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過去の罪

昨日の続きです。

悲鳴が聞こえる。


私は、本能のままに何かを手に取って、何かを刺し続けた。

ぐちゃぐちゃと嫌な音が響いていた。

赤い液体が何かから出続けている。

遠くで悲鳴が聞こえた気がした。


でも、構わずに何かを刺し続けた。

それが何かはわからないが、そうしなければならないと思ったから。


脅迫概念にも似た気持ちで、私は腕を動かし続けた。

軈て、悲鳴は聞こえなくなった。

それでも、私は刺し続けた。だって、そうしないといけないから。



気がついた時、私は誰かに馬乗りになっていた。私の下にいるのは、血だらけの女性だった。


何かは、人間だったんだ。


正気を取り戻した私は、その場から離れようとした。その時、手からコツンと軽い音を立てて何かが落ちた‥‥‥包丁だった。


私は、恐る恐る血だらけの女性を見る。


──女性は『     』だった。






◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉






「‥‥…きて、‥‥‥リア」

「ゔっ」

「起きて、ダリア!」

「──ッ!」

「よかった、大丈夫?」


シマキ様が、心配そうな顔をして私を覗き込んでいた。何かあったのかと飛び起きた。


「えっと、?」

「凄くうなされていたのよ。また、変な夢を見たのね」

「夢‥‥‥?」


変な夢?

その瞬間、頭に血だらけの女性が浮かび上がった。

そうだ、あれは、あれは夢なんかじゃない!

あの女性は、


──ラールックさんだった。


あれは、私が過去に犯した罪だ。


「シマキ様‥‥‥私かもしれません」


考える前に声が出た。


「えっ?」

「私が、ルイカのことを‥‥‥あんな風にした犯人かも、しれません」


あの時、あのラールックさんを刺し続けた時、私の記憶は曖昧だ。

幸いにもあの時は、その後にラールックさんへしたことを思い出せたが、今回はルイカに暴行したことを全て忘れている可能性だって、十分にあった。


「何を、言っているの‥‥‥?」

「‥‥‥私、ラールックさんに酷いことをした時、あまり覚えていないんです。だから、ルイカを暴行して、その記憶を忘れているだけかも、しれません」

「何か心当たりがあるの?」

「‥‥‥いいえ、何も。何も覚えていません」

「なら違うわよ」

「でも、でも、私には、アリバイがないんです。シマキ様は王宮に行っていたから、私はあの晩、この部屋にひとりで寝ていたんです。

だから、私は学園に忍び込んで、ルイカをあんな風にすることだって出来た‥‥‥自分はやってないっていう自信がないんです」


怖かった。

嫉妬に狂って、友人であるルイカにあんなことをしてしまったのではないかと思うと、震えるほど怖かった。


「なら、服は何処にあるのよ?」

「服?」

「そうよ、ルイカは重症よ。あんな状態になるまで殴ったら、普通犯人だって血だらけになるはずでしょう? 記憶のないうちに貴方が罪を犯したとしたら、あの晩着ていた寝巻きに血がついていたはずよ。

でも、ルイカが意識不明になったあの朝、貴方はわたくしを出迎えてくれたけど、血なんて何処にもついていなかったわ」

「‥‥‥覚えていないだけで、着替えたのかもしれません」

「だとしたら、起きた時に違和感を覚えるはずよ。貴方は、わたくしが帰ってくる前から起きていた。そうでしょう?」

「は、はい。いつもシマキ様が、お戻りになる一時間ほど前から起きていますから、あの日も多分、そうだったと思います」

「だったら尚更、寝巻きの変化に気がつかないなんてことは、ないはずよ。寝る前に着ていた服と違う服を着て起きたら、誰だって気がつくわ‥‥‥貴方だって例外じゃない」

「‥‥‥」


俯いた私の頭を、優しく安心させるように撫でてくれた。


「大丈夫、貴方じゃない。犯人は他にいる」


シマキ様の断言したような物言いに、漸く顔を上げられた。シマキ様は、柔らかい微笑みを浮かべている。


「すみません‥‥‥私、少し変な夢を見て」

「仕方ないわよ。ルイカが意識を失って、もう一ヶ月。疲れているのよ、貴方も、わたくしも‥‥‥今日はもう休んでしまいましょうか」

「えっ!」

「ダリア、学園側に連絡しておいてくれる? わたくしが体調不良と伝えれば、何も言われないわ」

「で、でも、ズル休みなんて、いいんでしょうか?」 

「いいじゃない、偶には。こういう日のために、いつも真面目に授業受けているのでしょう?」


茶目っ気たっぷりの笑顔に、私も思わず笑ってしまう。

確かに、偶にはいいかもしれない。


「そうですね、休んでしまいましょうか」

「ふふっ、なら、今日は二度寝しましょう」


こうして私たちは、久しぶりにゆっくりとした時間を過ごした。

ダリアは悪夢を沢山見てます。

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