第3話 黒き鎧
剣を構えるハイグリーに、向かって来る猟犬4匹。
(そこか)
狩人は猟犬が獲物を発見したのを感知し、猟銃を向け、発砲する。
銃弾を左肩に受け、激痛に叫びを上げるハイグリー。
(匂いで分かってしまうなら、あれを使うか)
戦況を見極め、デッドインビジブルを解除、姿を現す。
(こいつがダンジョンの怪人。魔法が使える追い剥ぎだったか。それが分かればこっちの物)
銃弾を込め、再び銃口をハイグリーに向ける。
猟犬が牙を向けると、突然ハイグリーの体が黒き魔力に包み込まれ、鎧になる。
(なに?)
驚く狩人だったが、そんなこともつい知らず、愚かにも猟犬はハイグリーに襲いかかる。
一斉に噛み付いたが、あまりの鎧の硬さに牙が欠ける。
さらに鎧の隙間から紫の煙が立ち込めた。
煙を嗅いだ猟犬は忽ち息を引き取っていく。
「クッ」
動揺しながらも、狩人は猟銃の引き金を引き、銃弾を撃ち出す。
だが鎧の装甲は硬く、弾かれた。
「お前も犬共と同じところへ送ってやる」
ゆっくりと近づいて来るハイグリーに、狩人は全速力でダンジョンを逃げ出す。
(こんな強い化け物に初心者の冒険者達が殺されたのか!? 銃弾が効かない奴に勝てるわけないだろ!)
ひたすらに走る狩人。
だが…………
「逃がさん!」
ハイグリーが投げた剣が狩人の背中に命中、その場に倒れる。
剣を強引に引き抜かれ、そのショックで狩人は死亡した。
「さて、ダンジョンを攻略しないと」
狩人の遺体から猟銃と銃弾を追い剥ぎし、ハイグリーは先に進んだ。
「ボス! 大変でさあ!」
オークがこのダンジョンのボスであるミノタウロスに報告しに来ると、「どうした?」とボスは問いかける。
「弱い奴らとは明らかに違う奴がダンジョンを攻略しに来ました!」
「まさか、ダンジョンの怪人の噂は本当だったのか」
「なんですか? そのダンジョンの怪人って?」
不思議そうに首を傾げていると、門がゆっくりと開く。
「きっ、来たー!?」
怯えるオークをよそに、ミノタウロスはバトルアックスを両手に構え、鼻息を立てる。
入って来たハイグリーはなにも言わず、さっき追い剥ぎした猟銃の銃口を慣れない手つきでミノタウロスに向ける。
「ウオー!」
叫びを上げ、襲いかかるミノタウロス。
(こいつを弾けば)
ハイグリーは引き金を弾き、放たれる銃弾。
銃弾はミノタウロスの心臓部に命中するが、それでも止まらない。
バトルアックスを振るわれたが、難なくバックステップで躱し、猟銃を背中に担ぎ、剣を片手に突っ込んで行く。
(まさか学校で習った技を使う事になるなんて。まあいい。これも生活のため)
学校で剣術を学んでいた事があるハイグリー。
ここまで生き残れたのも、この醜い顔をした自分を他の生徒と同じく剣術を教えてくれた教師のおかげ。
例え恩を仇で返すことになろうとも、生きるためなら………
(そしてマリーのためなら!)
剣を両手に持ち、突進する。
黒きオーラを刃に包み込ませ、すれ違いざま、ミノタウロスの腹に十字傷を付けた。
「ボッ、ボスー!?」
十字傷から大量の血液が流れ、ミノタウロスは膝をつく。
「こっ、この程度で…………」
「ボス!? 後ろ!?」
「分かって…………」
その続きを言おうとした時には、すでに首が斬り落とされていた。
「ボ…………」
オークは心臓部をハイグリーの猟銃で撃たれ、その場に倒れた。
「僕は生きる。この程度のモンスターに負けるわけにはいかないんだ」
マリーのために死ぬことは許されない。
自分に言い聞かせ、今まで生きて来た。
彼女と両想いだと知ってからずっと。
「お腹空いたなぁ。このへんでお昼にしようか」
そう言って闇魔法を解くと、バッグから、マリー特製のハムとレタスとチーズの大きなサンドイッチを取り出す。
「おっと、マナーマナー」
ハイグリーはマリーの言いつけを守り、仮面を外し、サンドイッチを食べ始める。
(この大きいパンに挟まれた食材達が、ケンカしないで仲良く口の中に入ってくれる。さすがはマリーだぁ)
食事を存分に楽しみたいが、撃たれた傷が急に痛み出し、集中できない。
(治療魔法は習ったけど、僕には使えないから、後でマリーに治療してもらおう)
こうしてハイグリーは食事を済ませると、このダンジョンの宝箱を激痛に耐えながら担ぎ上げ、その場を後にするのだった。
オレンジ色に染まる空を見上げ、仮面を被った復讐者は「早く帰ることになるなぁ」とマリーに申し訳ないと思いながら森の中を歩く。
すると、どこからか遠吠えが聞こえてくる。
宝箱を置き、闇魔法で黒き鎧に身を包む。
剣を右手に持ち、辺りを警戒する。
現れたのはワーウルフの群れだった。
「僕になんの用だ」
ハイグリーが質問すると、ボスであろう赤い毛皮のワーウルフが爪を見せつける。
「お前、この辺りのダンジョンを片っ端から襲ってるだろ」
「冒険者と戦わないで済むんだからお礼を言ってほしい」
「ふざけるな! お前のせいでここら周辺のダンジョンは壊滅しちまった! 魔王様はお怒りなんだよ!」
「知ったことか。僕はディワンの人間に復讐を果たせればそれで満足なんだよ」
ワーウルフ達はハイグリーの言葉に激怒し、一斉に襲いかかるのだった。