可愛らしさと美しさ
珍しい三人が街へ来ました。
ルイカと共に買い物をする約束の日、シマキ様はいつになく浮かれていた。クローゼットを開けて、どの服を着て行こうか、あれでもないこれでもないとベッドに出して悩んでいる。
その姿は、まるで初デートに向かう乙女のようでもあった。
私は、少し驚きながらも、ベッドの上に出された服を整えていく。
「ねぇ、ダリアはどれが良いと思う?」
「えっと‥‥‥此方なんて如何でしょうか?」
私が手に取ったのは、紫色の落ち着いた雰囲気のワンピースだ。これなら、街へ行っても馴染めるだろうと思ったから選んだ物だった。
「貴方がそう言うなら、それにしようかしら」
シマキ様はにこにこと嬉しそうに、ワンピースに裾を通すと今度は化粧台の前に座った。
なるべく顔の傷が隠れるように、シマキ様の顔に化粧を施していく。
化粧が終わったら、次は髪だ。
髪を梳きながら、ワンピースに合うシマキ様の髪型を考える。今日は落ち着いた雰囲気だから、三つ編みにしようと決めた。緩めに一本に纏めて、サイドに垂らせば可愛らしい仕上がりになりそうだ。
私が髪を編み始めた時、シマキ様は鏡越しにまた微笑んだ。
「本当に楽しみだわ!」
「シマキ様、今日はいつにも増して楽しそうですね」
「それは、そうよ。だって、学園に入学してから初めてでしょう? 外出なんて」
「あっ、嗚呼、確かにそうですね。だから、そんなに嬉しそうだったんですか」
「そうよ。だって、貴方との久しぶりの外出だもの。楽しみに決まっているじゃない」
私と出かけられることに、こんなに喜んでいてくれていたのかと、此方まで嬉しくなった。
顔に熱が集まっていることに気がついて、慌てて目線をシマキ様の髪に集中させる。
「ふふっ‥‥‥機会をくれたルイカに感謝しないとね」
◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉
久しぶりに訪れた街は、活気に満ち溢れていた。可愛らしいルイカと美しいシマキ様、そして顔の半分を覆った私、三人でいるとさぞかし目立つことだろう。
「それで、今日は何を買いに来たのかしら?」
「ドレスを新調しようと思って、来たんです。この間、後夜祭で着ていたドレス、引っ掛けて破いてしまって」
「あら、それは大変ねぇ」
「はい、夜会用のドレスは、あの一着しか持っていなくて、あれがなくなると、すっごく困るんですよねぇ」
「なら、早いとこ買いに行かないとね。店の目星はついているのかしら?」
「はい、最近新しく出来た店なんですけど、お手頃価格で購入できるそうなんです。シマキ様には庶民的すぎる店かもしれないんですけど‥‥‥」
「あら、そんなことないわよ。お手頃価格でドレスが作れるだなんて、わたくしも興味があるわ。是非、案内してちょうだい」
ルイカは、嬉しそうにパッと顔を綻ばせて私たちの前を先導して歩いて行った。スキップし出しそうなほどの嬉しそうな様子に、私はシマキ様と顔を見合わせて笑い合ったのだった。
たどり着いたブティックは、お手頃価格とは程遠そうな見た目だった。
「ね、ねぇ、ルイカ、本当にここで合ってるんだよね?」
「うん! 絶対ここだよ!」
「でも、なんか、全然お手頃価格で買えそうな見た目じゃないんだけど」
寧ろ高そう。
「店の名前は、合ってるのよね?」
「えっ、嗚呼、はい。確か、こんな名前だったと思います」
「なら、大丈夫そうね」
「もぅ! 二人とも心配性なんだからっ! さぁ、早く入りましょーう!」
ルイカは元気にお店へ向かって行った。私が大丈夫かなぁと思っていると、後ろからとんと背中を叩かれる。そこには、にっこりと安心させる様に微笑んだシマキ様がいた。
「まぁ、店の名前も合ってるらしいから、大丈夫よ。もし、何かあったら、わたくしが何とかするわ」
「す、すみません」
その頼もしい言葉をもらって、私は漸く入店した。
店内もやっぱり、お手頃価格の服が売ってるとは思えないほどの華々しい雰囲気だ。すると、奥から店員と思わしき二十代くらいの女性が早歩きで近づいてくる。
「いらっしゃいませ、お嬢様方。私、この店のオーナーをしておりますミーナ・クラントと申します」
「あら、貴方、クラント伯爵のところのミーナさんだったのね。新しい事業を始めたって聞いていたけど、此処だったの」
「まぁ、貴方は、ペールン公爵のところのシマキ様ですね!」
どうやら、女性は伯爵令嬢だったらしい。どうりで、所作が上品だったわけだ。盛り上がりを見せる二人に、私とルイカは様子を見守ることしかできない。
「まぁ、まぁ、貴方のような方が来てくださるなんて、光栄ですわ。是非、私に見繕わせてください」
オーナーがさぁさぁと、店の奥へ案内しようとした時、シマキ様が待ったをかけた。
「その前に確認なのだけど、この店はドレスをお手頃に作れるって聞いて来たのよ。本当かしら?」
「えぇ。そういうコンセプトで作った店でございます。元々、貴族以外の‥‥‥平民の方でも少し頑張れば購入出来るということを目指して、料金設定をさせて頂いております」
「なるほど、だから、ドレス以外の服も売っているのね」
そう言われて周りを見れば、確かに普段着に使えそうなワンピースなども飾ってあった。平民は貴族と違って夜会などのパーティーなんてものは、滅多にない。だから、普段着も売っているのだろう。
「はい、オーダーメイドの他にも、レディメイドの物をご用意しております。其方は、オーダーメイドに比べて格段にお値段を抑えることが出来ます‥‥‥難しいことかもしれませんが、私は貴族と平民の身分の差を少しでも埋めたいのです」
「‥‥‥そう、とても素晴らしい考え方だけど、貴族の中では嫌われるでしょうね」
貴族の高い身分を平民と変わらないものにしたい、だなんて普通の貴族ならまず考えないことだ。
伯爵令嬢が、そんな考え方をするだなんて本当に珍しいことだと思う。周りからの反感も相当あったに違いない。
「‥‥‥お恥ずかしながら、その通りでございます。ですが、中には、私の考え方に賛同してくださる方もいらっしゃいます。私は、そういう方々に支えられて、この店を運営出来ているのですわ」
苦笑いをしながら話す様子は、何処か自信がなさそうに見えるが、その瞳だけは真っ直ぐシマキ様を見つめて逸らさなかった。
久しぶりにお買い物風景書いた気がします。
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