第4話 遠吠え
『ワオーン!!!!』
遠吠えを上げ、一斉に襲いかかるワーウルフ達。
ハイグリーは闇魔法で黒き鎧を身に纏い、剣を右手に構え、迎え討つ。
だがダンジョンで撃たれた傷が痛み、歯をくいしばる。
その素速さに翻弄され、殴られ、蹴られ、倒れ込むハイグリーを、容赦なく踏みつけ、大きく口を開き、喰らい付こうとする。
「下級モンスターだけを仕留めてきた奴に、我々を倒すことは不可能だ! 」
「あぁそうかい。ならその考えが間違っていることを証明してやる」
「なに?」
ハイグリーの黒き鎧の隙間からガスが発生すると、ワーウルフ全員がその匂いで毒だと認識、すぐさまバックステップで彼から離れる。
(こいつ!? わざと我々に距離を詰めさせたな!?)
この身体能力がなければ毒にやられ、死んでいた。
そう思うと、身震いが止まらない。
「僕は人に復讐したいんだ。そのためにお前達は邪魔なんだよ」
魔力で足の筋力を強化し、地面を踏みしめ、ハイグリーはまるで馬の走りを思わせるスピードで走り出す。
ガスを放出しながらの突撃、それは死を振りまく病魔を思わせた。
思うように攻撃を仕掛けられないワーウルフ達を、赤い瞳をしたカラスが見つめている。
鳴き声を上げるカラスにワーウルフの2匹は気がつき、足を止めた。
「あれは、サイバーフィン様が作られた機械仕掛けのカラス」
「助かった。あいつに魔王軍の真の恐ろしさを味あわせてもらおう」
彼らは勝利を確信した。
「おい、お前達!」
「「うん?」」
不思議そうにボスの声の方を振り向くと、ハイグリーのガスを吸ってしまい、泡を吹いて命を絶った。
カラスはそれを見て、嘴を開ける。
すると口元から銃口が出てきた。
ハイグリーに狙いを定め、銃口から銃弾を放つ。
だが黒き鎧の装甲は銃弾を弾き、逆に位置を把握された。
「そこか」
剣をカラスに向けて、ハイグリーは投げつける。
しかし縦に回転をかけた剣をカラスは瞬時に攻撃と判断し、高く飛び上がり、その場から逃げていった。
剣は枝にぶつかり跳ね返ると、地面に突き刺さった。
剣をハイグリーは引き抜き、痛みに苦しみながら、ワーウルフ達を睨みつける。
「こいつの魔力が切れた時が勝負だ。気合い入れろ!」
『おう!』
魔力切れを狙うワーウルフ達。
それに対してハイグリーは焦りを覚える。
「その前にお前達を殺す」
走り出す敵から逃げ回るワーウルフ達には足の速さに自信がある。
ガスが迫り来るこの現状に恐怖しながら、ひたすらに逃げる。
「ならこれでどうだ」
猟銃にガスを注入し、ワーウルフ達に銃口を向ける。
引き金を引くと、ガスが球弾が如く飛んで行き、ワーウルフの1匹に接触、苦しみに悶え、その場に倒れ込んだ。
「こいつ、あんなこともできるのか」
「だがそれも魔力が切れれば大したことはない、野郎共! 絶対に死ぬんじゃないぞ!」
ボスの指示に従い、ワーウルフ達は必死に駆け回る。
夕陽に照らされる森の中、駆け出す1つの小さな人影。
それに気づいた頃には首元から出血していた。
その光景を見たハイグリーはガスを放出するのをやめ、幻覚でも見ているのかと錯覚する。
なぜならワーウルフを漆黒の刃のナイフで殺害するマリーの姿がそこにあったからだ。
ツギハギのローブで殺した者の返り血を防ぎ、皮の手袋でナイフの血を拭う。
家にいる時の華やかだった服とは明らかに違う狂気染みた服装。
しかしハイグリーにとって別に彼女がモンスターを倒していることは問題ではない。
問題なのは。
「マリー、なんでここにいるの?」
ハイグリーの質問に、襲いかかって来たワーウルフの首元をナイフで斬り、マリーは皮製の手袋で血を拭う。
「ごはん作ってたら銃声が聞こえたの。もしかしてと思って来たらハイグリーがあいつらに襲われてるから」
「ありがとう。やっぱり僕はマリーがいないとダメだな」
まさか彼女に助けてもらうなんて、ハイグリーは自分をなんとも情けないと感じる。
「だから前から言ってるけど、それでいいの。だから一緒にモンスターを片付けよ」
優しく、そして信頼できる彼女の言葉とにこやかな笑顔に、ハイグリーにとって癒し以上の物を与えた。
遠吠えを上げ、襲いかかって来るワーウルフ達を容赦なく2人は斬っていく。
「こいつら、すばしっこ…………」
敵の首元を切り裂くマリー。
敵を右手の剣で両断するハイグリー。
その光景はまさに地獄絵図。
死体が次々とできていき、森が血で染まっていく。
「チクショウーーーーーー!」
最後に生き残ったワーウルフが、死ぬ覚悟でマリーに向かって襲いかかる。
それに対してハイグリーはマリーの前に立ち、右斜めに剣を振るう。
すれ違い様、ワーウルフの腹に大きな傷ができ、血を吹き出しながら命を絶った。
敵をすべて倒したと確信し、ハイグリーは黒き鎧を解除すると、銃弾を受けた左肩の傷が酷く炎症しているのが分かる。
「大変! 早く治療しないと腕が腐っちゃう!」
慌ただしくマリーはナイフを皮のホルスターにしまい、ハイグリーの傷を治すため、急いで家に帰るのだった。