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ダンジョンの怪人  作者: ガトリングレックス
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第28話 苦しみ

バロン。

彼は魂達に拘束され、動けないまま3人を取り逃がした。

英雄としてのプライドを傷つけられ、なおかつ大きくの被害を出した。

騎士達の遺体、市民の引き攣った表情、血で汚れた国。

これまでもそんな光景を何度も見てきた。

慣れてしまった。

肥えてしまったその目は狂い、そして心が次の戦いを望んでしまう。


4日前、バルロス国の騎士達に呼び出され、魔王軍との戦争に参加させられた。

それは自分にとって好都合だった。

戦う事ができる。

こんなにも嬉しいことはない。


「まさかメカニカルリーダーの部下であるお前がこの戦争に出るとはな」


バロンはレラーイを差し置いて、ハイグリーに視線を合わせる。


「僕はもうサイバーフィンの部下じゃない。それに戦争なんてやりたくないことをやるんだ。少しは落ち着かせてくれ」


彼との対話を避ける様に、ハイグリーは部屋を出ようとする。


「名前を聞かせてくれ。俺だけ名乗っておいて恥ずかしいだろ」


通りすがりにそう言われ、「ふん」と鼻息を立てる。


「僕はハイグリー、みんなからはダンジョンの怪人って言われてる」


「ダンジョンの怪人…………そうか、お前が噂の」


「もういいだろ。僕は部屋に戻る」


脱力感と共に部屋へ戻ろうとしたその時。

話を盗み聞きしていたであろう黒人の少年が壁に背中を預けているのが目に留まった。


「ドラ、お前も趣味が悪いな」


バロンが呆れながら声をかけた相手。

それは彼の新しい機械仕掛けの鎧、キャノンファングの乗組員、ドラである。


「バロンさんが悪いんだよ。急に部屋から居なくなるから」


「すまなかった。紹介する。彼はドラ、今回の戦争で共に戦う俺の相棒だ」


ハイグリーの姿をジーと見つめるドラ。


「なんだよ。顔になにか付いてるのか?」


「いや、もう人間やめてんだなぁと思ってさ」


その発言に対して、「そうかい」とめんどくさそうに部屋に戻って行く。

何を言っても無駄だと理解しているから。

仲間だと思うつもりはない。

仲良くするつもりはない。

ただダンジョンの怪人は求めていた。

この戦争の終わりを。

それが勝ちでも負けでもどうでもいい。

マリーと幸せな生活が送れれば。

玄関を閉め、鍵を閉めると、顔を左手で抑え、辛そうにベッドに横になった。


しばらくして、ノックの音が聞こえてくる。


「ハイグリー、戻ったよー」


マリーの声でゆっくりと立ち上がり、苦しそうに唸りながら玄関を開けるとマリーが抱きついてきた。


「ただいまー!」


「おかえり」


笑みを浮かべるが、鉄のマスクで見えない。

その光景を見て、3姉妹はゾッとする。

だが表情には出さない。


(ウソ。この人がマリーさんの旦那さん!?)


(怪人を通り越して怪物にしか見えない)


(なんなのあの化け物!? 威圧感がすごいんだけど!?)


想像以上の怪物らしさを持つハイグリーの姿に、恐怖を覚える。


「うん? あの子達は誰?」


視線が合い、ピクリと身震いさせる。

しかし見た目だけで判断するのはよくないとは思う。

ただこう言う相手に対し、どう接すればいいのかが分からない。


「紹介するね。銭湯に行く間に知り合ったお姉さん達だよ」


「始めまして、私は長女のバーンと申します」


「次女のエクスです」


「こんばんは。三女のミニアです」


3人のハキハキとした挨拶に、ハイグリーは不思議と笑みがこぼれる。


「僕はハイグリー。マリーが世話になったね。ありがとう」


母から教えてもらった。

挨拶には笑みを浮かべ、丁寧に挨拶を返しなさいと。

初めてだった。

この教えが通じる相手がいるのは。


「いえいえ、こちらこそ、あなたみたいな優しく出迎えてくれる方に会えて光栄です」


バーンがハイグリーに握手を要求すると、「ちょっと待って」と右手の平を向けて止める。


「どうしました?」


「先にマリーに体を拭いてもらわないと、せっかく温泉入ったのに汚れちゃうでしょ?」


「ハイグリー、せっかく握手してもらえるのにその言い方はないでしょ。バーンお姉さんごめんなさい」


頬を膨らませ、マリーは彼を注意、バーンに頭を下げて謝罪する。


「いいんですよ。ハイグリーさんは紳士なんですね」


「いや。僕はただ自分の醜さを自覚してるだけだよ。それにこの姿になってからお風呂に入れなくなった。だからマリーに洗ってもらわないと体が錆びる」


右手を拳にし、自分の醜さを呪う。

すると過去に潜むダングスの人格が、今になって現れた。


(君はこのままで良いのか? サイバーフィン様の元へ戻れば、僕達を目の(かたき)にしている奴らを皆殺しにできるんだぞ?)


(死んだも同然のお前が、今更現れるな。反吐が出る)


マリーの騎士の魂の次は自分自身の記憶の悪魔。

これほどの精神を痛めつける要因があると、頭が痛くなる。

頭を左手で抑え、苦しそうに唸る。


「ハイグリー? どうしたの? なにかあった?」


心配そうに見つめるマリーに、彼の猿の様な目がぎょろぎょろと動く。


「ごめん、僕のもう1人の自分が僕に呼びかけてくるんだ。それを抑えるのに時間がかかる………」


その発言に対して、彼女は優しい笑みを見せる。


「大丈夫だよ、だって私がいるじゃない。お姉さん達、ハイグリーは具合が悪いみたいなんだ。だから明日また会おうね」


その嫁の表情は笑っているが、それは夫を支え、守るための偽りの笑み。

実に可愛そうなんだろうか。

明日は戦争だと言うのに、自分より夫を優先するその姿勢。

追い剥ぎであり、怪物に成り果てた者を愛するその愚かさ。


そう目に映った3姉妹は責めて表情だけはと笑みを浮かべる。


「はい。じゃあまた明日」


「お大事に」


「ハイグリーさん、マリーさん、会えて嬉しかったです」


そう言う自分達も作られた怪物であることを明かせずにいる。

そんな彼女らはマリーとハイグリーに申し訳なさを感じるのだった。

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