第5話 首なし
家の中、銃弾を丁寧にピンセットで取り出すマリーに、上半身裸のハイグリーは邪魔しないよう痛いのを必死に我慢する。
慎重に銃弾を取り出し、バケツに入れる。
「取れたよ。後は消毒液で傷を洗って、ガーゼと包帯で血を止めようね」
マリーは救急箱から消毒液、コットン、ガーゼ、包帯を取り出し、コットンに消毒液を染み込ませ、血を拭いていき、傷口をキレイにする。
その後ガーゼで傷口を抑え、包帯を巻いた。
「はいこれでできあがり。しばらくは安静にしててね。じゃないと傷口が塞がらないから」
「分かった。でも最近僕をディワンの奴らが殺そうとしている。当然だよね。復讐相手が抵抗するのは」
ディワンには復讐するべき理由。
親兄弟を火事で殺し、自分をダンジョンに捨てたあいつらを許す必要など絶対にない。
燃えたぎる復讐心に駆られるハイグリーに、マリーはいつもの服に着替えながら、優しく微笑む。
「とりあえず、ごはん食べちゃお。ちゃんと手洗ってね」
「はーい」
ハイグリーは返事を返すと、左肩の痛みに耐えながら立ち上がり、追い剥ぎした服の布でマリーが作り直した大きな服に身を包み、手を洗うのだった。
朝。
ディワンから東に位置する国、バルロス。
ここはダンジョンを次々に制覇して来た騎士団が存在する。
騎士団長を務めるのは超人とも言える怪力を持つ男性、ギラン。
副騎士団長を務めるのは棒状の物ならなんでも槍として使える男性、ベン。
王座の間に呼び出されたギランは王に跪き、「お呼びでしょうか」と問いかける。
「うむ。ギラン騎士団長よ。そなたはダンジョンの怪人を知っているか?」
「ダンジョンの怪人? 噂には聞いたことはありますが」
ダンジョンの怪人の噂はバルロスでも広まっているが、それは恐怖の対象ではなく、作り話だと思われていることが多い。
「ディワン国からダンジョンの怪人の討伐を依頼された。どうやら噂は本当らしい。ギラン騎士団長、すぐに騎士を集めディワン国に迎え」
「ハッ、この任務、バルロス騎士団にかけて、必ずや遂行します」
ギランは王座の間を出ると、騎士達を外の広場に集合させるため、ベンにラッパを吹かせる。
早朝から起こされるも、ビシッとキレイな姿勢をした騎士達。
バルロス騎士団として姿勢は大事な物の1つ。
お客様に無礼がないよう、1から叩き直されている。
「今回の任務はディワン国を脅かす者、ダンジョンの怪人の討伐である。皆作り話などと笑ってしまうかもしれないが、ディワン国から正式に依頼が来た。全員、直ちに馬車に乗ってディワンに向かうぞ」
『はい!』
騎士達は指令を受け、一斉に準備された2台の馬車に乗り込み、ギランとベンも分かれて乗り込む。
「「ハッア!」」
2人の馬車の御者に手綱を引かれ、馬達は「ヒヒーン!」と鳴きながらディワンに向け、走り出した。
月の輝く夜、焚き火で騎士達と御者が温まりながら、野菜スープを食べる。
「ギラン騎士団長」
できたての熱い野菜スープを、火傷を顧みずぐびぐびと飲むギランを呼ぶベン。
「どうしたベン副騎士団長」
野菜を木製のスプーンで掻き込み、ギランは口を手の甲で拭く。
「個人的な話なんですけど、私の弟がディワンのダンジョンで行方不明になったんです」
「それはまた不幸な。しかしあくまで我々の目的はダンジョンの怪人の討伐だぞ」
「分かっています。私は復讐などと言う愚かな考えを捨て、ダンジョンの怪人に挑む所存です」
ベンは心のそこでは弟を探したいと思っている。
だがそれを追求するほど、ギランは残酷ではない。
真剣な眼差しでベンを見つめ、彼のウソを受け止める。
「そうか、なら手早く食事を済ませろ。メンタルケアを担当するお前がメンタルをやられたらたまったもんじゃない」
「ギラン騎士団長は?」
「見張りだ、ここらへんには魔物が多いからな。1時間毎に交代する。ベン、お前も含めてるぞ」
「心得ました」
野菜スープでホッとしながら、ベンが絶景の星空を見上げていると、慌てたように見張りをしていた1人の騎士が駆け込んで来た。
「大変です! 首なしの騎士の大軍が襲撃して来ました!」
「なんだと! 総員! 襲撃に備えろ!」
スープの入った器を地面に置き、騎士達は剣を鞘から引き抜く。
ギランも背中に背負った鋼の刃の大剣を左手で鞘から引き抜き、ベンは鋼の槍を手にし、全員戦闘態勢に入る。
現れたのは首がない騎士のアンデット。
通称ノーネックナイトの大軍だった。
先頭には3頭の黒きユニコーンに跨り、右手には牙が彫り込まれ、短い角が装飾されている兜を被った頭を抱え、金色の大剣を左手で軽々と持つ巨大なデュラハン。
魔王軍四天王の1人。
その名はデュナイツ。
今まで首を刎ねた人間は数知れず、首なしの死体を死霊術でノーネックナイトに変えることで部下を増やしている。
「かかれ!」
デュナイツの掛け声でバルロス騎士団に襲いかかるノーネックナイトの大軍。
それに対してバルロス騎士団は数で負けようとも、騎士としてのプライドをかけて立ち向かう。
ぶつかり合う剣と剣から鈍い音がし、ここに戦いが始まるのだった。