可愛らしいデザイン
今日もお買い物回です!
ミーナさんの決意を感じ取ったのか、シマキ様はふっと息を漏らした。
「ふふっ、素晴らしい理念だと思うわ。わたくし、感心してしまったわ」
花が綻ぶような笑顔を浮かべたシマキ様を見て、オーナーは安心したように肩の力を抜いた。
それを見届けた後、シマキ様が突然、私の手を引いてオーナーの前に出す。
「この子は、ダリアよ。わたくしの専属メイドなのだけど、元々は孤児なの。わたくしが気に入って連れてきた」
「まぁ、シマキ様の専属メイドが平民という噂は、真実だったのですね」
その問いかけにシマキ様は、こくんと首を縦に振った。
「わたくしも常々、平民と貴族の身分差について考えているわ。なんせ、わたくしの専属メイドとわかっでも尚、平民というだけで迫害する貴族もいるのだもの‥‥‥だから、貴方の考えは、尊重されるべきだと、わたくしも思うわ」
「ありがとうございます、シマキ様! 貴方にそう言って頂けると、とても心強いです」
「ふふっ‥‥‥話しすぎたわね。今日は、わたくしではなく、この子の服を見繕って欲しいのよ」
そう言って今度は、ルイカを隣へ呼んだ。オーナーは、ルイカを一瞥すると一度頷いた。
「ルイカ様にぴったりのドレスが、ございます。ささっ、此方へどうぞ」
「え、ええっと‥‥‥」
オーナーのあまりの気迫に面食らったルイカが、助けを求めるように私たちを見つめてきた。
「ミーナさん、わたくしたちも着いて行ってもいいかしら?」
「えぇ、それは勿論。是非、見て行ってください」
こうして私たちは、半ば押し込められるようにして、個室へと案内されたのだった。
案内された個室では、沢山の女性店員たちが、オーナーの指示に従って沢山のドレスを運び込んでいた。ドレスは心なしか、可愛らしいデザインのものが多い気がした。
「オーナー、此方で全てです」
「えぇ、ありがとう」
女性店員は一礼すると、扉を閉めて、そのままオーナーの後ろへ控える。
「ルイカ様に似合うと思いまして、此方で用意させて頂いたドレスでございます。何かお気に召すものがありましたら、お申し付けください」
「え、ええっー、こんなに沢山あると、迷いますねぇ。そうだ、二人はどれがいいと思う?」
不安そうに瞳を揺らすルイカを見て、助けてあげたいと思った。
「そうだね、ルイカにはピンクとかオレンジとか、そういう明るい色が似合うんじゃない?」
「そうね、わたくしもそう思うわ。それから、可愛らしい顔立ちをしているから、ふんわりとした物が似合うかもしれないわね」
そう言うと、シマキ様は立ち上がって淡いオレンジ色のレースがふんだんにあしらわれたドレスを手に取った。
「これなんてどうかしら?」
「うーん、少し子供っぽすぎませんかね? 私に似合うでしょうか?」
「こういう可愛らしいデザインは、着る人を選ぶものよ。貴方にこそ似合うと思うわ」
「そうでしょうか? シマキ様にもお似合いになると思いますけど‥‥‥」
「わたくしも、昔一度着たことがあるのだけど、どうにも顔だけ浮いてしまって、似合わないのよね」
「そういえば、シマキ様のドレスってこういったふんわりしたものってあまり無いですよね」
私がシマキ様のドレッサーの中を思い出しながら言えば、シマキ様苦笑いする。
「わたくし、可愛いデザインの物も好きなのだけど、こればっかりは仕方ないわよね」
悲しそうに微笑むシマキ様の姿に、私は思わずルイカと目を合わせた。
「そんなことないです、シマキ様。貴方の顔は美しいですから、何でも似合うはずです!」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞じゃありません! 本当にお綺麗です。シマキ様に比べたら私なんて、足元にも及びません。ねぇ、ダリア、貴方もそう思うでしょう?」
突然、話を振られて、二人の視線が一気に集まる。
「えっと、私からしたら、二人とも可愛いと思うけど‥‥‥」
私がそう言うと、何故だか二人からため息が聞こえた。
「やっぱり、わたくしのダリアが一番可愛いわ」
「それについては、私も同意です」
「ちょ、ちょっと、揶揄わないでよ」
「揶揄ってなんかいないわ、本気よ。嗚呼、何だかわたくしも可愛らしいドレスが欲しくなってきたわ‥‥‥ミーナさん、今の話、聞いていたわよね」
「はい、シマキ様にお似合いになる可愛らしいドレスでございますね。すぐにご用意いたします」
「えぇ、それから、ダリアにも似合いそうな物を持ってきてちょうだい」
「畏まりました。このミーナに全てお任せくださいませ」
シマキ様の発言に私は驚く。
「シマキ様、私は大丈夫です。お金もないですし‥‥‥」
「あら、わたくしが買うのよ。貴方は、一銭も出さなくていい」
「そんな、悪いです。この前も頂いたばかりですから」
後夜祭の時も、ドレスを頂いてしまった。いくら何でも申し訳ないと、ドレスの値札を見てみれば、そこには到底私では買えないような値段が書かれていた。
私の給料、三ヶ月分より高い‥‥‥。
そっと、値札を下ろして元居た場所に戻ることしかできなかった。
「これでも、相場よりは、全然安いんだよ」
「そ、そうなんだ。やっぱり貴族って凄いね」
「私はこれを買うのもギリギリだけどね」
そう言って、ルイカは私を慰めると、シマキ様に選んで貰ったドレスを持って試着室へと行ってしまった。
「すみません、シマキ様。私には、やっぱり買えそうにないです」
「ふふっ、気にしないで、わたくしが勝手にやっていることだから」
その後、私は何故だか着せ替え人形のように服を着替えさせられた。そして、その度にシマキ様が購入してくれるものだから、いつの間にか私は三人の中で一番多くの服を得てしまった。
シマキは、ダリアに貢げて満足です。




