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何もできない

昨日の続きです。

ルイカが意識不明になってから、一ヶ月が経った。最近は寒い日が続いて、保健室で眠っているルイカも心なしか寒そうに見える。


「ルイカ、冬用の布団持って来たよ。アケ先生がね、ルイカに掛けてあげなさいって出してくれたんだ」


私は、今まで掛けられていた冬用布団よりも薄い布団を畳んで、暖かい冬用の布団を掛け直していく。


「最近、急に寒くなったよね。ルイカ、寒がりだからさ、これでも足りないかな」


ベッドの隣にある椅子に座りながら、窓を眺める。間接照明のおかげで部屋は明るいが、今は深夜だ。本当なら、とっくに寝ている時間だが、ルイカが意識不明になってからは、この時間にお見舞いに来るのが習慣となっていた。


学園側は、校内で起こったこの事件を隠蔽することに決めたらしい。そのため、ルイカが意識不明という事実は、生徒の中では私とシマキ様しか知らなかった。

本来なら、私たちだって知らないはずだった。でも、アケ先生が学園の命令を違反してまで、私たちに知らせてくれたおかげで、私たちはこうしてお見舞いすることが出来ているのだ。

そのため、私たちは学園側に箝口令を受けており、お見舞いは誰にも見られないように深夜に行くことを義務付けられているのだ。


「もう少しで、雪が降るかもしれないらしいよ。積もったら、雪遊びでもしようね‥‥‥本当、こんなことで死なないでよ。ひとりで死ぬなんて、私、絶対許さないから」


私が何を話しても、ルイカは何も答えない。それでも、私はいつかルイカとまた話せることを期待している。

間接照明を切ろうとした時、見知った気配を感じて振り向けば、そこには予想通りシマキ様がいた。


「シマキ様、今夜は来れないはずでは?」

「えぇ、そのつもりだったのだけどね。どうしても、ルイカの顔が見たくて‥‥‥やっぱり、まだ眠ったままね」

「‥‥‥はい」


ここへ来るたびに、今日は起きているのではないかと期待して間接照明を付ける。でも、その度に期待は裏切られた。


「シマキ様、今日はもう帰りましょう。お疲れなのでしょう」


シマキ様は、ここ一ヶ月、自分の伝手を使って必死にルイカの事件のことを調べてくれていた。私も手伝わせて欲しいと言ったが、やんわりと断られてしまった。

そのため、シマキ様はいまほぼひとりで調査している。相当忙しいのに、ルイカのお見舞いには毎日顔を出してくれてくれている。

寝不足のせいで、隈も化粧でも隠せないほどに濃くなっていた。


「それは、お互い様よ。貴方だって酷い顔しているわ」

「シマキ様程では無いと思います」

「それでも、いまはルイカのことを考えないとね。そうだ、アケ先生を呼んできてくれない?」

「‥‥‥わかりました」


理由はよくわからないが、緊急性がありそうなシマキ様の雰囲気に慌ててアケ先生を呼びにいった。








「アケ先生、お休み中のところ申し訳ございません」

「い、いえ‥‥‥えっと、その、要件は何でしょうか?」


私たちは、いま保健室にある四人掛けの机に向かい合って座っている。アケ先生は、私が呼びに行ったら、理由も聞かずに飛んできてくれたのだ。

本当にゲームと違って良い先生だと思う。


「この一ヶ月、わたくしがルイカを襲った犯人について調べていたのは、ご存知ですよね?」

「は、はい。それは、あの、お聞きしています」

「わたくしなりに伝手を使って調べてみたのですが、全く手がかりがないのです。あの時間に校舎内にいた生徒は、まずいないでしょうし、現場には証拠も残されていなかった。それに学園側からは箝口令も出ています。大々的に生徒へ事情聴取をするわけにもいきませんし‥‥‥あとは、凶器となった物を探すほかありません」

「凶器、ですか?」


首を傾げた私に、シマキ様は優しく微笑む。


「えぇ、そうよ。ルイカのこの傷は、とても素手での犯行とは思えない。何か道具を使ったと考えるのが自然よ」

「あっ、その、あの、私も、そう思います」

「アケ先生には、何で殴られたのか見当はついていますか?」

「‥‥‥い、いえ、私も、そこまでは‥‥‥すみません」

「そうですか、残念です。凶器が見つかれば、何か犯人の手がかりが出てくるかもしれないと思ったのです。逆にそれが見つからなければ、もうお手上げ‥‥‥そうなれば、ルイカが起きるのを待つしかなくなる」

「でも、まだ見つかる可能性もあるんですよね?」

「‥‥‥一応探してはみるけどね、見つかる可能性は低いと思うわ。犯人だって馬鹿じゃ無い。既に処分しているでしょうね」

「そんな! じゃあ、もう私たちには、何もできない‥‥‥」

「ルイカの回復を待って、本人に事情を聞くしかないわ。今日はそれを伝えようと思ったの。ごめんなさい、わたくしの力不足で」


場の空気が一段と重くなり、誰も何も話せなくなった。そんな空気を変えるように、アケ先生が眼鏡を掛け直しながら「あの」と蚊の鳴くような声を発した。

小さい声でも、静かな場所では存外響く。


「あっ、その、あの、なんと言うか‥‥‥今日はもう遅いですし、寮に帰って、その、休んだほうがいいと思います。明日になれば、状況がどうなるかは、その、わかりませんし‥‥‥」


あわあわとしながら話す姿は、自信がなさそうだが、私たちを早く休ませたいという気遣いが見えた。

私は、シマキ様と顔を見合わせる。

お互い疲れ切った顔をしていた。


「そうですね、そうさせてもらいます。ダリア、帰りましょう」

「はい。アケ先生もしっかり休んでくださいね」

「あっ、はい。そうさせて、もらいます」


こうして私たちは、寮へ帰り倒れ込むように寝たのだった。

みんな疲れ切ってます。

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