第25話 騎士
ここはマリーとハイグリーの家。
ハイグリーは薪を集め、家に運んで行く。
機械化した体で大量の薪を運ぶのは容易いことだ。
置き場に積み上げ、疲れた様子もなく、玄関のドアをノックする。
「マリー、帰ったよー」
「はーい」
鍵が開けられ、愛しの彼女の姿が現れる。
「お疲れ様」
「ありがとう、手を洗…………いや、洗ったら僕錆びちゃうか」
鋼鉄の斬鬼となった彼の体は水で洗うと錆びてしまう。
汚れてしまった手を洗うにはアルコール消毒液が必要となる。
そのため、マリーはわざわざ東に位置するバルロス国に足を運び、購入しなくてはならない。
遠い国であるが故に、1週間分の食材や消耗品を買うのは骨が折れる作業だ。
運行されている大型の馬車に乗り、帰る際、多くの荷物を持っていると変な目で見られる。
「とりあえず中に入って、いつ魔王軍に来られるか分からないでしょ?」
「分かった」
今や魔王軍に狙われるようになった2人は緊張感を持って生活をしている。
家の中に入り、スプレーに入ったアルコール消毒液をマリーがハイグリーの手にシュッシュッと吹きかける。
手を念入りに消毒し、テーブルの席に座る。
「ハイグリー、最近怪しい人影を見かけるんだけど、見たことある?」
テーブルの上にマリーは腕をだらんと背伸びをし、ハイグリーに質問すると、左腕の肘を上に立て頭を支え、記憶を呼び起こす。
「そういえば、鎧を着た人間がここら辺をウロウロしてたよ」
「やっぱり!」
大声で叫ぶ彼女に、彼は「あー、なるほど」と納得で右手で左手をポンと叩く。
「多分ハイグリーを倒すためにバルロス国が送った騎士達だよ。ダンジョンの怪人を討伐しろなんて命令されて」
「それならここで始末するだけさ。ちょっと待ってて、武器を持って来る」
2人が対話していると、玄関からノック音と共に金属が擦れる音が聞こえてくる。
この音をハイグリーは騎士達が攻めに来たとも取れた。
「さっそく来たね」
手の甲の刃を飛び出させ、戦闘準備に入る。
「うん、私達の獲物になりに」
ホルスターからリーガーを左手で持ち、マリーは玄関の鍵を開け、ゆっくりとドアノブを回す。
ドアを開けると、やはり騎士の姿がそこにはあった。
騎士の人数は4人、今のハイグリーなら簡単に殺害できる。
その突進は猛牛が如く、騎士に突っ込んでいく。
突然の不意打ちにも慌てず、騎士達は玄関の壁に張り付き、ハイグリーの攻撃を回避する。
「落ち着け、我々は君達に頼みがあって来たんだ」
後ろを振り返り、彼は右手の刃の先を騎士達に向ける。
「頼み? 今更なんだ? 僕みたいな殺人鬼に、騎士様が頼み事なんてないだろ」
「確かに、ダンジョンの怪人である君に頼み事をするなんて、正直したくはない。だがこれは王の命令だ。彼女もいるんだろう、同行してもらおうか」
騎士の指示に、玄関からゆっくりと出て来たマリーを見て、目を丸くする。
「マリー、なんで出て来たの?」
「ハイグリー、この人達に従おうよ。魔王軍に狙われてる訳だし、国に守ってもらった方が良いと思う」
マリーの発言に呆然としたが、それは3秒間ほど。
すぐにその言葉を理解し、「分かったよ」と降参した様子で左手の甲の刃を収納するだった。
森を抜けるとそこには2台の馬車があり、右の方に乗せられる。
そこにはレラーイの姿があった。
「レラーイ先生!」
「おー、ハイグリーもマリーも呼ばれてたのか」
ハイグリーはレラーイの隣に座り、後に続くようにハイグリーの隣にマリーが座る。
「「はぁ!」」
御者が掛け声と共に、手綱を引き、馬を走らせる。
ガタガタと道を進んで行きながら、騎士の1人が目的を話し始める。
「今回君達を呼んだのは、魔王軍の討伐のためだ。我々と共に戦ってもらいたい」
騎士の話に、レラーイは目を細め、威圧しながら口を開く。
「つまり俺達は参加したくもない戦争をやらされるのか? 王がそんな横暴をしていい訳がないだろう」
「我々は戦力を必要としている。君達の様な戦える人材が必要なんだ」
その発言はハイグリーにとって皮肉にしか聞こえない。
冒険者を殺し、人材を消してきたのは自分なのだから。
「お願いだ。共に戦ってくれ」
騎士の説得に、3人は困った様に顔を歪ませる。
「どうするハイグリー」
「そう言われても困りますよレラーイ先生」
レラーイとハイグリーが悩んでいると、マリーは決意を固め、真剣な表情で騎士に話しかける。
「いいよ。私は戦う」
「マリー!? 僕達が戦う必要なんて!?」
「ハイグリーの言う通りだ、俺達平民が戦争する様な時代じゃない。そうだろう、バルロス騎士団の魂達」
レラーイは気づいていた。
彼女がデュナイツに殺されたバルロス騎士団の魂達に操られている事を。
「良く気づいたな。彼女の姿を借りれば、お前達を戦争に誘導できると思ったんだが」
マリーの声で放たれるギランの発言。
気づけなかった。
彼女の仮面を被った、騎士の亡霊に。
ハイグリーは左手を拳に変え、気づけなかった愚かな自分を呪いながら頬を殴る。
「なんで、なんで痛みを感じないんだよ」
「メカニカルリーダーに作られた死体人形は攻撃に怯まないために痛みを感じないよう、改造を施させる。お前は1度死んだ。ダンジョンの怪人もただの人間だった。それだけの話だろう。ハハハハハ!」
マリーであり、マリーではない者の笑い声が馬車に響き渡る。
レラーイとハイグリーはこれは頼みではなく、脅迫なのだとようやく気付くのだった。




