第14話 変化
朝。
約束通り武器屋の前で、ハイグリー、マリー、レラーイの冒険が始まろうとしていた。
レラーイはジャケットの右ポケットから地図を取り出し、広げて2人に見せる。
「まずあいつを探すならここから北側に行く必要がある。なぜなら首なしの死体がそこに密集してるからだ」
「なるほど。かなり長い旅になりそうですね」
地図を確認し、歩き出す3人の覚悟はとても硬い。
(絶対にあいつを殺してやるんだから)
その決意は心を蝕む。
彼女を壊す。
彼女を侵食していく。
ハイグリーの愛していたマリーを変えてしまうほど、この冒険は残酷な物になるのだった。
一方その頃、復讐対象にされているデュナイツは、ダキスロンに昨日救いだされた彼女の住む同居部屋に向かっていた。
彼女のあの魔王軍に対しての敵視したあの態度。
それが災いを呼び、他の者に危害を加えられてないか心配なのだ。
とっ、彼女の部屋の前に四天王1人が陣取っている。
緑の鱗に覆われた女性、長く赤い髪、龍を思わせる黄色き瞳、鉄で作られた丈の短い鎧、布製のズボンを皮製のベルトで止めており、矢が入った筒を背負っている。
どうやら通す気はないようだ。
「ベール。俺がここに来ることを分かっていたのか? もしかしてなにか勘違いしてるんじゃないだろうなぁ?」
「お前と言う奴は四天王の自覚がない。あの女性に惹かれているのがその証拠だ」
まるでデュナイツが名前も分からない女性に恋心を抱いているような口振り。
「はっ?」
なにを言っているのか、これだから勘違いされると困る。
「ハハハハハ、ベールは乙女乙女してるなぁ」
「とぼけるな。こんな朝方に女性の部屋に足を運ぶなど、破廉恥なことをするために決まっている」
真剣な表情でしかも指を差してそんなことを言って恥ずかしくないのか。
デュナイツはベールの部下が可愛そうに見えてくる。
「お前がどう思おうと勝手だ。だが同じ四天王として言っておく。自覚がなければ俺は人間共を操り人形にし、部下として従えてないさ」
そう言ってベールをその大きな右手でつまみ上げ、後ろにゆっくりと降ろす。
「お前ほどの男が言い訳か。まったく。変わったなデュナイツ」
「見苦しいぞベール」
ベールの勘違いはさておいて、デュナイツはドアをノックしようとした。
とっ、身作りをして出て来た目的の女性に、思わずため息を吐く秒殺の死神。
2人の四天王を間近に見て、彼女は恐怖で冷や汗をかきながら真逆の方へ逃げ出す。
しかしベールは壁を駆け、女性の前に着地し、デュナイツと挟み撃ちにする。
「どこへ行くつもりだ?」
「いっ、いえ、買い出しに向かおうと………」
「買い出しはお前の役割ではなかったはずだ。確かそう。調理係だっただろう」
一般人クラスのモンスターには戦闘を行わせるのではなく、掃除洗濯、料理などをしてもらい、給料を与える。
最初は戸惑い、家に帰りたいと願う。
しかしその家は魔王軍の支配下に置かれているため、帰ることは許されない。
「城を出るのは一向に構わない、無理やり連れて帰ったことを詫びる。だがお前だって今の状況を分かっているだろう」
「デベです。私の名前はデベと言います」
「デベ、良い名だ」
彼女の恐怖の表情を緩和するため、デベと名乗った彼女に跪く。
それを見てベールは呆れたように肩を下ろす。
かつて残虐非道だったデュナイツが、四天王になり、魔物の保護とメンタルケアを命じられてからと言う物、まるでジャックナイフがバターナイフに成り下がったかの様に、言動が丸くなってしまった。
それが魔王の命令であるとはいえ、あの頃が一番輝いていた。
ライバルだったあの頃がとても懐かしく思う。
(ただ人間を殺す殺戮者であればそれで良かった。あの頃のデュナイツは帰って来ない)
切ない、実に切ない。
人とはこうも変われてしまうのか。
失望に近い感情が芽生えてくる。
「デベ、俺はお前が住んでいた国を確かに侵略した。モンスターが住む場所を作るために」
「そんなの、そんなのただの言い訳です! あのまま普通に暮らして居たかった! あなたのせいでどんだけの命が奪われたと思っているんですか!」
怒鳴り散らすデベに、デュナイツは高笑いを上げる。
「命か。俺には人間の命を奪うことしか脳がない。だから1つだけ言えることがある」
「…………?」
首を傾げるデベを差し置いて、ダキスロンが出撃の時間を知らせに駆けて来る。
そしてデュナイツは立ち上がり、後ろを振り返り、口を動かした。
「モンスターに産まれたことを幸福だと思え。俺の殺害対象でなかったことを光栄だと思え。もしお前が人間だったら、その口を黙らせるために容赦なく首を刎ねているところだ。待たせたなダキスロン。殺戮の時間だ」
そう言ってその場からいなくなるデュナイツ。
まさにその言葉をベールは待っていた。
「そう、そうだデュナイツ! お前はそうでなければ面白くない! デベよ。お前は我々に対して無礼なことをした。だが今回は見逃してやる」
ご機嫌そうにベールは鼻歌を歌いながらその場を立ち去った。
その姿を見て、デベは唾を飲み、緊張が解け、膝をつくのだった。




