夏休みのシュウマツに
さーいご。あなたの夏休みも、もう答えはわかってるでしょ?
結果から言えば私は逃げることができた。
なんか、牢獄みたいな、病院みたいなところに私は今いる。
ここはとても心地がいい。
窓がない。故か外の空気も入ってこないし、太陽の光すら、ない。
外の雑音が、何も聞こえない。だから、耳がぐわんぐわんしない。眩むこともなくなった。
ドアはついているけれど、普通のドアじゃなかった。
ドアノブがないのだ。
こちらから出ることはできない。いや、許されていない。
それがとても、心底気持ちがいい。
「あはははッ!今日も楽しいなあ、ねえ、お姉ちゃん!」
「夏織、ごめんね、わかってあげられなくて、ごめんね」
「いいよ、大丈夫だよ。お姉ちゃんわかってくれたもんね。ここにいれてくれてありがとう」
お姉ちゃんと一緒に過ごすこの部屋は、誰かに支配されているのは明白で。
こんな世界にいたかった。
誰かに支配されてたかった。
私と、××と、そんな二人だけの世界で。誰も入ってこれないように支配する人がいて。
ほらね、“社会”はここに入ることはできない。
――――――――――――
「葉住夏織、16歳。人格が分裂し、一人会話をしていること、そして全くの他人を姉として殺害したことから現実世界との境界があいまい。…と。こりゃひどいな」
「どうしてここまで放置されてたんですかねえ…」
「殺された彼女、かわいそうに。葉住夏織のクラスメートだったそうだ」
「たまたま家に来てただけで殺されるなんてひどいですね。特にいじめられてたわけでもないらしいし」
「あれだな、面接すると相当学校が嫌いだったみたいだから」
「学校が嫌いであそこまでこじらせます?」
「学校を箱庭、教室を社会と言って、クラスメートをその社会にいるバカといわんばかりの口調なんだ。何があったのか知らんが、16歳であそこまでこじらせてると…怖いな」
「見下してるんですかね」
「そんな感じだな。でも…彼女が一番それを怖がっているのもわかる」
「それって…」
「逃げるために、ここにくるために、わざと殺したのかもしれないな」
―――――――――――――――
夏休みは毎日が戦場だった。
まわりは敵だらけで。殺されないように生きていく。上手に。
鳴りやまない蝉の声。
いつだって私を追いかけて、耳の中まで追いかけてた。
大嫌いな、蝉の声。
サイレン。みたいな。
だから、ね。
今、夏休みは終わりを告げた。
今、蝉の声は聞こえない。
ハッピーエンド、のつもり。いや、ハッピーエンドだよ?どっからどう見ても!