第15話 嫉妬
旅に出てから1時間。
国の成れの果てに到着、秒殺の死神の情報を集めることに。
「モンスター達の気配がする」
「四天王によって支配された国は、モンスター達の住処になるからなぁ」
モンスター達がいつどこで襲って来るか分からない。
警戒をしつつ、この国の主を探す。
「ハイグリー」
「うん? マリーどうした…………の?」
マリーに呼ばれ、ハイグリーは視線を彼女に向けると、なにやら顔を赤らめ、もじもじしている。
「まさか、トイレ?」
「うんうん!」
首を縦に勢いよく何回も振る姿を見て、ハイグリーは思わずため息を吐く。
「仕方ない。レラーイ先生、マリーがトイレだそうです」
「なにー!?」
女の子であるマリーがトイレに行きたい。
茂みや壁に立ちションなどができない女性にとって深刻な状況だ。
こんなところでお漏らしなんてされたらたまったもんじゃない。
「とりあえずトイレを探すぞ。近くの家の中を片っ端から探すんだ」
「分かりました。行こうマリー、トイレを見つけてあげる」
トイレの捜索が始まり、現れたモンスターを蹴散らし、家の中に侵入する。
辺りを見回すと、目的の場所にたどり着いた。
「行ってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
マリーは急いでトイレに駆け込み、ベルトを外し、ズボンを下ろす。
まるで椅子取りゲームでもやっているかの様に慌てて便座に座る。
「ふうー」
落ち着いて尿をたす彼女を守るため、ハイグリーは魔力を黒き鎧として身に纏い、大剣を背中の鞘から、レラーイは剣を右手で左腰の鞘から引き抜き、構える。
すると案の定灰色の鱗をしたリザードマンがドアを開け、入ってきた。
「お前達か、侵入者って奴は」
左手の金属製の盾に取り付けられた鞘からサーベルを右手で引き抜くと、長い舌を伸ばし、引っ込める。
足を踏みしめ、走り出すリザードマンはサーベルを振りかぶる。
(ふん。その動き、なっちゃいないなぁ)
受けて習えと言わんばかりにレラーイは魔法で自身の筋力を強化。
体に負荷をかけないよう肉体と骨の耐久度を上げ、剣を左手に持ち替えると、リザードマンに向かって走り出す。
「テリャー!」
「甘い!」
振り下ろされるサーベルを手の甲で弾き飛ばし、高く飛び上がると天井を踏み台にして突っ込んで行く。
慌ててリザードマンは盾で剣による攻撃を防ごうとした。
次の瞬間。
ハイグリーが近づいて来ていたことに気づいた時には、体が盾ごと大剣で叩き潰され、ジャムが完成していた。
スッキリしたようにトイレからマリーが出て来る。
「お待たせ〜」
陽気な声を上げると、リザードマンの死体を見て、敵が来たことを確認する。
確実に敵はこちらに向かっていると考えると、目的に遠ざかる気がしてならない。
「ここから離れましょうレラーイ先生。このまま籠城していると危険だと思います」
「そうだな。よし2人共、おそらく主がいるのはこの国の城だ。そこに向かうぞ」
レラーイの言動は確かに正論だ。
だがマリーには気にくわないところがある。
それはいつからリーダーになったつもりなのかと言うこと。
ハイグリーの教師でしかも歳上。
だが子どもである彼女にとっては親でもなければ親戚でもない、ましてや友達でもない赤の他人の指示に従うほどの理解力は持ち合わせていない。
「なんであなたの言うことを聞かなきゃいけないの?」
反論するマリーに、ハイグリーは「うん?」と唸りながら彼女の方へ視線を向ける。
「マリー、僕が思うにレラーイ先生の言ってることは正しいよ。ダンジョンでもそうだけど、大体のボスは大きい部屋にいるんだ。この原理で行くと城にいる確立はかなり高い」
「ハイグリーがそう言うなら」
ハイグリーの説明に、ふてくされながら納得するマリー。
家の中を出るとご機嫌斜めの彼女を、ハイグリーは不思議に思いながら、大剣の血を払った。
先に進んで行くにつれてモンスターの数が増していく。
(レラーイ先生に会ってからマリーの様子が変だなぁ。もしかして僕が先生の言うことを聞いているから? そうだとしたらそれはマリーの『ワガママ』だと思う)
戦闘中の彼女はまるで怒りをモンスターにぶつける様に白きソードガン、リーガーを乱射する。
さらに腰を低くし、足を踏みしめ加速、黒きナイフ、サウズで次々と敵の首を斬り裂く。
(ハイグリーは、ハイグリーは私の大事な人。結婚したいぐらい愛してる。あんな教師なんかに渡さない。絶対に)
焦り、怒り、勘違い、それがマリーを侵食し、狂わせる。
それに対してリーガーに住む魔物が、今目を覚ます。
「お前は我の新しき所有者か? 随分と歪んだ愛をしているな」
魔物の男性声にマリーはビクッと足を止める。
「誰? 私を呼んだの」
「これは失礼。我はリーガー。所有者に付き従うモンスターと言って差し支えない」
話を聞きながら、マリーは弾切れのマガジンを取り出し、リーガーをリロードする。
ハイグリーはリーガーの声に気づいたが、モンスターの襲撃を受け、彼女に気が回らない。
「所有者よ。お前はあの大男を愛している。その関係を邪魔する者がいる。だがそれは勘違いだ」
「あなたはなにが言いたいわけ?」
「あの男に嫉妬しているのだろう。その矛先が間違っていると言っているんだ」
その言葉を否定したい自分。
認めざるをえない自分。
考えがこんがらがったマリーは、叫びに近い声を上げ、モンスターに向けてリーガーを乱射するのだった。




