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乙女ゲームの世界

今回の話、少し長くなったので2パートにわけて投稿します。

シマキ様に優しく促されて、私は何から話そうかと考える。しかし、頭がうまく働かず、あのとかそのとか意味のない言葉ばかり話してしまう。それでも、シマキ様は急かさずにゆっくりと待っていてくれた。


「あの、まずは私の前世についてお話しします」

「記憶があると言っていたわね」

「‥‥‥こんなこと言ったら、頭がおかしいと思われるかもしれませんが‥‥‥私、一度死んでいるんです。その‥‥‥ストーカーの男に刺されて」

「‥‥‥嗚呼、ごめんなさい。そんな辛い話だとは思わなくて、話したくなかったら無理に話さなくていいわ」


私の突拍子もない話にも、シマキ様は辛そうな顔をして気を遣ってくれた。


「いいえ、大丈夫です。話させてください! どういう経緯で刺されたかのかは、あまり覚えていませんが刺される感覚は覚えているんです。痛みも、男が愛していると言いながら私を刺し続けていたことも」


この世界で包丁を握った時に思い出した記憶。泣きながら、私の身体を何度も何度も刺し続ける男。この忌々しい記憶は、今でも悪夢となって私を苦しめ続けた。


「ずっとストーカーに悩まされていましたが、男の顔を見たのは刺された時が初めてでした。ストーカーの男は、全く知らない人だったんです。多分、話したこともないと思います。だから、前世の私は思ってたんです。気持ち悪いって」

「わたくしと同じね」


静かに笑ったシマキ様を見て、私は手を握りしめる。次いで、暗くなった雰囲気を打ち消す様に首を振る。


「それで、此処からが本題なんですけど」

「あら、今の話が全てではないの?」

「はい、寧ろ重要なのは此処からなんです。さっきよりも変なこと言うんですけど‥‥‥」

「今更じゃない。大丈夫よ、受け入れるわ」


それを証明するように、シマキ様は私の頭を撫でた。ドキドキしていた気持ちが、驚くように落ち着く。


「‥‥‥実は、この世界は私が前世でプレイしていた乙女ゲームにそっくりなんです」

「乙女ゲーム?」


首を傾げたシマキ様を見て、そうかこの世界には乙女ゲームなんてものは存在しないんだと気がつき、たどたどしく説明した。我ながら下手くそと思う説明でもシマキ様はふむふむと真剣に聞いてくれ、概要を理解してくれた。


「なるほど。つまり乙女ゲームというのは、物語のヒロインになりきって、攻略対象者と呼ばれる複数の男性と疑似恋愛が出来るという、貴方の世界にあった娯楽、ということね」

「はい、そうですけど‥‥‥」

「けど?」

「よく、私の拙い説明で理解できましたね」

「ふふっ、ダリアの説明は、十分わかりやすかったわよ」


慰めるようにそう言ってくれたが、正直言って自分でも何を言っていたか理解していないのに、わかりやすいはずがない。

私の説明でわかるなんて、シマキ様は凄く頭がいいのかもしれない。そういえば、ゲームでも頭が良い設定だった。


「それで、その乙女ゲームと、わたくしにどんな関係があるのかしら?」

「あっ、はい。実は、その乙女ゲームに‥‥‥シマキ様が出てくるんです」

「わたくしが? それは、面白いわね。一体どんな役なの?」

「‥‥‥その、」

「うん?」

「えっと、」


悪役です、と言い難くて俯いてしまう。優しいシマキ様でも、悪役だなんて言われたら流石に怒ってしまうかもしれない。

しかし、下から覗き込むように見たシマキ様の顔は、私の予想に反して満面の笑みだった。そのうちに、ぷっと吹き出して此方が驚く。


「あははっ」

「なっ、何で笑うんですか?」

「ふふっ、ごめんなさい。貴方があまりにもわかりやすかったから」

「わ、わかりやすい?」

「そう、わかりやすい。そんなに言いにくい役だなんて、言われなくても想像がつくわ‥‥‥悪役だったのね」

「!?」

「図星って顔。そう、貴方の世界のゲームで、わたくしは悪役だったのね」

「‥‥‥悪役令嬢と呼ばれていました。でも、ゲームの中のシマキ様とは全然性格が違います! 今、目の前にいるシマキ様が悪役とは、私は思えません!」


出会った時から思っていたが、ゲームのシマキ様と目の前にいるシマキ様では、全く性格が違うように思えた。ゲームの中でシマキ様の幼少期を知ることはできないが、こんなに優しいシマキ様がゲームの物語が始まる五年後に、突然サイコパスになるとも思えない。


「そんなに慌てなくても、怒ったりなんてしてないわ。寧ろ、納得しているの。わたくしは、ヒロインなんて柄じゃないから」

「で、でも、シマキ様は私の恩人です」

「ありがとう。貴方にそう言われると、凄く嬉しい‥‥‥ねぇ、ダリア、この世界が本当に乙女ゲームの世界か確かめるためにも、ゲームの内容について教えてくれるかしら?」

「は、はい。このゲームに出てくる攻略対象者は四人です。確かそのうちの一人はシマキ様の婚約者という設定で‥‥‥ごめんなさい、名前がよく思い出せなくて」

「わたくしの婚約者? コートラリ・アルエラナ王太子のことかしら?」


その名前を聞いた時、頭の中でパチリとピースがあったような感覚がした。そうだった、ゲームをしている時、外套みたいな名前だなぁと思ったんだ。


「そうです! その方で間違いないと思います。やっぱり‥‥‥この世界はゲームと同じなんだ」

「そう‥‥‥コートラリ様は、わたくしとは別の人と恋に落ちるのね。政略結婚だけど、なんだか複雑だわ」

「いえ、そんなことはありません!」


切なそうな顔を見せたシマキ様に、咄嗟に否定の言葉を投げる。私のいつもよりも大きな声に、驚いたらしいシマキ様が若干目を見開いた。


「王太子殿下は、ゲームの中で最後までシマキ様のことを愛し続けます」

「でも、貴方から聞いた話だと乙女ゲームという物は、攻略対象者がヒロインである主人公と恋に落ちるゲームなのでしょう。なら、わたくしは愛されないのではないの?」

「えっと、その通り‥‥‥なんですけど、乙女ゲームというものには様々なエンディングがあります。誰と恋愛したかによってエンディングは異なるんです」

「なるほど‥‥‥結末は、ひとつじゃないということね」

「はい。ヒロインの言動によって、誰とどう結ばれるのか変わってくるんです。王太子殿下以外の攻略対象者には、ヒロインと結ばれるエンディングがありますが、王太子殿下にはそれがないんです」

「なら、コートラリ様とわたくしは、どんな結末を迎えるかしら?」


シマキ様の疑問はもっともだ。だが、王太子ルートのシマキ様の結末は中々残酷なもので話すことに躊躇してしまう。

でも、話しておいた方が良い気がした。


「これは、あくまでも私が知っている乙女ゲームの中の話と理解してください」

「えぇ」

「簡単に言うと、王太子殿下ルートでシマキ様は‥‥‥亡くなってしまいます。悪魔に殺されてしまうんです」

「悪魔? ごめんなさい、いまいち話が理解できないわ。どういうこと?」

「シマキ様は、誰からも好かれる体質と言っていましたよね」

「好かれるというよりも、崇拝に近いかもしれないわ」

「それです! その原因は悪魔にあるんです‥‥‥悪魔の寵妃、それがシマキ様です」


シマキ様は、私の発言に驚き、そして目を逸らした。

いよいよ、乙女ゲームのことについて話し始めました。

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