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一緒に生きていこう

昨日の続きです。

「し、信じられません」


アケ先生は一通りルイカの診察を終えて、驚いたように呟いた。


「意識を取り戻して、その、すぐに起き上がれるようになるなんて‥‥‥」


そう、今ルイカはベッドの上で上半身だけ起き上がっていた。介護用ベッドのためベッド自体が背もたれのように上がっているとはいえ、凄まじい回復力だ。


「ルイカ、大丈夫? 無理しないで、横になっていたら?」

「大丈夫‥‥‥寝過ぎて、体、痛い、から。起きている方が、楽」


言語にも問題のなさそうなルイカの様子を見て、アケ先生はまた驚いた。


「なら、いいんだけど」

「あの、その‥‥‥シマキ様に、ご報告しなくても、その、いいんですか?」


アケ先生のボソボソとした声に、そうだったと気がつき、慌てて椅子から立ち上がった。


「すぐに伝えてきます」


しかし、立ち上がったところで手首を弱々しく掴まれる。


「待って!」


弱々しい力とは反対に、声は掠れてはいたものの大きかった。その反動で、ごほごほと咳き込んだので、私は近くに置いてある水差しからコップに水を注いで渡した。


「無理しないで、ルイカはずっと意識不明だったんだから」

「あり、がとっ‥‥‥でも、シマキ様には、まだ伝えないで」

「えっ? どうして? シマキ様も凄く心配してたんだよ」


私がそう言うと、ルイカは顔を少し歪ませて苦々しい表情をした。


「どうしたの?」


私が問いかけても何も答えないルイカに、何だか不安になる。不意にルイカが覚悟を決めたように、私の目をじっと見つめてきた。


「‥‥‥シマキ様、だった」

「えっ?」

「私を、こんな風にした、犯人」


雷に打たれたような衝撃が走った。それはアケ先生も同じだったようで、目を見開いたまま固まっている。


「‥‥‥シマキ様は、ルイカのこと本当に心配してたんだよ。そんな人が、犯人だなんてあり得ないよ」

「でも、私は、見た。被害者の証言を、信じてくれないの?」


嘘だと思った。絶対に嘘だと、そう思っている。でも、ルイカの悲しそうな目は、とても嘘をついているようには見えなかった。


「でも、あり得ない。だって、その日、シマキ様は王宮に呼ばれて、コートラリ様と一緒にいたんだよ。そんなこと出来るはずがない」

「その、コートラリ様も、一緒にいたと、言ったら、どうする?」

「コートラリ様は、この国の王太子殿下だよ。それこそあり得ない」

「だからこそ、権力を使えば、何をしても、隠蔽、できる。二人は、共謀」

「そんなこと‥‥‥」


ないと言えるのだろうか。

シマキ様に言われればコートラリ様は、何でもしてしまうかもしれない。

私が黙っていると、ルイカはまた続けた。


「私の、意識が戻ったことを知れば、シマキ様に、今度こそ、殺される!」


そう話すルイカの目は、恐怖に染まり体は僅かに震えている。私がルイカの布団を掛け直すと、彼女は私の手を握ってきた。


「もう、ゲームなんて、家のことなんて、どうでもいい‥‥‥ここにいたら、シマキ様に、生きていることが、バレたら、いずれ、殺される。私はもう、この学園(ぶたい)から、逃げる」

「逃げるって‥‥‥無理だよ。こんな体じゃ、どこへも行けない」

「アケ先生に、協力、してもらう。先生、お願い、手伝って」


急に話を振られたアケ先生は、驚いたものの震えているルイカを放っておかなかったのだろう。メガネをかけ直すと、顔を青くさせながらも頷いた。


「アケ先生、本気ですか?」

「‥‥‥教師として、その、震えているルイカさんを、見捨てることは、出来ません」

「私は、隣国へ、逃げる。ダリア、貴方にも、一緒に、来て欲しい」

「そんなこと突然言われても‥‥‥」

「一刻も早く、ここから、逃げたいの。わかって‥‥‥今すぐに出発する」

「‥‥‥行けないよ」

「‥‥‥一緒に来るの! だって、私がシマキ様に、こんな風にされたってことは、彼奴はストーカー男である、可能性が高い。いつか貴方も、前世の頃のように、殺されるかも、しれない」


その言葉は、大いに私の心を動揺させた。確かにシマキ様がストーカー男だとしたら、私はまた殺されるかもしれない。


私が放心している間に、アケ先生は奥から車椅子を持ってきてルイカを素早く乗せた。


「兎に角、この学園を、出る」


車椅子に乗ったままのルイカが、私の手を弱々しく握った。その目は何処までも澄んでいて、私は何故だか手を離せなかった。





◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉





日の出前の校舎は暗くて、静かで、カラカラとした音が響いていた。アケ先生が押す車椅子は、存外早くてルイカに手を掴まれている私も、小走りでないとついて行けなかった。


でも、私は走りながら、何が正しいのかを未だに判断できていない。シマキ様かルイカのどちらかが嘘をついているなんて、到底思えなかった。


繋がれた手を見る。


これまで、何度もシマキ様に手を引かれてきた。私が不安になった時、悲しかった時‥‥‥誰も味方がいない中でもシマキ様はいつだって味方になってくれた。

信じてくれた、導いてくれた‥‥‥愛してくれた。

走馬灯のように、シマキ様の優しい顔が次々と思い浮かぶ。


私、何をしているんだろう。


悩む必要なんてない。シマキ様が暴行なんてそんなこと、絶対にするはずが無い!

だって、この世界のシマキ様はゲームと違って、とても優しいから。


「アケ先生、幸せの鐘のところを、突っ切れば、近道」


幸せの鐘を突っ切れば、すぐに外へ出れてしまう。このまま出れば、もう私は二度とシマキ様に会えることはないだろう。

そう思った瞬間、私の足は自然に止まった。

手を繋いでいたルイカの車椅子も、やや乱暴に止まる。

ルイカもアケ先生も、驚いた顔をして足を止めた私を見つめている。


「‥‥‥どう、したの?」

「ごめん、ルイカ。私、やっぱり‥‥‥一緒には行けない」

「ダリアさん、あの、私も、付いていますから、心配しなくても、大丈夫ですよ。その、少し頼りないかもしれないですけど」

「ごめんなさい。私は、シマキ様が犯人だなんてどうしても思えないんです。このまま、シマキ様を置いていくなんて、そんなこと出来ない!」

「ダリア‥‥‥」


ルイカは少しばかり悲しそうな顔をすると、両手で包み込むように手を握り直した。


「前に、約束した‥‥‥もし、これから先、別々の道を、歩んでいても、どちらかが逃げ出したくなるくらい辛いことがあったら、一緒に‥‥‥()()()いこうって」


子供に言い聞かせるような穏やかな声のルイカに、私は目を見開く。その言葉を理解した時、私の目からは勝手に涙が溢れた。


──そして、次の瞬間には、私は反射的にルイカの手を振り払った。


「貴方、貴方‥‥‥ 夜宵(やよい)じゃない!」

読んでいて、もう察している方もいるかもしれませんが、今週中か来週には最終回を迎えると思います。

いよいよクライマックス! 最後まで楽しんでいただければ嬉しいです!

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