第16話 詠唱
「私は間違ってない!」
「幼いなぁ。まるでおもちゃを取られた子どもの様に幼い」
武器から聞こえてくる得体も知れない声に考えを否定され、マリーは歯をくいしばると、サウズを皮製の手袋で拭う。
そして刃先をモンスター達に向ける。
闇のオーラが千本の刃となり、モンスターに方向を合わせる。
「サウザンド・ダークネスブレイド!」
彼女の掛け声で闇の刃がモンスター達を貫いて行く。
その光景を見て、リーガーは呆れた様にため息を吐いた。
「所有者は技は強大だが心はひ弱だ。お世辞にも前の所有者を超えているとは言えんな」
「黙ってて!」
怒りが収まらないマリーの姿を見て、ハイグリーは向かって来るモンスターを叩き潰し、彼女の元へ駆け寄る。
そして言った。
「僕がマリーを怒らせた。それが嫉妬なら、誤解を解かなきゃならない」
「誤解!? 私は誤解なんてしてない! だって私が悪いんだもん! 勝手に嫉妬して! 勝手に怒ってる!こんな女怖いでしょ!」
興奮状態の彼女を放っておけず、大剣を鞘に納め、お姫様抱っこする。
「ハ、ハイグリー!?」
「レラーイ先生、僕はマリーと主が居ると思われる城に向かいます。後で合流しましょう」
ハイグリーの発言に、レラーイはモンスターを十字斬りすると、言うと思ったと言わんばかりに鼻を鳴らす。
「分かった。彼女を頼むぞ」
「はい!」
真剣な眼差しで返事を返し、大きく聳え立つ城に向かって走り出した。
モンスター達に追いかけられつつ、門をタックルでぶち壊し、城へ侵入すると、そこには機械で構成された巨大なゴーレムが待ち構えていた。
強靭な両腕の大砲から2人に向かって鉄球が発射されると、ハイグリーはマリーを上に放り投げる。
「くらえー!」
彼女はリーガーの銃口をむき出しになっているゴーレムの関節に向け、トリガーを弾く。
関節から爆発を引き起こし、身動きが取れなくなった鉄くずに向かってハイグリーは大剣を鞘から引き抜きながら足を踏みしめ、魔力による筋力強化によって跳ね上がったジャンプ力で敵の高き背まで飛び上がる。
「邪魔だーーーーー!!!」
振りかぶられた大剣を勢いよく振り下ろし、急落下していく。
両断されるゴーレムの体からオイルが噴射しながら、バランスを崩し、後ろに崩れ落ちた。
刃こぼれした大剣を放り捨て、落下して来るマリーを両手でキャッチする。
「ハイグリー、こいつがここの主だったのかなぁ?」
「いや、油断しちゃいけない。国を支配する存在が、ここまでの奴じゃないことは確かだよ」
注意を呼びかけつつ、ハイグリーは彼女を降ろすと、拳と足に魔力を集中させ、主との戦いに備えた。
かつて玉座の間だったであろう部屋に乗り込むと、そこには漆黒の兜と鎧を身に付けた騎士が玉座に座っていた。
部屋には剣が何千本もロープで吊るされており、騎士のホームグラウンドになっている。
だがそれはハイグリーにとって都合がいいことだった。
騎士は重々しく立ち上がると、なにやら高速で詠唱を始める。
「お前達は物、我は使用者。感情を持たぬ物はすべて我の使用物なり。部外者の排除を仕留めよ」
しかし待ってられるかと言わんばかりにハイグリーは吊るされた剣を掴み取り、勢いそのままに斬りかかる。
刃が当たる寸前、なんと剣達がひとりでに動き出し、ハイグリー達に襲いかかった。
(しまった!?)
このままではマリーが剣によって串刺しになってしまう。
その時だった。
突然、サウズの闇のオーラが刃となり、剣を弾き返すと、逆に刃を粉砕する。
その光景を見たリーガーは、サウズのあまりの過保護さに呆れを覚える。
「サウズよ。この程度の心持ちの所有者など見殺しにすればいい物を」
その発言に、口を閉ざしていたサウズも、感情が高ぶり、怒りの叫びを上げる。
「お前にマリーのなにが分かる! 確かに所有者はまだ未熟だ! しかしお前はなにも知らないくせにマリーのすべてを語るんじゃない!」
サウズの少女にも似た激怒の連呼。
それに対してリーガーは自分とのギャップに驚く。
「落ち着け。俺はただ事実を言っただけだ」
「事実だと! 言っているだろう! お前にマリーのなにが分かると!」
武器同士の喧嘩が勃発し、マリーはあたふたしていると、剣の束が魚群の様に集まって襲いかかる。
だがサウズの黒き刃がすべての剣を粉砕し、その隙にリーガーの銃口を騎士に向け、撃ち放つ。
騎士が再び高速で詠唱を始める。
「お前達は物、我は使用者。感情を持たぬ物はすべて我の使用物なり。我を守れ」
詠唱が終わると剣が周りに集まり、銃弾を防いだ。
(こいつは詠唱をすることで自由に何千本もある剣を操ることができる。学校で習った物を浮かせる魔法の応用。だったら)
考えをまとめたハイグリーは魔力を温存するため、鎧を解除し、詠唱を始める。
「お前達は物、我は使用者。感情を持たぬ物はすべて我の使用物なり。元の使用者を裏切り、マリーの復讐相手の場所を吐かせよ」
詠唱が終了し、大量の剣が騎士に無意識に牙を向く。
「まずい! お前達は物…………」
「もう遅い」
一斉に剣が騎士を壁に貼り付け、拘束するのだった。




