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賭博 (ルイカ視点)

番外編第五段です。

今回は、ヒロインルイカ視点。

「第88部 後夜祭」の後の話です。

触れなくとも気がついた。

その他人を妬むような瞳を見た瞬間に、僕という前世を思い出した。そして、麻葵(あさぎ)とのことも全て。









僕が前世のことを思い出したのは、二ループ目の途中だった。親に言われるまま学園に入学して、神様の指示に従ってシマキ(あくま)に魅了れた連中を正気に戻そうとイベント回収に奮闘している、正にそんな時だった。

二ループ目の麻葵‥‥‥いや、ダリアはいつも何かに怯えていた。大きな音や声を過剰に怖がって、周りの生徒たちに煙たがられていた。

そんなダリアをどんな時でも側に置いて離さなかったのが、他でもないシマキだった。当時の彼女はどんな時でも無表情を崩さない冷たい印象の御令嬢で、唯一表情を崩すのはダリアの前だけ。その事実はシマキを慕っていた多くの生徒たちにとって面白いものではなく、ダリアは瞬く間に孤立してしまったんだ。


周りは、シマキは優しいから孤児を放っておけないんだなんて言っていたけど、僕はどうしてもあの女がそんな真っ当な考えの御令嬢には見えなかったんだ。

だって、ダリアが一番怯えた顔をしているのは、シマキが隣にいる時だったから。


都合が良いと思った。


ダリアは、いまの雇用主に満足していない。もしかしたら、僕が前世で君を殺した(たすけた)男と知れば、彼女は僕に助けを求めるかもしれない。そうしたら、今度こそ、僕はダリアと生きるために全力を注ごうと決意していたんだ。


『い、嫌っ‥‥‥やめて、許して。お願い、だから。もう、関わらないで』


でも、ダリアは僕の正体を知って、僕のことも恐れるようになった。学園で会うたびに怯えられ、避けられて、そうなってしまったら何をやっても無駄だったんだ。

そのうちにダリアが、ペールン公爵家の騎士と心中したという噂が学園中に広まった。

シマキの荒れた様子から、それが真実と判断した僕は、どうしようもない喪失感に襲われて、ダリアに出会ってから放棄していた攻略をもう一度始めたんだ。

ダリアを生き返らせるには、それしか方法がなったから。一刻も早くダリアに会いたくて、その時一番好感度が高かったアケを慌てて攻略したよ。









こうして、始まった三ループ目。

前と同じように学園入学の一週間前に戻った僕は、ダリアを手に入れる方法を死ぬ気で考えた。

ここからでは、どう頑張ってもシマキよりも先にダリアに出会うのは無理だ。というよりも、もう出会った後だろう。学園入学後に出会うしかない。だとしたら、僕が考えるべきは学園入学後にどう振る舞うか、だ。

ダリアにとって、どうやら前世のことはトラウマで、前世の僕という存在は彼女にとって恐怖そのものらしい。ならば、僕がやれることはひとつ‥‥‥前世のことを悟られないように振る舞うのみだ。一番はヒロインらしく振る舞うことだろうが‥‥‥だが、それだけではダリアと良い関係を築ける可能性は低い。


さてどうしたものか。


手っ取り早く信頼を得る方法。そんな都合のいい方法はないだろうか‥‥‥その時、頭の中でひとつのアイディアが浮かんだ。突拍子も無いそのアイディアは、下手したら前回よりも悪い結果になるかもしれない。

演技なんてしたことない。他人に成りすましたことだってない。失敗する可能性の方が明らかに高い。

でも、これは前世で麻葵(ダリア)を観察し続けてきたからこそ出来る作戦でもあった。


こんな曖昧な作戦、ダリアが関わっていなければ絶対に実行しないだろう。危ない賭けだ。

それでも、シマキに勝つにはこれしかない。


──ダリアの前世での友人、夜宵(やよい)のふりをする。


夜宵の癖や性格は、麻葵を観察していた過程で把握している。

大丈夫、上手く演じてみせる。








───────────────────







三ループ目で、出会ったダリアは予想以上にシマキに懐いていた。驚いたよ、真逆シマキがあれほど穏やかな性格になっているなんてね‥‥‥まぁ、表面上だけだけど。


兎に角、保険が必要だと思った。僕がもし、今回もダリアを手に入れることが出来なかった時は、もう一度ループさせる。そのためには、攻略対象者の好感度をある程度上げておかなければならない。

なんせ、ループの条件は乙女ゲーム「花嫁候補は突然に」通りにエンディングを迎えることだ。バットにしてもハッピーにしても、好感度を上げないことにはエンディングに辿り着けない。だから、マールロイドとアケのイベント回収に全力を注いだ。もしもの時には、二人のうちのどちらかと卒業式の日に幸せの鐘の下で、キスすれば良い。

でも、コートラリの好感度だけは上げなかった。過去の二回でマールロイド、アケを攻略している僕は、今回の三ループ目でコートラリの好感度を少しでも上げてしまえば、隠しキャラのシマキルートを解放する条件が揃ってしまうから。


そうなってしまったら厄介だ。


シマキルートは、ヒロイン監禁エンドのみ。

しかも、一、二ループ目でマールロイド、アケを攻略し、かつ三ループ目でコートラリとのイベントをひとつでもこなすと問答無用でシマキルートに突入するのだ。三ループ目までにコートラリを攻略していなければ、ほぼ間違いなくシマキルートへ入ってしまうような条件なんだ。

ここで厄介なことは、原作である乙女ゲームでシマキがヒロインであるルイカをいつ監禁したのか記述されていないこと。他の三人の攻略対象者はどのエンディングでも、卒業式の日という記述があった。

なのに、シマキには具体的な日程が書かれていない‥‥‥それは、言い換えればどの日でも起こり得るということだ。つまり、シマキは卒業式の日以外でも、三ループ目であればいつでも時間を巻き戻すことが出来るということを意味していたんだ。

これは非常に厄介だった。

何故なら、仮にダリアを早い段階で手に入れることが出来たとしても、シマキがヒロイン(ぼく)を監禁すれば、時間が遡って無かったことにされてしまうからだ。


これに気がついた時、僕は過去二回の自分の行動を呪った。どうして、コートラリを攻略しておかなかったんだ。一ループ目は前世のことを思い出していなかったから仕方ないにしても、二ループ目で攻略していれば‥‥‥いや、今更後悔しても仕方ない。

今、やるべきことは三ループ目である今回に、コートラリとのイベントを全て回避することだ。そうすれば、条件を満たすことはなくシマキルートが解放されることはないだろうから。






───────────────────






「って、思っていたんだけどね。全く、本当に嫌な性格だねぇ、あの女」


後夜祭が終わり、一気に疲れが出た僕は、ドレスのままベッドに横たわっていた。こんな姿、メイドが見ればドレスに皺が出来てしまうと怒るだろうが、生憎貧乏貴族の僕には怒るメイドがいない。


ため息を吐いて寝返りを打つ。


これからのことを考え直さないといけない。

あの女‥‥‥シマキが後夜祭で仕掛けてきた。

僕の浅はかな考えは、どうやらシマキにはお見通しだったみたいだ。コートラリのイベント回収をしない僕に、シマキは無理矢理イベントを回収させてきたんだ。

後夜祭でのコートラリとのダンス。あれは、ゲームのイベントに他ならない。皆んなが揃っているあんな場で、この国の王太子からダンスに誘われたら断れるはずない。断れば不敬罪で殺される可能性すらあった。

それをわかったうえでシマキは、コートラリに命じたのだろうなと安易に予想出来た。

あの男は──シマキがどんな手を使ったのかは謎だが──完全にシマキの手中に堕ちている。神の力を使ったところで、正気に戻すのはもう無理だろう。そんな男が僕を自発的にダンスに誘うはずがないんだ。

これはシマキからの警告だ。

ダリアを奪えば、時間を巻き戻すという警告。


「‥‥‥さて、ダリアに何て弁解するかな」


コートラリとのダンスは、ダリアにも勿論見られていた。きっと、後々、どうしてシマキの婚約者であるコートラリとのイベントを回収したんだと問いただされるだろう。

本当に面倒なことをしてくれるよ‥‥‥迷っているふりをしているが、もう方法はひとつしかないとわかっている。


ゲーム補正が働いた。


それが一番無難で、ダリアに不信感を抱かせない弁解だろう。


「‥‥‥僕がそう言うことも、あの女は予想しているのだろうね」


意図せず、舌を打ってしまう。

あの女の予想通りに動くことは、腹立たしいことこの上ないが、今回は仕方ない。

今は兎に角、ダリアの信頼を得ることが大切だ。僕が約束を破ってコートラリの攻略をし始めたと思われたら溜まったものではないからね。


起き上がって体を伸ばす。


警告されたからと言って、怖気付くようなら最初からこんなことしないさ。


「悪いけど、僕は諦めの悪い男でね」


口に出せば、余計にダリアが恋しくなった。

ヒロインは鋼の精神の持ち主なので、何があっても楽しそうですね。


番外編ですが、あと一つで完結の予定です。

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