終わりにしよう
昨日の続きです。
街へ出かけた翌日、私とルイカは談話室へまた集まり、その後の報告をしていた。シマキ様が生徒会でいない日は、二人で集まって話し合おうと前に決めていたのだ。
「それで、ルイカの方はあれからどう? 何か危険なこととかあった?」
「ううん、何も、ない」
「そっか、よかった」
やっぱり、私と仲良くしている人を消しているなんて、ルイカの思い過ごしだったんだ。私がそう安心していると、ルイカが無表情ながらに険しい顔をした。
「でも、一つ気になることが、ある」
「何かあったの!?」
「実害は、何も、ない‥‥‥でも、街でケーキを食べている時、一度だけ、とても怖い顔を、した」
「でも、それだけでしょう? ルイカに害は出ていない」
「それは、そうだけど‥‥‥」
「それに、ルイカ出かけた時、途中から普通に楽しんでいたでしょう?」
ルイカはバツの悪そうな顔をした。図星なのだろう。かくいう私も、作戦のことなんて忘れて楽しんでいたから、人のこと言えないけど‥‥‥。
「でも、私は、やっぱり、あの顔が気になる。もう少し、作戦を続けても、いい?」
「うん、いいよ。お互いが納得するまで、調べたほうがいいもんね」
こうして私たちは、この仲良しアピール作戦を続行することにしたのだった。
◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉
作戦を始めてから、二ヶ月が経とうとしている。始めた頃は暑かった気温も、この頃は肌寒くなり始めている。
季節は秋になろうとしていた。
この二ヶ月、休みの日は三人で遊んだりして、久々に普通の学生のような日々を過ごすことが出来た。
シマキ様は、私がルイカと遊ぶと言えば毎回ついてきたがるものの、特に何も怪しい行動はしていなかった。最近では、シマキ様から誘ってくることもあるくらいだ。当初の予定では、私とルイカの仲を良く見せようと言う話だったけど、この作戦で本当に仲良くなったのは、正直に言ってシマキ様とルイカの方だった。
今日もシマキ様が生徒会のため、ルイカと二人、談話室で報告会をしている。この報告会だって、シマキ様の行動を報告していたのは最初だけで、今ではただの世間話になっていた。
それくらい、シマキ様へ疑いが薄れているのだ。
「やっぱり、シマキ様が偶にする、怖い目が、気になる」
ルイカの取り繕ったような報告に、私は思わず笑ってしまう。
「‥‥‥どうして、笑うの?」
「ごめん、ごめん。だって、この二ヶ月ですっかりシマキ様と仲良くなったくせに、よくそんなこと言えるなぁと思って」
「‥‥‥」
バツが悪そうな顔にやっぱり図星なんだとまた笑った。ルイカだって、もう本気でシマキ様をストーカー男だと疑っているわけではないのだ。ただ、自分が初めに言ったことだから、この作戦を終わりにしようという言葉が言えなくなっているだけだ。ルイカには、そういう意地っ張りなところが昔からあった。
「ねぇ、ルイカ、もうこんな作戦終わりにしよう。貴方だって、本気で疑っているわけじゃないんでしょう?」
だから、この言葉は、私から言ってあげるべきなんだ。
「‥‥‥次の作戦を、最後に、する。だから、我儘言っても、いい?」
「言ってみて」
「貴方とシマキ様を、私の実家に、招待したい」
「それって、作戦なの?」
「兎に角、来てほしいの」
何処か落ち着かない様子のルイカに、珍しく思いながらも考える。
「うーん、私は全然構わないけど、シマキ様がなんて言うかはわからないかな。予定もあるだろうし」
シマキ様は、王妃教育や生徒会活動で忙しい毎日を過ごしている。それでも、この二ヶ月私たちと遊んだりして過ごせたのは、偏に彼女が優秀だからに他ならないのだ。そうでなければ、休みも取れなかっただろう。
「シマキ様の、予定に、合わせてくれれば、いい」
「一応話してみるけど‥‥‥予定が合わなかったらごめんね」
「ううん、それなら、仕方ない、から。話してくれるだけで、嬉しい」
ルイカの少しだけ口角を上げた無表情に近い微笑みは、何故か不安そうだった。
ルイカとのお話でした。




