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ストーカー男じゃない

昨日の続きです。

「それで、ストーカー男かどうか調べるって言っていたけど、具体的にはどうするつもりなの? ルイカのことだから、何か作戦は考えてあるんでしょう」


ルイカはやると決めたら、やり遂げる人だ。私が協力を断ったとしても、諦めることはなかっただろう。

ということは、もう作戦も粗方立てているに違いない。


「一番、手っ取り早いのは、私が、シマキ様に、触れること」

「それは、駄目っ! あっ、大声出してごめん。その、シマキ様は‥‥‥知らない人に触られるのを嫌うから」


半分嘘だ。

確かにシマキ様は、人に触れられることをよく思っていない。それは本当だ。

だが、決して触れられないわけではない。不意をつけば触れることも可能だろう。


私が断ったのは、シマキ様のためというよりも、自分のためだ。もし、ルイカがシマキ様に触れてストーカー男だとすぐにでもわかってしまえば、私は現実を受け止められない。少しでも時間が欲しかった。

勿論、シマキ様のことは信じている。でも、怖いと言う気持ちはあった。

だって、これまで一緒に過ごしてきた相手が、前世に私を殺した人物なのかもしれないのだ。


「わかってる。だから、触るなんてことは、しない。ストーカー男が、貴方を殺したことを、トラウマに、思っているとは、限らないし」

「そ、そうだよね。よかった」

「だから、別の方法を考えている」

「聞かせて」

「私、考えたんだけど‥…‥四人だった」

「四人?」


ルイカの足りなさすぎる言葉に、私は首を傾げる。


「貴方の周りで、死んだ人の数。貴方の剣の師匠に、この間、極刑になった、リムたちで四人」

「‥‥‥そう」

「ペールン公爵邸にいたときでも、いい。他に死んだ人は、いた?」

「──ッ!」

「その様子だと、いた、みたい、だね。教えて」

「‥‥‥学園入学前に、同僚のメイドが二人、それから御者と、罪人がひとり亡くなってる」

「じゃあ、合計して、八人って、こと?」

「うん」

「死因は?」

「皆んな、事故とか自殺とか」

「それにしたって、おかしい。ダリア、貴方の周りでは、人が死に過ぎている」

「おかしいって言われても、事故だし‥‥‥」

「本当に、事故、なのかな?」


ルイカは相変わらずの無表情だった。


「ルイカ、何が言いたいの?」


意図せず固い声が出た。


「ダリア、気を悪くすると思うけど、ここからは、シマキ様が、ストーカー男と仮定して、話を、進める。私の予想だけど、その亡くなった人たちって、ダリアに対して、何かしらの害を与えて、きた人じゃないの?」


そう言われて、少し考えてみる。

シマキ様の誕生日パーティーで刃物を持っていた男、私の手に怪我を負わせた。

同僚の二人のメイド、ラールックさんと共に私を刺そうとしてきた。

リムたちは、言わずもがな。

確かに、考えてみたら、私に対して何かしらの害を与えてきた人たちかもしれない。


「まぁ、そういう人が多いかもね」

「やっぱり」

「やっぱりって、どういうこと?」

「ずっと思ってた、いくら何でも人が死に過ぎている。おかしいって。これって‥‥…シマキ様が、貴方に対して、良からぬことをしようとした人たちに、罰を、与えている、という可能性は考えられない?」


ルイカの妙に自信がありそうな一言に、私は流石に首を横に振った。


「そんな、流石にあり得ないよ‥‥‥今まで私の周りで起こった事故や自殺に、シマキ様が関与しているって言うの?」

「私は、そう、考えている」

「‥‥‥で、でも、全員が全員、私に害を与えた人じゃないよ。ほら、師匠のシャールさんは、私にとても良くしてくれた。それに、私に対して嫌がらせをしてきた人でも、生きている人は沢山いる」


ラールックさんが良い例だ。

彼女は、私に対して色々と仕掛けてきたが、最終的に殺されることもなく、寿退社したのだ。

それに、この学園内にだって、リム程でなくても私に対して、小さな嫌がらせをしてくる人は数えきれないほどいる。

そんな人たちは、いまだって元気に生きていた。


「そう、シャールさんだけが異質。でも、もうひとり、死んだ人の中で、貴方と仲が良かった、人物が、いた」


そう言うと、ルイカは私が持っていたロマンス小説を指差した。


「それを貴方に、送った相手、イビー」

「な、なんで、知ってるの!?」


私たちの関係は、他の人には勘付かれないようにしていた。


「ダリアが風邪で、休んだ日。様子が気になって、貴方の部屋の近くまで、行ったの。そしたら、偶々、イビーが、部屋の前に、箱を置く姿が見えて、気になって、開けてしまった」

「‥‥‥それで、私たちの関係を知ったんだね」

「勝手に開けて、ごめんなさい」

「別に、いいよ。それで、イビー様がどうしたの?」

「貴方が、今まで、シマキ様以外と、仲良くなったのは、その二人だけ?」


質問の意図がよくわからないが、とりあえず考えてみる。


「うん。そうだね。その二人以外とは、対話らしい対話をしたことないかも」

「それ、それこそが、今回の作戦」

「‥‥‥? ごめん、なんか余計にわからなくなってきたんだけど」

「ダリアに、害を与えた人は、見逃される場合もある。けど、ダリアと仲良くなった人は、全員、死んでいる。つまり、私と、ダリアが、仲良いところを、見せつけて、私が殺されそうになったら、シマキ様はストーカー男である可能性が、高い、ということ」


無表情に淡々と発言している姿からは、台詞の不穏さと相まってちぐはぐとした印象を受けた。


「殺されそうにって、変なこと言わないでよ。貴方をそんな危険な目に合わせるなんて、出来るわけないでしょう。それに、もし、ストーカー男だとしても、私と仲良くなったからって理由だけで、殺そうとなんてしてこないよ」

「あの男なら、やる」


この時だけルイカは、無表情を崩して睨みつけるように私を見つめてきた。


「忘れたの? 前世で、なんの罪もない、貴方を殺した男、だよ?」

「それは‥‥‥」

「あの男なら、ヒロインである私と、貴方が、仲良くなったことを、我慢できないはず。必ず、何か、仕掛けてくる」


いつになく真剣な眼差しで見つめてくる、ルイカにたじろぐ。


「でも、それで、もし貴方が死んでしまったら、私はどうすればいいの。もっと安全な作戦を立てた方がいいよ」


私の言葉にルイカは、何でもないように笑った。


「今回の作戦は、別に、危険じゃない。だって、殺されそうになるのは、あくまで、シマキ様がストーカー男だった場合、のみ」

「そ、そうだけど‥‥‥」

「貴方は、シマキ様を、信じているんでしょう? 貴方が信じるなら、私も信じる。だから、今回の作戦に、危険は、ない」

「ルイカ‥‥‥」

「大丈夫、ダリア。全て、上手くいく。私だって、本気でシマキ様を、疑っているわけでは、ない。でも、少し、気になる事があるだけ。

自分のこの仮説が、間違っているんだって、貴方と一緒に、証明したい」


ぎゅっと、胸元を抑える仕草にルイカの覚悟を見た。胸元を抑える、これはルイカが何か大切なことを決めた時にする仕草だった。


「貴方を、あの男に、奪わせるなんて、もう絶対に、させない。あの時は、何もできなかった、から」

「‥‥‥ありがとう、ありがとう、ルイカ。貴方にそこまで言われたら、私も覚悟を決めないといけないね。大丈夫、シマキ様は絶対にあの男じゃないよ。この作戦が終わる頃、貴方がそう思えるってことを約束する」


私の心の中の恐怖や不安は、この時無くなった。

だって、シマキ様はストーカー男じゃないから。

覚悟を決めた二人。

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