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卑しい子

昨日の続きでお仕事パートです。

洗濯部屋を出た私たちは、次に直ぐ隣にある食堂に案内された。


「この階にいる使用人は、ここで朝と夜を食べます。私たち使用人は、基本的に昼は食べませんのでそのつもりで」

「わかりました」


孤児院にいる時も、昼は食べられなかった。それは、好んでそうしているのでは無く単に孤児院の経営がギリギリだったからだ。多くの子供を養うためには、三食食べられるなんてことはなかった。

だが、貴族に付いている使用人も、ご飯を食べる頻度は私と同じと思うと妙な親近感が湧いてきた。

と、ここで、今まで目を合わせなかったラールックさんが私の目をじっと見つめてきた。虚無の目に堪らず私から目を逸らすと、何事もなかったようにラールックさんが歩き出す。後ろをついていく私に、ラールックさんは仕事の概要を話し出した。


「貴方の主な仕事は、朝の掃除と、お嬢様への給仕。お嬢様は夕食以外は私室でお食べになりますから、部屋まで運んでください。それから、お嬢様に会いに来られたお客様への給仕も貴方の仕事です。お嬢様は基本的にお着替えもお風呂もお一人でこなします。貴方の仕事量は、さほど多くはないでしょう」

「は、はい」

「ですが、メイドという仕事以上に旦那様が貴方に求めていることがあります」

「求めていること?」

「お嬢様の護衛です」


その言葉に私は、困惑する。護衛とは、護衛騎士がするもので決してメイドがすることではないはずだ。少なくとも私はそう思っている。

私の困惑した顔を見てラールックさんは更に続ける。


「ペールン公爵家において、専属メイドとはそういう役割を果たしています。勿論、護衛騎士もいますが貴方は常に、お嬢様の側にいる存在。もしもの時は、お嬢様の盾になっても守っていただかなければなりません」

「‥‥‥」


ラールックさんの真剣な表情と気迫に何も言えなくなる。簡単に考えていたが、私は思ってたよりも大変な役目を任されたのかもしれない。


「貴方にはメイド業務に加えて、護衛としての技量も身につけていただきます」

「それも、ラールックさんが教えてくれるんですか?」

「えぇ。今日は、初日ですからメイド業務を通して行いますが、明日からは午前に剣術などを学んでいただきます」

「わかり、ました」


剣術という単語に嫌な予感がした。私は、前世のことがあり孤児院にいた時は一度も包丁を握ることができなかった。いや、でも、剣ならもしかしたら握れるかもしれない。そう思い込むことで、この問題は考えないことにした。


「では、朝の掃除に向かいましょう」

「は、はい」


お城のように広いペールン公爵家は、主人が起きる前にメイド総出で朝の掃除が行われている。私は、書斎前の廊下の担当らしい。

ラールックさんは、仕事は見て覚えるものだと、そう言ったきり何も言わなくなってしまったので、私はよくわからぬまま見様見真似で窓拭きをしていた。

掃除開始から十五分ほど経った頃だろうか、同じく窓拭きをしていたラールックさんが突然、目を見開き、私の腕を掴んできた。

あまりの力強さに、思わず手を払い除けようとするもその手は離れなかった。一貫して無表情だったラールックさんの顔が、怒りで染まったのは私にもわかった。それでも、私は何を間違えてしまったのかわからなかった。


「これは、窓拭き用の布巾ではないだろう!」

「へっ?」

「私が使っているものと貴様が使っているもの、布巾の用途が違うと言っている! 貴様が使っているものは台拭きだ! そんなこともわからないのか!」

「ご、ごめんなさい」

「これだから、卑しい者は嫌いだ」


自分よりも歳上の人に突然大声を出されて、情けないけどすごく動揺してしまう。孤児院でも、こんな風に怒られたことはなかった。

怖い、上手く声が出せない。

近くにいたメイドたちも、ラールックさんの声にピクリと反応し、次いで私を見てくすくすと笑った。


「お嬢様を誑かした子よね。卑しい子だって聞いていたけど、窓拭きも碌にできないのね」

「仕方ないわよ。人を誑かすことしか出来ない下賎な子だもの」


くすくすくすくす、嫌な声が聞こえてくる。耳を塞ぎたいが、腕を強く掴まれてそれも出来ない。ラールックさんの怖い顔を見て、此処から今すぐ逃げ出したいと思った。その時、ラールックさんが反対側の手を振り上げた。


──打たれる。


咄嗟に判断して目を瞑ると、「ねぇ」と鈴のなるような声が聞こえた。

ラールックは、ダリアへの当たりが強めです。

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