わ、私?」

「そうよ。わたくしに魅了されないダリアを、わたくしは一番に思っているわ」


胸の痛みが嘘みたいに消えた。

そっか、私、ヒロインにシマキ様を盗られるんじゃないかって、不安だったんだ。だから、シマキ様がヒロインに興味を持った口調で話した時、嫌な気持ちになったんだ。

慈しむような顔をしたシマキ様を見て思う、この人は本当にすごい人だ。私の不安な気持ちを一瞬のうちに消し去ってしまう。


「それに、わたくしのルートのことは考える必要はないわ。だって、この世界はゲームじゃない。現実なら、何度もやり直すことなんて出来ないから。一ループ目のことだけを考えるべきだわ。だから、貴方は何も不安に感じることはない。大丈夫、わたくしは死んだりも、況してや貴方を捨てるなんてこと、絶対にしてあげないから」


嗚呼、私の考えていることなんてシマキ様には筒抜けなんだ。

シマキ様は、原作乙女ゲームでは百合ルート要因でした。

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