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大丈夫、上手くやっていける

仕事初日!

鳥たちの囀りが朝を告げる。私は、目を覚ますとシマキ様を起こさないように繋いでいた手を離した。そのまま、なるべく音を立たないようにベッドから降りると寝間着を脱ぎ、初日に着ていた服を着た。泥や灰がが付いているが、これしかないから仕方ない。

でも、シマキ様から借りた寝間着は、どうするべきだろうか。一先ず畳んでみたが、此処に置きっぱなしでいいのだろうか。


「そのままで構わないわよ」


不意に柔らかい声が聞こえて、肩をビクッと震わせる。目線を向けると、シマキ様がベッドに寝転んだまま此方を見つめていた。


「すみません、起こしてしまいましたか」

「いいのよ。元々、眠りが浅いだけだから。それより、もう時間でしょう。そのままでいいから早くラールックの所へ向かった方がいいわ」

「あ、ありがとうございます」


シマキ様の心遣いに感謝しつつ、私は慌てて身支度を整える。遅刻なんてしたら、ラールックさんに益々睨まれてしまう。

私は、一礼して部屋を出ようとすると後ろから「気をつけてね」という不安そうな声が聞こえてきた。私は、その声にもう一度、礼をすると今度こそ部屋から出た。



◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉



地下室へは、大して迷うことなく辿り着くことができた。昨日、ラールックさんに詳しいことを聞いていなかったので不安だったが自分でも驚くほど、すんなりと目的地に着くことができてよかった。

迷うかもしれないと思っていた不安が、今度はラールックさんの部屋に入ることへの不安に変わる。だが、このまま部屋の前で突っ立ってる訳にもいかず、私は深呼吸すると意を決して扉を叩いた。

心の準備をするまでも無く、開かれた扉に心臓がビクンッと嫌な音を立てた。ラールックさんは、相変わらずの無表情だった。


「嗚呼、来ましたね。とりあえず、中へ入ってください」

「は、はい」


中へ招かれるなり、ドサっと手に衣類を持たされる。そこには、ラールックさんが着ているものと同じ白黒色のメイド服が乗せられていた。


「真逆と思いますが、そんな汚れた格好で家を歩くつもりですか」

「す、すみません。この服しか持っていなくて」

「そうでした、燃えたんでしたね。貴方の部屋になる予定だった場所に、着替えを用意していますから、それを持ち帰るように」

「あ、ありがとうございます」


私の着替え、用意してくれていたんだ。例え、ラールックさんが命令で動いただけだとしても、私に対して良い感情を持っていない彼女が用意してくれたことが嬉しかった。

大丈夫、怖がることはない。ラールックさんは、私を嫌っていても仕事を疎かにするような人じゃないんだ。ラールックさんと、もしかしたら仲良くできるかもしれないと少し思った。


「仕事の時は、今渡した服を着るようにしてください」

「はい」

「それから、私は旦那様に命じられて貴方を教育するに過ぎませんので、仲良くしようなんて考えなくて良いです。貴方も察しているとは思いますが、私は貴方が嫌いです。仕事以外での関わりは極力避けますから、そのつもりで」

「‥‥‥わかりました」


私の仲良くできるかも、という思いはあっという間に砕かれた。まぁ、仕事では関わってくれると言うし支障がなければ良いか。

そんな風に考えていると、ラールックさんに背中を押され奥へ連れて行かれる。ラールックさんは「着替えてください」と言い置いて、何処かへ行ってしまった。

私が言われた通り、メイド服に身を包んだところでタイミングを見計らったようにラールックさんが戻ってきた。


「使用人の衣類の洗濯は五日に一度。休みは七日に一度。今日は丁度洗濯の日ですから、貴方の汚れた服を出しがてら場所を教えましょう」


ラールックさんは、矢継ぎ早に言うとスタスタと早歩きで部屋を出て行ってしまった。私は、洗濯物を持ち、慌てて彼女の背中を追いかける。途中の廊下で、何人かのメイドとすれ違うたびに蔑まれるような目で見つめられ居心地の悪さで俯く。

軈て洗濯部屋に着き、ラールックさんが既に仕事をしているメイドのひとりに話しかけた。


「この子の服も洗っておくように」

「ラールックさん、その方は?」

「今日からここで働くことになったダリアです」


私の名前を聞いた途端、困惑の表情をしたメイドたちの顔が明らかに嫌悪の表情に変わった。私にズカズカと近づき、洗濯物を引ったくるように取り上げると籠の中に投げつけた。


「ちょっと、汚いからこの籠の中に入れないで」

「ごめん、ごめん、これは洗濯っていうよりもゴミだものね」


そんな二人のメイドの会話を最後に、結局私の出した洗濯は床に投げつけられた。ラールックさんは、そんな二人の会話を無感情で聞き終えると何も言わずに洗濯部屋から出て行った。

私は、その間何も言えずに俯きながらラールックさんを追った。二人のメイドたちの睨みつけるような目が怖くて仕方なかった。

「大丈夫、上手くやっていける」と心の中で言い聞かせることだけが、今できる抵抗の全てだった。

どんな環境でも、初日って緊張しますよね。

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