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ヒロインなんてお呼びではないのです。

ヒロインなんてお呼びではないのです。~王太子はかく思う~

作者: 池中織奈

ヒロインなんてお呼びではないのです、の王太子視点。

 俺の婚約者であるニニラ・タガラッドは昔からおかしな少女だった。

 この国の王太子である俺の婚約者候補として、年の近い娘達が集められた中にいたニニラ。興味がなさそうに集まりに顔を出していたようなのに、俺を見た瞬間にその表情が変わった。

 なぜか興奮したように顔を輝かせて、俺の事を大好きだと言う事を隠しもしない様子だった。それに加えて、婚約者候補を集めたお茶会の中で「アルセイ様のお嫁さんになる」と堂々と言い放ったのには正直度肝を抜かれた。何も知らずに口にしているのかと思ったが、どうやらそうでもなく周りの反応もすべて把握した上で言い放ったのはその年に似合わないニヤリと笑った表情で分かった。

 まず、その段階で俺はニニラの事を面白いと思っていた。俺より年下にも関わらず、大人びた思考を持っている。だけれども子供らしい一面も持っていて、俺が少しでも笑いかけるとすぐに興奮する。顔を赤くしたり、ころころと表情が変わって面白かった。それに、俺の前でなければこんな風に態度が変わらないのだと周りから聞いていて、気分がよかったのもある。

 元々の婚約の最有力候補はニニラの姉であるアニラだったのだが、ニニラがどうしても俺と婚約をしたい! と言い放っていたのと、アニラが俺の婚約者になる事に執着しなかったためニニラが俺の最有力婚約者候補となった。他の令嬢に色々とちょっかいはかけられていたらしいが、ニニラは俺に何も言うことなくせっせと一人で対応していたそうだ。

「アルセイ様、私はアルセイ様を幸せにしてみせますわ!!」

 普通、それは男の言う台詞ではないかと思う発言を言い放ったニニラの事を俺は面白いと気に入っていたし、一心に俺だけを見つめる瞳が心地よかった。

 それからニニラは「アルセイ様のために頑張ります」という言葉通りに、正妃として相応しくあるための勉強を続けていた。それだけではない、ある時、「魔王を屈服させてきます」などと驚く事を言い放った。

 なんでも信じられない事に魔王が復活するらしい。正直何を言っているんだと思ったが、あまりにも真剣なのでニニラの話に耳を傾けた。ニニラが言うには魔王が復活して、俺は魔王退治に駆り出される可能性があるらしい。それでニニラは俺がそんな危険な旅に出なくていいようにしたいんだとか。

 色々と突っ込みどころが満載だったが、ニニラは本気の目をしていた。本気の目をしているニニラが嘘を吐かないことを俺は知っている。というか、ニニラは俺に一切嘘をつかない。だから、本当なのだと思う。

 それにニニラは何処を目指しているのかわからないが、魔法を学び、剣も学び、俺以上の強さを持ち合わせていた。俺も魔法や剣を学んでいるものの、ニニラには現状及ばない。婚約者候補のニニラに負けているのが悔しくて鍛錬しているのもあって、俺も歴代最強の王太子とかこっぱずかしい呼び名がついているのに。

 ニニラは気づいたら傍にいたりする。王宮には簡単に入れないはずなのに気づいたら傍にいたり。王宮の警備は一切ニニラに通じてなかった。ニニラは落とそうと思えば国を落とせるほど強かった。そのため父上にはニニラをどうしても婚約者にして、お前に夢中にさせるのだと言われていた。……まぁ、ニニラがとてつもない力を持っているのは事実だったが俺は恐ろしいとは思っていなかった。

「ニニラ」

「ア、アルセイ様、ちちちち、近いです!!」

 俺が顔を近づけただけで顔を真っ赤にして後ずさるニニラは、幾ら強くても、俺にとっては年下の女の子でしかなかったから。それにその力が俺に向けられることはないという信頼があった。

 そしてある時、魔王を屈服させると言っていたニニラは本当に魔王を屈服させていた。あれは下僕というのだろうか。ニニラの事を崇拝している目で見ていて、俺の事を気に入らないという目で見ていた。ニニラに恋愛なのか、尊敬なのか、定かではないが特別な感情を抱いているのが分かった。なんだかそれも嫌だった。

 ニニラをうまく引き離して(俺が頼み事をして)、魔王と模擬戦をした事もある。そこでどうにか魔王が俺を認めたのもあってニニラとの婚約を正式に発表する事になった。本当は魔王に勝ちたかったけど、勝てなかった。意地を見せたのもあって魔王が認めてくれたが――……そのあたりで俺はニニラの事を、ちゃんと好きなのだという事に気づいた。


 ニニラは正式に婚約者になってからも、自由気ままだった。俺の事を大好きだという気持ちを隠そうともしないで、俺に邪魔になりそうなものを排除しながら、にこにこと笑っていた。


 ニニラが十六歳になって魔法学園に入学したころ、面倒な少女が編入してきた。

 俺に対していろいろな事を吹き込んできた。どうやら王妃になりたいようで、庶子にも関わらずニニラを蹴落とそうと考えていたようだ。なんて、命知らずな。と思ったのが正直な感想だ。だってあのニニラだ。

 あのニニラから俺を奪おうと考えて、ニニラと敵対しようとしているなんて、死にたいのかとしか言いようがない。ああ、でも嫉妬するニニラを見るのは俺としてみれば楽しいかもしれない。

 魔王の事もどうたら言っていたけれど、魔王は復活もなにもニニラの傍にいるし。そもそもニニラと結婚しない選択肢は俺にはない。

「ふふふ、アルセイ様の手を煩わせる存在はすぐに排除しますわ」

「……ニニラ、やりすぎないようにね?」

 俺の事になると感情豊かになって、怒りを表しているニニラに正直口元が緩みそうになったが、やりすぎも困るので一応そう言っておいた。

 ニニラは「はい、アルセイ様!」と元気に返事をして、俺の顔を見てへにゃりと笑っている。ニニラは俺の顔がかなり好きだ。見ているだけで幸せになるらしい。よく、じーっと見つめている。他の女だったら鬱陶しいかもしれないが、ニニラだから許している。

 まぁ、ニニラがどうにかする気満々なので俺はその少女に対してこちらからどうこうする気はなかった。拒否してもよってくる鋼のメンタルだし。

 ニニラの悪い噂とか流しているらしいけど、ニニラがどれだけ怖いかこの学園の生徒は知っているから変な噂を流そうとしていない。むしろ、俺に対して「し、死人が出るのでは」と心配したように言ってくる生徒が多々いる。ニニラの事を俺に止めてほしいみたいだが、俺はやりすぎなければ黙認する気満々である。

「主人公は私なのに」

「私の役目をニニラ様が!」

 なんかいろいろ訳が分からないことを少女が言っているというのも配下から聞いていたが、どうでもいい事なので放置していた。ニニラは悪い噂を流された分、やり返して噂をきっちり広めていた。

 ニニラは影響力が強いからすぐに広まる。

 結局、その少女はニニラに嫌がらせをされたとか言っていたが、自作自演だとニニラが証明していた。

 そして最終的には物理的に「敵対するなら殺す」と言い放って黙らせていた。さすが、ニニラ。

 学園でニニラがあれだけ怒ることは今までなかった。

 だからこそ学園の生徒たちはニニラを怖いとは思っていてもここまで恐ろしく強いとは思ってなかったのだ。ニニラが恐ろしい姿を見せたと言う事で回りはざわめいていた。

 中には、「あんな恐ろしい女性と結婚なんて」「よくできますね」などと言ってくる者もいた。大多数生徒がその思いを抱えているかもしれない。あとは魔王のようにニニラを崇拝する生徒も増えた。まぁ、父上たちでさえ恐れているぐらいだからおびえているのも仕方がないことだろう。

 そんなことを言ってくる生徒には、俺は笑顔で答えておいた。

「怖くないよ。ニニラが俺と敵対することはないから」

 ニニラは俺と敵対することはない。ニニラが力をつけたのは俺のためで、ニニラが力を振るうのも俺のため。俺はそれを知っているからニニラを怖いなんて思わない。それにニニラが生き生きと強さを見せつけているときだって、俺はそんなニニラの姿を美しいとさえ思う時がある。十七歳になったニニラは美しく成長している。戦っている姿は美しく、俺の目の前にいる姿は可愛い。

 そんなニニラを俺は怖いとは思わない。

「アルセイ様!!」

 俺の姿を見て、目を輝かせて寄ってくるニニラを正妃にする日の事を俺は心待ちにしているのだ。



 ――ヒロインなんてお呼びではないのです。~王太子はかく思う~

 (戦っている姿は美しく、俺の傍ではかわいらしいニニラがいるからほかの女はいらない)



というわけで希望もあったアルセイ視点です。

一気書きしました。書いていた楽しかったです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 取り敢えず、「ニニラ」が多すぎる。
[一言] 自身がニニラよりも劣る事を認めた上で彼女の純粋な想いを正面から受け止め、美しいと言ってのけるこの王子はスパダリと呼んでいいと思う。 本当に良い男は自分の力量を正確に把握して、卑屈にはならない…
[気になる点] 「続編のない短編」の続編? [一言] 前作読まなきゃ!
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