第26話 否定
バルロス国の城に到着したのは次の日の夕方。
マリーを人質にされたまま、ハイグリーとレラーイはため息を吐きながら城の王の間に入る。
「これはまた恐ろしい者達を連れて来たな」
「しかし、戦力には十分かと思いますが……」
王の不満そうな表情に、騎士は冷静に返答する。
「確かに戦力を集めろとは言った。だがダンジョンの怪人とその仲間を連れて来ることを予想できると思うか? 冒険者を殺して来たあのダンジョンの怪人だぞ」
王の発言は正しい。
ハイグリー達は確かに魔王軍の四天王の1人であるデュナイツとサイバーフィンの部下達を倒し、相手の戦力を削ぎ落とした。
だがそれは冒険者達がいればなんとかなった話。
もしもハイグリーが冒険者達を殺戮しなければもっと早く済んだのだろう。
「まあいい、戦力は多くいることに越したことはない。彼らを宿に連れて行け。料金は私が払う」
そう言って王は金貨が入った布製の袋をレラーイに手渡し、玉座に座る。
「分かりました。では行くぞ、ついて来い」
3人は騎士に連れられ、宿屋に泊まることになる。
ハイグリーとマリーは同じ部屋で、レラーイはその隣だ。
ベッドに腰掛けたマリーは罪悪感から泣き出してしまった。
「ハイグリーごめんね…………私…………私…………」
「マリーは悪くないよ。人を殺して、金品を盗んでる。僕が全部悪いんだ」
2人の中で王の言葉が過ぎる。
ダンジョンの怪人であるハイグリーが、普通の生活できる訳がない。
犯罪を積み重ねた彼は側から見ればただの追い剥ぎなのだから。
「温泉に入って来なよ。スッキリして明日に備えた方が良い」
「うっ…………うっ…………ハイグリーが言うなら…………」
ハンカチで涙を拭い、マリーはベッドからゆっくりと立ち上がり、金貨と着替えを持って、ドアの鍵を開け、部屋を出た。
宿屋から出て、近くの案内板を見て、銭湯の位置を確認する。
(ここから結構近くなんだ。早くお風呂済ませてハイグリーの体を拭いてあげないと)
彼女が銭湯の方へ向かおうとすると、後ろから「ちょっとあなた」と女性の声に呼び止められる。
「うん?」
後ろを振り返ると、そこには10代後半ぐらいで、3人の金髪で赤い瞳を持つ赤き鎧を身につけた少女達が立っていた。
「あなたも銭湯行くんですか? 良かったら一緒に行きませんか?」
1番歳上に見える長い髪の少女が近づいて来ると、マリーの背に合わせて、膝を曲げ、優しい笑みを浮かべる。
「バーンお姉様、相手はダンジョンの怪人の仲間ですよ」
2番目に歳上そうなアホ毛が特徴的であり、髪を結んだ少女が姉に忠告する。
「そうですよぉ。ここの王にも言われた通り、彼女はダンジョンの怪人を庇ってきた罪人なんですから」
1番歳下であろう馬の様な癖っ毛がある短い髪の少女も姉に続いてマリーの事を拒絶する。
「エクス、ミニア、なんですか共に戦う同士にその口の利き方は」
「「申し訳ございません」」
2人の謝罪にバーンと言われた少女は右腕をスナップする。
「すいません、家の姉妹が無礼な事を言ってしまって。私はバーンと言います。ほら、あなた達も挨拶しなさい」
ため息を吐くアホ毛の少女は(どうしてこんな奴に)と思いながら挨拶をし始める。
「私はエクス、これからよろしくお願いします」
癖っ毛の少女も続いて口を開く。
「私はミニアです。共に戦う者同士、頑張りましょう」
心にもないことを言われることはマリーも分かっていた。
だが戦争で共に戦う仲間として、印象を良くし、信頼を勝ち取らなければ、ハイグリーがここにいてはいけなくなる。
「私はマリー、こちらこそ頑張ろうね!」
エクスとミニアにとって彼女のその発言と無邪気な笑顔は意外な物だった。
てっきりグレて捻くれたことを言うかと思っていた。
(なんて言うか、ちゃんと女の子してるなぁ)
(いや、相手はあの追い剥ぎの相棒。油断してはいつやられるか分かったもんじゃない)
ミニアは信じたが、エクスは疑っている。
とりあえずここで話をしてても銭湯にはいけないので、バーンは姿勢を正し、手を叩く。
「さあ、銭湯に行きましょう。早くしないと閉まってしまいますよ」
3人に着いて行き、マリーは偽りの笑みを浮かべながら、銭湯に向かうのだった。
銭湯はここから歩いて5分ほど、そこは材木でできており、ザ・和風な建物。
「いらっしゃい! おっ、今日はもう1人お客様が来てくれたか!」
「嬉しいねぇ。お嬢ちゃん達みたいな若い子達がいつも来てくれると華やかになってみんな喜ぶよぉ」
中に入ると、60代の白髪の男性とその嫁の60代の黒髪の女性が迎え入れてくれた。
夫婦は最近毎日来てくれる若者に喜びで笑みがこぼれる。
初めて来たマリーが殺し屋の娘であり、殺人鬼と同居しているとも知らずに。
「いえいえ、いつも素晴らしい温泉に浸からせていただき光栄です」
バーンは笑みに対して同じく笑みを返し、4人共列に並んで金貨を夫婦に渡す。
赤い暖簾を通ると、これまた和風な着替え室があり、服や鎧を脱ぎ始める。
ロッカーに荷物を入れると、マリーは視線を3姉妹に向ける。
大きな胸、細すぎず太すぎない腹部、すらっとした足。
これが歳相応と言うやつだろうか?
「私だって成長期なんだから。大きくなったら絶対あーなるもん」
小声で悔しがりながら右手で拳を作ると、3姉妹と一緒に温泉にタオルを持って入るのだった。




