赤く光るオーパーツ
私の胸には、不格好なネックレスが航空魔導大隊のドッグタグと共に下げられている。赤く光るオーパーツ。N503iSという文字が刻印されている二つ折りのそれには、中を開くと片面には液晶画面が、もう片面には呼出ボタンがひとつある。
五年前の春、郊外の迷宮からスタンピードが発生。対応が遅れ町は放棄を決定。十歳だった私は、父母、三つ下の弟と魔物たちの襲撃から逃げる途中、青オーガに追いつかれてしまった。魔物の恐怖を前にして、父母は私たちをかばって鬼の一撃を受け、倒れてしまう。
弟と二人、どうしようもなく呆然とする中、青鬼が憤怒の形相で目前に迫る。
恐怖に耐えられず、弟を抱きしめ、目をギュッとつぶってしまう。
が、魔物の叫喚が耳をつんざき、身体を抱き上げられる感触。
耳元で、
「大丈夫だ」
と優しい響きを感じる。
恐る恐る目を開けると、深紅色のマントをまとった冒険者が私たちを抱えてくれていた。
魔物は倒れている。
「お父さん、お母さんは残念だった。」
私たちを抱きかかえながら、彼はそう告げる。
「うぅぅっ。」
思わず嗚咽が漏れる。魔物から助かった安堵感と、両親を失った悲壮感が、ごちゃ混ぜになって襲ってくる。
「さあ、あの人と一緒に逃げるんだ。」
彼は、私たちを大分後方に降ろし、避難誘導中の冒険者に合図をしてそう声を掛けてきた。
「えっ?」
その瞬間、再度凄まじい不安感に襲われる。思わず、彼の袖をギュッと掴んで、不安な眼差しで彼を見上げてしまう。
彼と目が合う。深い茶色の瞳、黒い髪を短くそろえた精悍な顔つき。
「弟さんを守って」
深い慈愛の眼差しで、私を促す彼。
「……。」
が、足が動かない。彼の左腕にしがみつき俯いてしまう。
「心配だよね。不安だよね。でも弟さんを守ってあげて。」
私の硬直した手をとって、何かを手渡してくる。
「もし、危ないことがあったらこれを使って連絡してきて。」
私の手には、赤く光る魔道具が握られていた。
「本当に困ったら一度だけこれを使って。直ぐに駆けつける。」
「はぃ」
力強く、励ましてくれる彼の言葉に、うなずく。
あれから五年。私と弟は周りの方々に助けられ、不幸のどん底から立ち直れた。オーパーツに導かれ、魔法使いの才能が覚醒し、今は航空魔導大隊の一員として勤務している。
今も私の胸に下げられている、彼とのつながりを示す唯一のオーパーツ。これを使えば一度だけ彼に会える。彼に会いたい。が、それはもう少しだけ……。