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ストーカー男

昨日の続きです。

私の様子を気にしながらも、ルイカは口を止めなかった。


「ねぇ、シマキ様って、そのストーカー男が転生した姿、なんじゃないの?」

「何でそんな酷いこと言うの! そんなこと、あるわけないじゃない! そもそも、あの男は私を殺しただけで、死んでなんてない」


ルイカの言葉に耐えられなかった。幾らシマキ様のことが気に入らないからって、酷すぎる。あの男とシマキ様は、似ているところなんてひとつもない。このままルイカと一緒に居たら、それこそ手が出てしまいそうだった。


「そんなくだらない話なら、私はもう帰る」

「待って」


立ちあがろうとした私の手を、ルイカは掴んで離さなかった。


「貴方は、すぐ死んだから、知らないかもしれないけど‥‥‥ストーカー男は、貴方を、麻葵(あさぎ)を殺した後に、自殺したんだよ」

「はっ?」


言っていることの意味がわからなかった。

死んだ? あの男が? 私を殺したくせに?


「あの男、麻葵の死体の上で、重なるようにして死んでいた、らしい。新聞でしか見ていないけど、喉を掻っ切ったらしくて、現場は血の海。警察は、心中と判断した」

「心中?」


彼奴と私が?

瞬間、胃の中のものが迫り上がってくるような感覚に襲われる。嘔吐の欲求を口を押さえて何とか耐えた。

あの男と私の関係に、心中という言葉が使われるのが不快だった。気持ち悪かった。


「なんで! どうして、心中なんて結論になるの! 私は、ストーカーのこと、警察にだって相談したんだよ! なのに、どうして‥‥‥」

「警察は、貴方に相談されていたにも関わらず、何もしなかった。その結果、貴方は殺された。その事実が世間に知られたら、相当、叩かれる。だから、身寄りのない貴方を、心中という形で、処理したのだと、思う‥‥‥ごめん、なさい。私は、その件に関しても、何もできなかった」


他でもないルイカに言われたら、もう何も言えなかった。この様子を見る限り、ルイカだって苦しかったはずだから。

それでも、私はストーカー男を恨まずにはいられなかった。


「なんで、なんでっ、私のそばで死んだりしたのよ」

「‥‥‥貴方を殺したこと、後悔していたの、かも」

「‥‥‥後悔?」

「そう、貴方を殺すつもりなんて、本当はなくて、でも、殺してしまったから、絶望して、自殺したの、かも」

「なに、それ」


私を殺したことを後悔?

殺しておいて、後悔して自殺?

ふざけるな!

私は、あの男の身勝手で殺されたんだぞ。なのに、勝手に絶望して、勝手に死んだ。

そのせいで、私は死んだ後までストーカー男と心中なんていう不名誉な呼ばれ方をした。


「本当に、どこまでも身勝手な男。後悔するなら、私のこと殺さなきゃよかったのに」


そしたら、私だって、まだあの世界で生きていられたのに。


「‥‥‥でも、これは、私の推測にすぎない。あの男が、麻葵のことを、殺すつもりだったのか、そうでないのかは、男本人に聞かないと、わからない、から」

「どっちにしろ、私はもう生き返らない」

「‥‥‥でも、これで、わかったでしょう? あの男が、死んだということは、私たちと同じように、この世界に、転生している、可能性がある」

「──ッ!」


そうだ、その通りだ。

私とルイカが、この世界で出会った以上、あの男も私たちの近くに既にいて、正体を隠している可能性は十分にあり得た。


「でも、それがシマキ様という証拠はない。そうでしょう?」

「そう、その通り。だけど、貴方が言ったように、いまのシマキ様は、ゲームとの相違点が多い。貴方を拾ったことも、そのひとつ。転生者と考えた方が、辻褄が合うレベル」

「‥‥‥」

「ねぇ、ずっと、聞きたかったんだけど、シマキ様に前世のこと、転生者であることや、この世界がゲームであることは、話したの?」

「全部、話した」

「すぐに、信じてくれた?」

「‥‥‥貴方のいうことならって」

「それって、変じゃない? ダリアのことを、幾ら気に入ってるからって、普通は、そんな話、信じない。でも、もし、シマキ様が転生者で、前世のストーカー男だとしたら、辻褄が、合う。だって、あの男が、麻葵が大好きだったゲームを、知らないはずが、ない」


ルイカの真っ直ぐな目は、その仮説を信じて疑っていないようだった。


「‥‥‥ルイカの考えていることはわかった。でも、私はどうしたって、シマキ様があの男だなんて信じられない。ルイカは似てるって言ってるけど、シマキ様は本当に優しくって、あの男とは全然違うから」

「わかってる。シマキ様との数年の信頼を、私の言葉だけで、壊すなんて、出来ないと思う。だから、私のいうことは、信じてくれなくても、いい。でも、シマキ様が、ストーカー男なのか、調べるために、協力して、欲しいの」

「協力?」

「そう。それで、もし、私の勘違い、だとしたら、シマキ様の潔白も、証明、出来る」

「‥‥‥潔白」


ルイカの祈るような顔に、否定の言葉を返せななった。


「ルイカは、私とあんまり関わりたくないって、言ってたよね。どうして、私のことを心配してくれているの?」


私の言葉にルイカは、僅かばかり目を見開いたが、また直ぐに無表情になった。


「友だちが、また、あのストーカー男に、目をつけられているかも、しれない。貴方をまた、同じ目に、合わせたく、ない‥‥‥前は、何も、出来なかった、から」


いままで考えたことが無かった。残された人のことを‥‥‥でも、いまならわかる。私だって、無惨な死に方をした人が転生して戻ってきたら、今度は長生きして欲しいと思う。

ルイカの素直な言葉は、私の心を少しだけ動かした。


「‥‥‥いますぐに答えは出せない。考えさせて欲しい」

「わかった。でも、あまり時間は、無いと思って、いて。あの男が、シマキ様なら、いつ何を仕出かすか、わからない、から」


新たな疑問を胸に抱えて、私はルイカと別れたのだった。

記念すべき第100話です!


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