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やばい怖い  作者: ミニトン
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始まり始まり

 高校生二年生の春。この時期は将来の進路について深く考える学生が出てくる。

俺の通っている高校は県の中でも偏差値が高い進学校だ。そのため、進学を考えている生徒が多いらしい。毎年、校内の九割以上が進学するそうだ。

ちなみに、俺は高校を卒業した後、すぐ就職しようと思っている。就職希望なのに、なぜ進学校に入ったかと言うと、家が近かったからだ。

高校は俺の家から歩いて五分で坂の上にある。歌を二曲聴き終わらないうちに着いてしまうほどの近い。

そして今日はゴールデンウィーク明け一日目の登校日。休み明けでちょっと気分がよくいつもより早くアパートを出た。


 桜だ。ピンクの花が出す春というフワフワとした雰囲気がすごい気持ちいい。

 学校の前の坂に植えられている桜の木が俺を浮かれた気持ちにさせる。俺はこの気持ちのまま教室に入り、誰に声をかけられることもなく静かに席に座り、読書を始めた。

 桜の効果ってすごいな。いつもより本が面白いような気がする。

 

 本を読んでいるうちにチャイムが鳴り、ホームルームの時間になった。

 担任の佐藤(さとう)(やすし)先生がいつもより、陽気に入ってきて朝のホームルームが始まった。

これも桜の効果だろうか?

「えーっと、ホームルームが始まる前に‼ お前らに紹介したい人がいる‼」

 クラスの人達がざわざわと騒がしくなった。

「先生‼ その人って女性ですか⁉」

ある男子が大きな声を出して聞いた。

「女子だ‼ しかも、颯花高校からの転校生だ‼」

「「なにぃ‼ 有名なお嬢様女子高からだと‼」」

 先生の言葉を聞き、一斉に盛り上がる俺以外のクラスの男子達。それを聞いて、女子達が嫌な顔をする。

それもそうだろう。女子達からしたら、自分たちより可愛い子が入ってきたら人気がその子に持っていかれてしまう。これは、スクールカーストの降格を意味している。

 すると、このお祭り騒ぎを収めようとクラスのギャルが俺を利用しようとした。

「ちょっと男ども騒ぎすぎー。軽く動物園なんですけどぉ。佐伯(さえき)を見習いなよーめっちゃ落ち着いてるよー」

ギャルは俺のことを指さして言った。そして一旦、教室が静かになる。誰かの口から空気が漏れる音とともに笑い出すクラスの人達。

「ハハハハハッ。佐伯は、人間には興味ないんだよ。仕事を愛している高校生社畜なんだから」

 そう俺、佐伯(さえき)(ひろ)(たか)はクラスカースト最底辺の高校生社畜だ。

 ゲラゲラと気品なく笑っているクラスの人達を止めるように、先生が話を再開した。

「お前ら、静かにしろー。今から、転校生が入ってくるからちゃんと自己紹介を聞けよ」

 やれやれと、先生は困ったかおをしながら、教室のドアを開けた。そして、入ってきた女の子は予想外だった。黒くつやがある長い髪に胸も大きく、スタイルのいい陰キャ臭のするメガネっ子。教室の男子達は凍り付いた。そんな中、女の子はそのまま自己紹介を始めた。

「あのぉ、白石(しらいし)(みお)っていいます。よろしくお願いします」

 解凍されてきた男子達は不満そうな顔で先生を睨んだ。先生はクラスの男子の棘のある視線で我に返ったのか、静かになった。そのまま先生は、耐えられなくなり自分のつま先を見ていた。

きっと先生は桜の効果でテンションが上がっていたせいで、おかしくなったんだろうな。

「じゃあ、白石さんは佐伯の後ろの席に座ってくれ」

 先生の指示で今までいなかった俺の後ろの席に向かって白石さんが歩いてきた。白石さんはとても気まずそうな顔をしていた。

 そりゃあ、勝手に持ち上げられて、勝手に盛り下がられて気まずい雰囲気になったらこんな顔をするだろう。かわいそうだ。挨拶でもして、安心させてあげようかな。

 この時、先生だけではなく俺もまた、桜の効果でおかしくなっていた。

「初めまして、佐伯裕孝っていいます。よろしくね白石さん」

 俺が挨拶をした瞬間クラスがどよめいた。

「佐伯が、自ら人に声をかけるなんて……」「あいつ、人間に興味があったのか……」

 クラスの人達の言葉を聞いて、白石さんが察した。

「あっ、き、気を使っていただいてありがとうございます」

 この言葉を聞いた俺は、本来の自分を思い出した。いつも、仕事バイト中心でろくに人と関わりを持たない陰キャの俺を。


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