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開いてる

昨日の続きです。

ルイカのことを話そうと部屋へ戻った時、シマキ様はまだいなかった。いつもなら帰って来ている時間なのに、生徒会で何か問題でもあったのだろうか。

そう思いながら、お風呂の準備をして、その後、寝室を整える。ひと段落ついた時、ふとクローゼットが少し開いている事に気がついた。その隙間からは‥‥‥何かが出ている。

電気のついていない部屋では、それが何なのかは遠くからではわからなかった。


「何だろう‥‥‥」


服の裾だろうか? そうだとしたら、早いところ整えないと皺になってしまう。小走りでクローゼットに近づいた時、私はそれが何なのかわかってしまった。

クローゼットから出ていたのは、服の裾なんかではない。


──それは、髪の毛だった。


大量の髪の毛がクローゼットの隙間から、こぼれ落ちるようにして飛び出しているのだ。

その異様な光景に立ち竦む。


「‥‥‥なに、これ」


そういえば、ゲームのイベントで悪役令嬢であるシマキ様がルイカを痛めつけてクローゼットに監禁するというイベントがあったような気がする。

クローゼットから散らばっている髪の毛をもう一度見る。部屋が暗いから、まだわからないが‥‥‥その色は赤系統に見えた。

ルイカの髪の色はピンク色だ‥‥‥そんなこと無いと思うけど、もし、もしも、この中にルイカがいるとしたら、助けなければならない。


私は、意を決してまた歩き始めた。クローゼットに近づく度にぎしぎしと床がなる。

しゃがみ込み落ちている髪の毛に触ろうとしたその瞬間、パチンという音と共に部屋の電気がついた。

驚き振り返ると、そこには不思議そうな顔をしたシマキ様が立っていた。


「どこにいるのかと思えば、どうしたの? そんなところにしゃがみ込んで」

「お、おかえりなさいませ、シマキ様」

「ただいま。それで、何しているのかしら?」


シマキ様は何の躊躇もなく、私の近くへ来ると床の髪の毛を見て、納得したように「嗚呼」と声を発し、クローゼットの中を開けた。


そこには、誰もいなかった。


知らず力を入れていた肩を下ろす。

明かりの元でよく見れば、その髪の毛は燃えるような赤色だった。


「‥‥‥よ、よかった」

「何か言った?」

「い、いえ、それより、この髪の毛は何なんですか?」


私がそう聞けば、シマキ様は苦笑いしてクローゼットの中から袋を取り出した。その中には、床に落ちていたような髪の毛が、大量に入っている。


「これね、赤色のカツラを作ろうと思って購入したのよ」

「カツラ、ですか? 何故、作ろうと思ったのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


私がそう聞けば、シマキ様はどうしてだか気恥ずかしそうに頬を染めた。

その表情に、私は益々理由がわからなくなる。


「えっと‥‥‥笑わないでね」

「はい、お約束します」


真逆、円形脱毛症とかで人知れず悩んでいたのだろうか? そうだとしたら、気が付かなかったのは失態だ。


「えっとね‥‥‥ダリアみたいな髪色になりたかったのよ」

「へっ?」

「その、わたくし、赤が好きでしょう。だから、貴方の髪色に憧れていたの。ば、馬鹿らしいかしら?」


思ってもみなかった理由に、一瞬頭が真っ白になる。次いで、意味を理解して急激に顔に熱が集まるのが自分でもわかった。


「やっぱり、馬鹿らしいと思った?」

「い、いえ、その、何と言いますか‥‥‥嬉しいです。憧れなんて、言って頂けて」


私がそう言えば、シマキ様は恥ずかしそうにそっぽを向いていた顔をパッと私に合わせてきた。そうして、嬉しそうに笑みを浮かべると、床に散らばった髪の毛を拾い出す。


「これ、貴方の髪色に似たものを入手したのよ‥‥‥本物の誰かの髪の毛。とっても綺麗でしょう? わたくし、見た瞬間、これが欲しいって思ったのよ」

「そ、そうだったんですね」

「えぇ、本当に綺麗だわ」


恍惚とした表情で袋の中の髪をいじっているシマキ様に、自分の髪でもないのに恥ずかしくなる。


「あの!」


話題を変えようと出した声は、ひっくり返った。


「どうかした?」

「あっ、いえ、今日、ルイカからホワイルン家に招待したいって言う話を頂きまして‥‥‥シマキ様も是非にとのことですが、如何でしょうか?」

「ホワイルン男爵家、ルイカの実家ね‥‥‥楽しそうだわ。是非、訪問させてもらいたい」

「ありがとうございます! ルイカも喜びます‥‥‥でも、シマキ様のご予定は大丈夫ですか?」


シマキ様の予定は、シマキ様ご自身で管理しているのでよくわからないが、忙しいということは馬鹿な私にもわかる。


「そのことなら、心配する必要無いわ。一週間待ってくれれば休みをもぎ取れるから」

「無理しないでくださいね」

「大丈夫よ。それにしても、ルイカの家に遊びに行けるなんて、凄く楽しみね」

「はい‥‥‥そうですね」


シマキ様の本当に嬉しそうな顔を見て、私はチクリと心が痛むのを感じた。胸あたりを抑えて、内心首をかしげる。

ルイカとの約束も果たして、シマキ様も嬉しそうにしているのに、どうして私の心はこんなにモヤモヤするのだろうか。

ダリアはかなり驚いたと思います。

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