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自分で決めて

今日少し長めです。

何かを抑えるようなシマキ様を見て、ルイカは「ははっ」と思わず漏れ出したというような声を上げた。


「やあっと、焦り出した。やっぱり、あの頃のことを言われるのは嫌か」

「聞くに耐えないわ。ダリア、あの男は嘘しかつかない。今の話だって全部作り話よ。私たちの仲を裂こうとしている」

「‥‥‥大丈夫です。シマキ様、わかっていますから」


もう、ルイカの‥‥‥この男の言うことを聞くつもりはない。


「ダリア‥‥‥ありがとう」


噛み締めるような笑顔は、心からの笑顔のようだった。こんな状況にも関わらず、嬉しくなってしまう。そんな私たちの間に入るように、ルイカが懇願するような声を出した。


「ダリア、僕のことを信じてくれ。

本当はわかっているんだろう。その女は優しい奴なんかじゃあない。君を支配するために暴力を振るうような奴だ‥‥‥僕と変わらないさ」

「あんたとシマキ様を一緒にしないで!」

「そうね、少なくともわたくしは、貴方のような人殺しではないわ」


シマキ様の言葉に、ルイカは嘲るような笑みを浮かべた。


「嘘しかつかないのは、君の方じゃあないか‥‥‥今まで一体何人消してきたんだ」

「なにをっ‥‥‥」


言い返そうとした私を止めるように、シマキ様が一歩前へ出た。


「それも、作り話かしら?」

「作り話でないことは、シマキ様が一番わかっているはずだよ」

「‥‥‥自作自演したような人の言うことなんて信用できないわ」

「おや、自分のことかい?」


二人の会話を黙って聞いていようと思ったが、気になる単語に思わず声を漏らす。


「自作自演?」

「そうよ、ダリア。この男、わたくしをストーカー男に仕立てるために、態とこんな怪我したのよ。そうすれば、貴方が信じてくれると思ったのでしょうね。

ふふっ‥‥‥ダリアを手に入れるためだけに、意識不明になるなんて、その気概だけは評価に値するわ」

「そんな、そんなことのために、死にそうになっていたの‥‥‥狂ってる」

「えぇ、そうよ。あの男は狂ってる。昔からね。剰え卒業式の日に目覚めるのだもの‥‥‥本当に凄まじい執念だわ」


シマキ様の冷たい視線に、ルイカは首を横に振った。


「ダリア、この女の言うことを信じるべきではないよ。そもそも、自作自演だなんて無理がある。君にもわかるだろう? 僕のこの傷は明らかに自分でつけられるものではない。

他人から暴行されたものだよ」

「えっ、えぇ。それは私も‥‥‥その、そう思います」


アケ先生は、蚊の鳴くような声でルイカに加勢した。だが、シマキ様はその言葉を聞いても表情を変えなかった。


「その通りよ。自作自演をするにしても、多少怪我をした程度では信じてもらえないと考えた貴方は、協力者を用意したのよ。そして、その協力者に死ぬ寸前まで暴行ように頼んだ‥‥‥さて、ルイカ、貴方は幾つもの罪を犯したわ。

まず一つは、自作自演にも関わらず、わたくしに罪を被せようとしたこと。

そしてもう一つは‥‥‥わたくしの大切な人を誘拐しようとしたこと」


そう言って、シマキ様は私の方を一瞥した。目が合うと、にこりと微笑んでくれる。その瞳は、何処までも不安そうだった。


「‥‥‥で、僕がその罪を問われたとして、どうなるというんだい?」

「貴方は確実に極刑になる。このわたくしを侮辱したのだもの」


自分に向けられたわけではないのに、シマキ様の氷のような冷たい声に背筋が震える。だが、ルイカは嘲笑うように顔を歪ませただけだった。


「シマキ様、忘れちゃったのかな? 僕には、神の加護があるんだよ。傷をつけることは出来ても、僕を殺すことは何人たりとも出来はしないのさ。だから、今回だって、意識を取り戻せた。

誰にも殺すことはできない孤高の存在‥‥‥それが、神の加護を受けたものの恩恵だ。君は知っているはずだよ」


ゲームには出てこなかった設定に、内心首を傾げるがそれを言い出せる雰囲気ではなかった。


「神の加護? 一体何処にその恩恵を受けた者がいるのかしら?」


その瞬間、場は一気に静まり返った。

何処からか強い風が吹いてきて、カランと幸せの鐘が鳴った。


──瞬間、


「アケ先生っ!」


ルイカは、今までの薄ら笑いを完全に消し、見たこともないくらい焦った顔をして、アケ先生を悲鳴のような声で呼んだ。

しかし、アケ先生は、その声に全く反応しない‥‥‥いや、出来なかったのだ。


──何故なら、アケ先生はその場で血を吐いて倒れたから。


そして、アケ先生が今まで立っていたその場所には、コートラリ様が優雅に佇んでいた。

その右手には、赤黒く汚れた真剣が握られている。


「まぁ、コートラリ様。相変わらず、気配を消すのがお上手ですね」


コートラリ様がいること、全く気が付かなかった。というか、いつからアケ先生の後ろにいたんだ。そんな隙、思い当たらない。

と、そう思った時、私の頭にひとつの可能性が浮かんだ。

そういえば、シマキ様がここへ現れた時、その一瞬だけ私たちの関心は彼女へ向かった。

真逆、その瞬間に、誰にも気づかれることなくアケ先生の背後に付いた‥‥‥?

だとしたら、気配を消すのが上手いなんてレベルではない。


混乱した私の思考を戻すように、シマキ様の冷たい声がコートラリ様へ向けられる。


「‥‥‥殺してませんよね?」

「嗚呼、勿論。急所は外したさ。アケ先生には、聞かなくてはならないことが山ほどありそうだからね」

「聞かなくてはならないこと‥‥‥?」


険しい顔のコートラリ様、焦ったような顔のルイカ、そして微笑みを崩さないシマキ様。

恐らく、何も理解していないのはこの場で私だけだった。


「ルイカ、貴方‥‥‥協力者にアケ先生を選んだわね。彼は、交際していた女性を暴行の末に殺したという過去があったわ。まぁ、お家の力でもみ消したみたいだけど」

「えっ?」


倒れていたアケ先生が、血溜まりの中で藻搔いた。

この世界では優しいと思っていたアケ先生の裏の顔は、ゲームと全く変わらなかった。その事実に、私は僅かに落胆する。


「でも、アケ先生は、その事件以降変わった。もう女性に暴力を振るわなくなった‥‥‥貴方、アケ先生に話を持ちかけた時、一度断られたのではない?」

「‥‥‥」

「だから、貴方は、自身に向けられたアケ先生の好意を利用したのね‥‥‥体で支払った、そうでしょう?」

「──ッ!」


ルイカは再び焦った顔をすると、今度は車椅子を動かして逃亡しようとした。


「──ゔっ!!!!」


が、それは背後にいたコートラリ様によって防がれてしまう。ルイカが車椅子のハンドリムに掛けた手を上から小刀で突き刺したのだ。

小刀は手を貫通し、ハンドリムまでもを刺していた。車椅子にピン留めされたような状態のルイカは、睨みつけるようにシマキ様を見ている。

異常な緊張感の中、それでもシマキ様は微笑みを崩さなかった。


「神という存在を崇拝しながら、他の男性に体を差し出すなんてダメじゃない‥‥‥貴方いま、攻略対象者の好感度が見えないのでしょう?」

「ど、どういうことですか?」


黙ってしまったルイカの代わりに、私が発言する。

攻略対象者の好感度が見えるのは、神の加護を受けた者の恩恵のひとつだ。

それが見えないということは、もしかして、ルイカは‥…‥


「あの子の加護は、五ヶ月前に無くなった。アケ先生と男女の仲になった瞬間にね」

「加護が、無くなるっ!?」


そんな話、ゲームの中には全く出てこなかった!

私の驚いた顔に、シマキ様は優しく微笑んで返す。


「この国で神に仕える者は、純潔でなければならないのよ。この国の神様は、自分以外に関心を持ってほしくないのよ。

そういった理由で、処女を殊更好む傾向にあるの。だからね、神様は男を知った女には興味をなくすのよ。ダリアは知らなかったのね」

「は、はい」


前世でも、そういう話はあったのかもしれないが、私はそういったことに興味がなかったので、全然知らなかった。


「無理もないわ。そういった宗教的な話は、興味を持って調べなければ、知らない人も多いもの‥‥‥それは貴方も同じだったようね、ルイカ」

「‥‥‥そもそも、僕は極刑になんてならない。だって、僕をこんな風にしたのは、本当にシマキ様なんだから!」

「だから、言ったでしょう? 最初から貴方を怪しいと思っていたって。その時点で貴方には監視を付けた」

「嗚呼、あのウロチョロとしていた奴らか‥‥‥あんな見え見えの監視に何が出来るんだ」

「流石はストーカーだわ。貴方は、人の気配には敏感で、監視の元では何も怪しい動きはしなかったわね‥‥‥だから、わたくしは、あの日、貴方が意識不明になったあの日に、監視役にコートラリ様を付けたのよ。

コートラリ様は気配を完璧に消すことができるわ。貴方が気づかなくても無理はない」


無表情だったルイカが、目を僅かに見開いた。


「コートラリ様は、あの日、貴方たち二人の間に何が起こったのかも、しっかりと目撃しているわよ。凶器となった鉄パイプも、アケ先生が捨てたところを回収した」


シマキ様の言葉に、今度は私が驚く。シマキ様はずっと、ルイカに暴行した犯人を懸命に探っていたが、あれはフリだったのだ。

本当は、もっと前に犯人を突き止めていたんだ。


「証拠も証言も全て揃っているわ。裁判をすれば、確実にわたくしが勝つ。

でもね、ルイカ、安心して。わたくし裁判なんて、そんなつまらないことしないわ」


そこで、シマキ様は言葉を切ると、私の方へ向き直った。何処か不安そうな瞳と目が合う。


「ストーカー男、貴方を裁くのは法では無い。ダリアよ」

「えっ?」


突然出てきた話に、私はついていけなかった。そんな私のことは気にしていないとばかりに、シマキ様は私の背後に移動すると、私のスカートの中に手をゆっくりと差し入れてきた。


「シマキ様、なにをっ!」


驚く私の声を無視して、シマキ様はその行為をやめない。

そして、目的の場所を見つけると、ゆっくりと手をスカートから出した。


「あっ‥‥‥!」


その手には、私がいつもスカートの下に隠している小刀が握られている。


「あの男を生かすも、殺すも、貴方次第‥‥‥自分で決めなさい」

さぁ、いよいよクライマックス!

あと、三、四話で完結する予定です。

最後までよろしくお願いいたします!

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