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似合っていなかったからよ

昨日の続きです。

店を出た私たちは、シマキ様の勧めでケーキ屋に来ていた。このケーキ屋は、前世で言うところのイートインがあるので、三人で休憩がてらおやつを食べることにしたのだ。


「美味しい‥‥‥」


あまりにも美味しくて思わず声が出てしまった。

このお店一押しのミルフィーユを頼んだのだが、大正解だ。パリパリとした生地は勿論美味しいのだが、この間に挟まっているクリームが絶品だ。甘すぎずさっぱりとした味は、私好みで何個でも食べられそうだ。無くなってしまうのが勿体無くて、ちまちまと食べ進めていると、くすくす笑う声がした。


「本当に、貴方を見ていると飽きないわ」


一連の動作を見られていたことを知り、恥ずかしさから俯いてしまう。ちまちま食べるなんて、行儀の悪いところを見せてしまった。


「すみません、美味しかったもので、つい‥‥‥」

「お土産にも買っていきましょうか」


そう提案されて、嬉しさからぱっと顔を上げた瞬間、悪戯っぽく微笑むシマキ様とバッチリ目があった。にやりと笑う姿は、私を揶揄う時の顔だ。食べ物に露骨に喜んだところを見られて、羞恥から顔に熱が集まるのが自分でもわかった。


「ふふっ、本当に可愛いわね」

「そ、それにしても、此処のケーキ、ほんっとに美味しいですね。流石、シマキ様御用達のケーキ屋さんなだけありますね!」


揶揄われている私を庇うように、ルイカがフォローしてくれた。


「えぇ、わたくしもこの店は大好きなのよ。そういえば、貴方たちは、前世の頃からの友人なのよね?」

「はっ、はい。そうですけど‥‥‥ご存じだったんですね」

「ルイカ、私が話したんだよ」


訝しげな顔をしたルイカにそう言えば、納得したようにこくこくと首を縦に振った。


「それで、ダリアは昔から甘い物が好きだったのかしら?」

「えっー、甘い物っていうか、食べ物全般好きだったよね」

「や、やめてよ! 人を食い意地張ってるみたいに言うのは。大体、私だって何でもかんでも食べてたわけじゃないし」

「あら、嫌いな食べ物もあったの? 何でも幸せそうに食べているイメージだから、少し意外だわ」

「あっ、嫌いってわけじゃなくって‥‥‥好んで食べようと思わなかっただけです。それに、小さい頃の話ですよ。少し大きくなったら嫌いなものなんて、無くなりましたからね」


嫌いな食べ物があったなんて子供っぽく思われそうだから、必死に言い訳をする。でも、シマキ様はにこりと意地悪く笑うと、ルイカに向き直った。


「ねぇ、ルイカ。ダリアはわたくしに知られたくないみたいなの。こっそり、教えてくれるかしら?」

「シ、シマキ様っ!」

「貴方なら知っているわよね」


聞かれたルイカは、眉を下げて申し訳そうに黙り込んでしまった。なんだか悲しそうな雰囲気に、シマキ様と顔を見合わせる。


「ルイカ、大丈夫?」

「すみません‥‥‥私、前世の記憶が曖昧で、ダリアの嫌いな物、覚えていないんです。私の記憶の中のダリアは、好き嫌いなく何でも食べていて‥‥‥」

「そうだよね‥‥‥全部なんて覚えてないよね。シマキ様、私は昔、ピーマンが苦手だったんです」


あまりにも悲しそうな顔に、私はルイカに過去の記憶を教えるように自分から話してしまった。


「でも、ルイカだって、ピーマン嫌いだって言ってたんだからね。しかも、ルイカは大人になっても嫌いなままだったんだから」

「‥‥‥そう、だったかも」

「思い出した?」

「少しだけね」


嬉しそうな顔になったルイカを見て、私も自然と笑顔になる。シマキ様は、私たちの様子を見てから安心したように紅茶を一口飲むとにっこりと顔を歪めた。


「そういえば、ルイカ、普通に話していいのよ」

「えっ?」

「わたくしの前だからって、隠すことないわ‥‥‥その口調、取り繕っているのでしょう? 違和感がある」

「そ、そんなこと‥‥‥」


突然の真意を突いた一言に、私もルイカ同様驚き固まってしまう。


「まぁ、別にわたくしは、どちらでも構わないのだけどね」

「‥‥‥どうして、わかったの?」


ルイカは取り繕うことを諦めたのか、さっきまでの笑顔を消して無表情になった。


「なるほど、あくまでも知らないふりを続けるのね」

「質問に、答えて」

「口調が、全然似合っていなかったからよ」

「‥‥‥そう」


再び気まずくなった雰囲気に、今度は私がルイカのフォローをしなければと思った。


「シマキ様、ルイカは、その‥‥‥シマキ様を不快にさせないために取り繕っていたんです。無表情のルイカは、初対面だと怖がられることが多いですから」


本当は攻略対象者に好感を持たれやすくするために、乙女ゲームのヒロインの口調を真似ているのだが、それは今言わなくていいだろう。


「あら、勘違いしないで、怒っているわけではないわ」

「そ、そうですか」

「わたくしは、ただ心配しているだけよ。自分で完璧に演じているつもりでも、ボロは出るものでしょう‥‥‥貴方だって、本当はわかっているはずよ。ねぇ、ルイカ」


スッと目を細めた姿は、乙女ゲームのシマキ様そのものだった。

お買い物終了です。

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